ウォルラス(Walrus)など、メディア部門を強化するクリエイティブエージェンシーが増えている。クリエイティブとメディアのギャップを埋めるためのサービスを提供するためだ。だが、こうしたエージェンシーがメディアサービスをどこまで取り込めるか、アナリストやメディアエージェンシーは疑問視している。
ケビン・ポーター氏が2017年10月、クリエイティブエージェンシーのウォルラス(Walrus)にメディア部門責任者として参加したとき、与えられた大きなタスクのひとつは、同社のクライアントのためにメディアの購入、プランニング、戦略を管理するチームを作ることだった。
ポーター氏は複数のデジタルメディアストラテジストを雇用し、プログラマティック広告への専門知識を強化した。社内にメディア部門があると、クリエイティブチームがメディアチャンネルやユーザーの行動、コンテンツ、コンテクストをよりよく理解する助けになるだろう。ウォルラスの共同創設者で最高執行責任者(COO)のフランシス・ウェブスター氏は、「メディア部門が社内になければ、クライアントに対してサービスを半分しか提供できない」という。
ドローガ・ファイブ(Droga5)やワイデン・アンド・ケネディ(Wieden+Kennedy)などのクリエイティブエージェンシーも、クリエイティブとメディアのギャップを埋めるためのサービスを提供しはじめている。だが、こうしたエージェンシーがメディアサービスをどこまで取り込めるか、アナリストやメディアエージェンシーは疑問視している。
Advertisement
各エージェンシーの考え方
ワイデン・アンド・ケネディは2013年からメディア事業に取り組んでいる。ドローガ・ファイブは2016年10月からメディアプランニングサービスを提供している。ドローガ・ファイブのコミュニケーション戦略チームにいる33人のうちの15人ほどは、クライアントのためにメディアプランニングを行っている。同社のコミュニケーション戦略部門を率いるコリーン・レディー氏によると、これまでにクライアント5社のメディアプランニングを完了したという。
レディー氏はこう語る。「コンテンツと同じくらい、コンテクストが重要になっている。コミュニケーション戦略は、クリエイティブプランをどうやって、いつ発表するかを決めるものであるのに対し、メディアプランニングはまさに、アイデアをどこで使うかを決めるものだ」。
ウォルラスとは対照的に、ドローガ・ファイブはすぐにメディアバイイングに踏み込むつもりはない。メディアチャンネルのなかには、まだスケールやボリュームに依存しているものがあるからだと、レディー氏は語る。メディアはプログラマティックへと移行を続けており、その変遷も早いが、ドローガ・ファイブは数年で時代遅れになる可能性のあるインフラを作りたくはないと考えている。
「広告のビューアビリティ(可視性)や透明性もまた、現在苦労しているところであり、かなり重要な課題だ」とレディー氏は述べた。
とてつもないリスクを伴う
メディアエージェンシー、クロスメディア(Crossmedia)の最高経営責任者(CEO)であるカムラン・アスガル氏は、クリエイティブエージェンシーが社内にメディア部門を設けたがる理由はいくつかあると述べる。たとえば、クライアントは、クリエイティブへのアプローチ法を決める前に、自分たちのターゲットは誰なのか、彼らはどこにいるのかを知りたがる。一方で、メディアエージェンシーは投資やデータを可視化し、コントロールする力を持っていて、これがコミュニケーションを決定する原動力になるという。だが、クリエイティブエージェンシーは、メディアプランニングとメディアバイイングを過小評価しているかもしれない。
「メディアについては、ファーストパーティー、セカンドパーティー、サードパーティーのデータを深く理解する必要があるし、個々の顧客とアウトプットまたは体験とをリンクさせる高度な計測ソリューションも必要になる。メディアの購入についても、人力による交渉と機械による購入の組み合わせが必要だ」と、アスガル氏は説明する。
アスガル氏はさらに、メディアサービスを採り入れることには、アドフラウドやビューアビリティ、予算を超える支出、債務の連続など、とてつもないリスクを伴うと付け加えた。
ワンストップのエージェンシー
ピボタル(Pivotal)のシニアリサーチアナリストのブライアン・ウィーザー氏は、クリエイティブエージェンシーが社内にメディア部門を設けるトレンドに意味があるのか、疑わしいという。持ち株会社傘下のエージェンシーから離れて、ドローガ・ファイブやワイデン・アンド・ケネディ、72アンドサニー(72andSunny)のような独立系クリエイティブエージェンシーを使うようになったクライアントのなかには、統合型メディアを望むところもあるが、コスト削減という社内圧力のせいで、一流のクリエイティブにお金を払おうとする広告主は少ない。
「一般的に、メディアの全支出活動の大部分をグローバルネットワークが担っている。そのほうがメディアをはるかに安く購入できるからだ。メディアをグローバルなメディアエージェンシーからシフトするマーケターもいるかもしれないが、はっきりとわかる証拠を目にしたことはない」と、ウィーザー氏。
ウォルラスの場合、広告売り込みにおいてメディアエージェンシーと競争するつもりはないようだと、ウェブスター氏は語る。「ウォルラスが大手クライアントの名簿に載っていて、すでにメディアエージェンシーがあるなら、我々は喜んでクリエイティブエージェンシーとして仕事をする」と、ウェブスター氏。「最近、いくつかのクライアントが(メディアの提供を求めて)我々のもとへやってきた。100万ドルから1000万ドル(約1億〜10億円)のマーケティング予算を持つブランドが、ワンストップのエージェンシーを探しているのだ」。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)