ニューヨークで20年以上の経験をもつベテラン広告マン、マーク・ダフィ氏(54歳)がつづる、広告業界への濃厚なメッセージがこもった辛口エッセイ。これを読めば米広告業界の裏側がよく見えてくる? 連載第3回となる今回は、「広告制作会社のクリエイティブ部門において、もっともウザいやつは誰か?」を探し当てることだ。
このコラムの著者、マーク・ダフィ氏(54)は、広告業界を辛口批評する人気ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人で、現在、失業中のコピーライター。米大手Webメディア「Gawker」でも週刊コラムを担当し、直近では、世界一のバイラルメディア「BuzzFeed」に所属して「広告批評」記事を執筆していたが、2013年に解雇を通達された。
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先週のこと、またしても登場した「クレバー」な業界自滅Webサイトに、広告業界は揺れた。このサイト、「The Creative Director Douchebag Detector Device(ウザいクリエイティブディレクター検出器)」は、クリエイティブディレクター(以下CD)が「ウザ男」かどうかを「科学的に」解析するだけでなく、ウザ男のタイプまで教えてくれるらしい(女性のCD/ウザい女性の可能性については考慮していないようである)。
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私自身、完全無欠にウザいCDに会ったことがあるし(デビッド、君のことだよ)、かつての上司にもこのタイプがいた(デニス、久しぶり)。しかし、私が自分のキャリアの大部分を捧げたCDはウザ男ではなかった。だから、彼のもとで19年も働いたわけで(ポールうぅ〜)。
一般的に、クリエイティブ系のスタッフは、特に営業担当から、自分大好きなウザ杉野郎と思われている。ちなみに、営業担当はクリエイティブ系に二枚舌の爬虫類と見なされている。この亀裂は、近年はやや緩和されているようだが、これは広告代理店(特に「デジタル」エージェンシー)の人員すべて(営業含む)が広告「コンテンツ」の作成に関わるようになってきたからであろう。よろしくない広告文化のシフトである。
以下、広告クリエイティブ系御三家のウザすぎる動態例。
クリエイティブディレクター
広告業界を知らない人に、「クリエイティブディレクターって、何?」と、よく聞かれる。そして、「クリエイティブディレクターって、年収何十万ドルも稼ぐらしいけど、いったい何をする人なの?」と。
CDは、何も生み出さず、アイデアとか熱意とか生きる意欲とかを潰すのだけが専門の人である。大手代理店のCDには、人情とは無縁の、社内政治に長けた狸が多い。部下のアイデアをクライアントにプレゼンし、高評価を得れば手柄を我が物とし、ダメ出しされれば部下のせいにする(もともと自分が部下のアイデアにお墨付きをだしたくせに)、それがCDである。
金曜日午後3時のCD:「みんな、良い週末をね! 月曜の朝には新しいアイデアを見せてもらわないと困るよ」(と、エレベータのボタンを2回押す)。
2000万ドルの案件を勝ち取ったのは部下の企画。しかし、カリフォルニアでの撮影に出張するのはCD。高級ホテル「シャトーマーモント」に1週間滞在し、サーフィンに興じ、あえてモデルじゃない素人との出会いを目論むCD。部下のアイデアを、それが部下のアイデアであったとわからない程度に改変を加えるのもCDの得意技(部下にしてみれば、自分のポートフォリオに保存したいとは思えない代物に変わっている)。
毎日変わりばえしないプレーンなTシャツとジーンズで出勤するスタッフの服装を「クリエイティブさに欠ける」とバカにしているわりには、CD自身のファッションは完全に終わっている。いまだに黒のタートルとジーンズってどうよ? スティーブ・ジョブズどころか、細っこくて黒い木炭エンピツのような物体が歩いているようにしか見えない。『マッドメン』のドレイパーを見習って、スーツ着てろバーカ。
アートディレクター
広告業界で誰よりも泣き言が多いのがアートディレクター。「わ〜、僕より若いコピーライターの年収が、僕より1万ドルも多い〜。わ〜、僕のコンピュータ、最強マシンのくせにトロすぎ〜。わ〜、このウィンドウ、どうやったら消えるの〜。わ〜、僕は絵が描きたいだけなんだ〜」。校正を待たせておきながら、ヘルムート(仮名)は1個のドロップシャドウ(文字に影をつける効果)に何時間もかけている。そんな時間があったらスペリングのオンラインレッスンでも受けて欲しい。ボドニ書体についての君の意見なんか誰も聞いてないから。あと、ウェス・アンダーソンの構図が左右対称なのはわかったから、ビデオ送ってくるのはやめてくれ。それとー、句読点を勝手に取るんじゃねーよ!
おいスキンヘッド、覚えとけよ、コンセプトの99%を持ってくるコピーライターがいなかったら、お前の仕事なんかないんだよ? 仕事なかったらお前ホームレスだよ? 絵が描きたいだけなら、ホームレスになってからストリートの絵を好きなだけ描きゃいいだろ。広告は科学じゃないけど、芸術でもないんだよ! とにかく読めるレイアウトにしてくれ、もう夜遅いんだからさっさと仕上げて校正させろっての。
…怒鳴って悪かった、ごめん。その折り紙のイームズチェア、上手じゃん。でもヒーローもののフィギュアには似合わないから。
コピーライター
コピーライターは代理店のなかで、もっとも情緒不安定な人種であり、酢で締めたような超絶的にウザいオーラをまとっている。これがすべてを物語っているとは思うが、もうすこし具体的な話も付け加えよう。
作家デビューも夢ではない才能が自分にはあると勘違いして、広告代理店が舞台の小説を書いていたりするのがコピーライター。その小説が奇跡的に日の目を見たとしても、作家オーガステン・バロウズみたいに元同僚から訴えられるのがオチ。
コピーライターのウザい行動といえばこれ。翌日の午前中にプレゼンを控えた夕刻、コンセプトと文章は完成し、上司のオッケーも出たので、早々と帰り仕度を始めるコピーライター。レイアウト作業中のデザイン担当にすり寄り、小声で「きみの仕事には全幅の信頼を置いてるからネ。出来上がったらメールで送って、校正するから。帰りのタクシーは経費で払ってもらいなよ」(お先に、と抜け出す)。コピーライターがいかに楽をしているか、ある若いアートディレクターが2013年における米DIGIDAYのこの記事で、語っている。
皮肉な文言のTシャツは広告代理店につきものの伝染病だが、罹患率が最も高いのはコピーライターである。
評決
さて、クリエイティブ系で一番ウザいのは、上記御三家のうち誰か? 答えは簡単、該当なし。一番ウザいのは、ソーシャルメディアマネージャーである。
【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら】
Mark Duffy (原文 / 訳:片岡直子)
Photo by Thinkstock / Getty Images