コンサルティング企業のエージェンシー業務への参入が、欧米の広告業界において関心事となっている。テクノロジーの活用や、サービスの包括性でコンサル勢に先んじられた状況を改善するため、「コンサルから学ぶべきだ」と主張する、デジタルエージェンシー経営者による寄稿コラム。
この記事は、英国のデジタルエージェンシー「ハヴァス・ワーク・クラブ」の最高経営責任者である、パディー・グリフィス氏による寄稿です。
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コンサルティング企業のエージェンシー業務への参入が話題となっている。
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デジタルシフトに乗り遅れ気味の既存代理店に対し、コンサル勢は戦略策定や税務などの得意分野のほか、テクノロジーや買収した広告制作部門などを活用して、包括的なサービスをクライアントに提供するようになったからだ。そこで、思うーー。
コンサル企業と広告代理店におけるマネジメントの違いとは何だろう。
簡単だ。コンサル企業は金を、我々代理店は創造性を産んでいる。というのが、答えだという人はいるだろう。
だが、おそらく、それは間違っている。というのも、それぞれのマーケットの上位企業を比較してみたのだ。
従業員数33万6000人のコンサル企業アクセンチュアの売上は318億ドルだが、従業員数17万9000人の英広告代理店WPPの売上は181億ドルだ。それぞれの売上を従業員数で割ると、広告業界人の売上は、ひとりあたり10万1000ドルに対して、コンサル業界人は9万5000ドルしかない。つまり、広告代理店のほうが収益性はいいのだ。
これは、あまり知られていないのではないか?
クリエイティビティは変化した
クリエイティビティ(創造性)についてはどうか。
代理店の現場や、その仕事内容については「より創造的」と思われているだろう。だが、ビジネスの現状は変わりつつある。誰かが「ザ・ビッグ・アイデア(ひらめいた)!」と叫ぶのを、最後に聞いたのはいつだったか?
かつて創造性と呼ばれていたものは、コンピュータの時代になり、ユーザー体験や情報配信、エコシステムやデータなどによって、新たなアウトプットへと激変していった。現代における創造性というのは、よりコンサルティング的な方向性を模索している。
一方、コンサル企業も、デザイン会社を買収し、広告業界畑から人材を起用するなど、我々に近づきつつある。アクセンチュアのシニア・パートナーは、私に次のような具体的な方法論を語ってくれた。「賢明で創造的な人を囲うために、代理店を買収することはあり得る。我々の場合、まだ、その段階まで、到達していないだけだ」。
コンサル企業は、デジタルテクノロジーを素早く賢く使う。それが、我々広告代理店との重要な違いだったとしたら、どうだろう。
コンサル企業は近代的なプロスポーツ・チームのようなのに、広告代理店は古き良きアマチュア時代を好んでいるかのようだ。コンサル企業は、組織的かつ起動的になるためにデジタルテクノロジーの導入に全面的に取り組んでいる。だが、広告代理店はいまだに自社の知名度や、組織のなかに散在する異能の人による仕事ぶりを頼みとしているのだ。
デジタル領域の運用で先行するコンサル
現代のようなデジタルビジネスの世界では、コンサル企業と代理店が、かつてなかったほどの競争状態にある。そこが問題なのだ。
最高マーケティング責任者はテクノロジーを取り入れ、最高技術責任者はマーケティングを実行する。そして両者ともに売ろうとしているのは、才能と時間なのである。もし我々がシェアを伸ばしていきたいのなら、デジタルシステムの導入で、開いてしまった差を埋めねばならない。そうすることで、我々は貴重な創造性を発揮できるのである。
代理店においては、テクノロジーを考える行為とは、コンピュータや電子メールやWi-Fi設定といった域を何とか越えるだけでしかないのが現状だ。付け加えるならば、IBMやアクセンチュア、あるいはFacebookやGoogleのような企業とは、違った世界にいる。組織が共有し、学び、コラボレートしていくのを可能とする、人材主体のビジネスこそが、最高の成長戦略であると、コンサル企業は見抜いているのだ。
アクセンチュアの従業員は、あらゆるオフィスもしくはクライアントの居所に足を踏み入れ、数分で組織全体の概要に接することができる。30万人以上の従業員が調べ上げる能力をもっているのだ。スキル、経験、実績、即応性をもって案件にあたる。
プロフェッショナルによるサービス企業としての収益性を牽引するには、チームを即座に編成し、派遣する能力が必要だ。透明性やバランスシートをもってすれば、マーケティングの世界で体験しがちな軋轢を経験することもない。
変化は知見を花開かせるチャンス
人材主体のビジネスで、もう1つの価値ある牽引役は、企業内学習だろう。
IBMには、世界的なイー・ラーニングのプログラムがある。そこでは数万人単位の従業員がログインすると同時に、毎週新しい情報を即座に盛り込んだ社内訓練モジュールを利用しているという。自らの中核的資産の価値を高めていくことが良いビジネスになるというのを知っている。そう、社員こそが、その資産なのだ。
私が経営するデジタルエージェンシー「ハヴァス」において、IBMやアクセンチュア、そしてWPPとすら比較できる材料は少ない。だが、自社が持つ知識や知見を開花させるのは、いまなお大きなチャレンジであり、好機でもあるといえるだろう。
ハヴァスが何をなすべきか自覚しているのであれば、その変化を止めるべきではない。第一歩として、ロンドンのハヴァスでは、来年1500人を新たに建設したビルに移す。けれど、建物が学んだり共有したり、コラボレートする術を教えてくれるわけではない。距離という摩擦を除いてくれるだけだ。
創造性だけでなく、ソフトウェアやテクノロジー、そしてロボットを、我々の知識やコラボレーションに活かしていくときこそが、真の勝利となるだろう。
Paddy Griffith(原文 / 訳:南如水)
photo by Thinkstock / Getty Images