多くの企業がリモートワークを取り入れるなか、Dropbox(ドロップボックス)は、エージェンシーやパブリッシャー、さらには他業界のクリエイティブチームにおいて、高まるニーズを目の当たりにした。これを受け先月、同社が提供するメディア向けのクリエイティブツールに、新たな機能が追加された。
この3月、新型コロナウイルス感染症の大流行によって、街中のオフィスやスタジオが閉鎖に追い込まれた。こうした事態を受け、多くの企業がリモートワークを円滑に進めるためのテクノロジープラットフォームを、真剣に模索しはじめた。
その渦中、ファイルホスティングサービスのDropbox(ドロップボックス)は、エージェンシーやパブリッシャー、さらには他業界のクリエイティブチームにおいて、高まるニーズを目の当たりにした。これを受け先月、同社はメディア向けのクリエイティブツールに、新たな機能を追加。最高業務責任者(COO)のオリヴィア・ノッテボーム氏は、これらの機能により、リモートワークの日常化で生じた課題のいくつかを、取り除くことが可能であると強調している。
具体的に追加された機能は、最大250GBの大容量ファイルに対応する転送機能、動画ファイルにフレーム単位でコメントを付ける機能、ダウンロードせずに音声ファイルをプレビューする機能の3つだ。
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コロナ禍が突きつけるいくつもの課題に果敢に取り組み、ソリューションを提供してきた多くの企業同様、Dropboxもリモートワークが日常化した最初の数カ月間で、大きく成長した。同社の第2四半期の決算報告によると、6月末日現在の有料ユーザー数は1500万人。前年同期は1360万人だった。また、全体の収益も前年比16%増の4億6740万ドル(約490億円)となった。
さらに、コロナ禍に見舞われた当初、無料トライアルの開始件数は、個人ユーザーとチームユーザーを合わせて、コロナ禍以前のレベルより20%増加したという。
この数字について、ノッテボーム氏はこう述べている。「3月から4月にかけて、リモートワークや分散型のワークスタイルが急増したことが影響している。リモートワークを支えるテクノロジーや、その活用方法に関心を寄せる人は増えている」。
本稿では、クリエイティブ制作者が直面するリモートワークの課題と、ノッテボーム氏のチームによる解決への取り組み、さらにはクリエイティブ制作の未来像について、同氏に語ってもらった。
インタビューの内容は読みやすさのために若干の編集を加えている。
——Dropboxのプラットフォームを改良・拡張するにあたり、クリエイティブ制作者を重要な顧客と位置づけ、そのニーズを優先する理由は?
クリエイティブ制作者は、我々の顧客ベースの非常に大きな比率を占めている。Dropboxは彼らのような顧客ととも成長してきた。これからも、彼らのような顧客の仕事を支えるために、より一層努力を重ねていきたいと考えている。リモートワークや分散型オフィスが進む世界では、やるべきことがさくさんある。特にクリエイティブの領域では、いまだかつてないほどこのリモート化が極端に進行している。コロナ禍以前も、分散型のワークスタイルを取り入れたり、グローバルな連携を進める企業は見られたが、いま起きているのは大規模なパラダイムシフトだ。
——最近公開された一連のアドオンや新機能は、主にコロナ禍による変化に触発されたものか?
アドオンや新機能の追加を行なった背景には、ふたつの要素がある。クリエイティブの現場は確かに変化しているが、その原因はコロナ禍だけではない。それ以前から、テクノロジーの進歩や働き方の変化は起きており、クリエイティブ制作者たちは、多様なツールを効果的・効率的に使いこなすことを求められていた。
リモートワークを活用したグローバルな連携は、企業のあいだでこれまでも見られた。しかし今日、リモートワークは別の層に広がっている。以前は当然のように出社していた多くの人々が、出社しなくなったわけだから当然だ。たとえば大容量ファイルの転送機能は、こうした変化を受け必要になるだろうと考えた。
——コロナ禍中、どのようなクライアントからのニーズが増えた?
エクスポージャー(Exposure)はロンドン、ニューヨーク、パリにオフィスを構えるクリエイティブエージェンシーで、Dropbox Business(ドロップボックス・ビジネス)を、キャンペーンやプロジェクトの進行に活用している。最近、彼らはある携帯電話メーカーの新機種発売イベントを請け負った。これはもともと、リアルイベントとして企画されたらしいが、急遽オンラインイベントへの転換を余儀なくされたという。
この企画でエクスポージャーは、インフルエンサーを活用したのだが、彼らはDropboxを使って、スマートフォンからコンテンツを投稿していた。そのおかげで、エクスポージャーはスムーズに、編集作業をおこなうことができたという。また、投稿するインフルエンサーも、作品の制作と提出を容易に行うことができたので、余計な手間や算段に煩わされることなく、創造的な作業に専念できたと聞いている。
また、オーストラリアの独立系レコードレーベル、フューチャークラシック(Future Classic)との最初のコラボレーションでは、アーティストたちがアイデアや意見を交換し、コラボレーションする場創りを支援した。我々のパートナーシップがはじまったのは2018年。当初は複数のオフィスやアーティストのあいだで、基本的なファイル共有機能を利用するだけだった。しかし現在では、簡易表示やリモートコラボレーションに加えて、ファイル転送機能、プレビューモード、コメント機能などが活用されている。
——あなた自身チームリーダーであり、働き方について日常的に考える立場にある。コロナ禍はクリエイティブチームの共同作業にどれくらいの影響を与えていると考えている?
働き方は確かに変化している。誰もが複雑さや切迫感、リモートワークへの急速なシフトを実感している。しかし我々のミッションは、「スマートな働き方をデザインすること」だ。それゆえ我々は、こうした変化を前向きに捉えている。
我々は、新しい現実に直面した労働者が、仕事に集中できるように支援する手段を持っている。その手段を提供することは、我々にとって単なるビジネスチャンスであるだけでなく、義務でもある。
——この数カ月に増大したテクノロジーへの依存は、このまま定着すると思うか?
ワークスタイルの変革は、コロナ禍以前から話題になっていたトピックで、一部の人々は、リモートワークを推進する方法として、スタッフをテクノロジーに慣れ親しませることの重要性を理解していた。その点、技術的な習得に関しては、ここ数カ月誰もがブートキャンプさながらの短期集中講座に放り込まれたようなものだった。おかげで、いまではほとんどの人がテクノロジーを使いこなせる。これは素晴らしいことだ。
その結果として、いまや多くの人々が「週に数日しか出社したくない」「物理的なオフィスを持たない会社に就職したい」と、意思表示することに対して、世間は以前ほど不安や抵抗感を抱かなくなっている。ここ数カ月に我々が直面してきた状況、そしてこの先も続くであろうこの状況の所産として、将来的には、働き方に対する考え方が根本的に変化しているかもしれない。
——リモートワークという新世界を、あなたはどう見ているか?
未来は良い意味で、いまとは異なるだろう。なぜなら、リモートワークには実に素晴らしいメリットがいくつもあるからだ。なかでも一番のメリットは、多様な人材を確保し易くなること。経済活動の中心とされる場所でなくても優秀な人材は存在するし、リモートならそのような人々にも手が届く。サンフランシスコのベイエリアに住む必要もない。ニューヨークに住んで、高い生活費を払うのもごめんだ。さまざまな理由で地方に暮らす、素晴らしく優秀な人々を雇用することができる。
テクノロジーとは、このような人材へのアクセス、雇用やコラボレーション、チームの一員として迎えることを可能とするものだ。そこには未来を変える大きなチャンスがある。
[原文:’Creative work is changing’: How Dropbox is working to ease the future for creative team]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)