ニューヨークで20年以上の経験をもつベテラン広告マン、マーク・ダフィ氏(54歳)がつづる、広告業界への濃厚なメッセージがこもった辛口エッセイ。これを読めば米広告業界の裏側がよく見えてくる? 今回のテーマは、乱発される『社会派広告』の意図。
――今の時代、ブランドは「ソーシャル」な存在である。つまり、「いいね」したり「フォロー」したり、さらには「Poke」だってできる存在なのだ。すばらしいね!
さらに、前世紀マーケティングの壁を取り払うべく、消費者に「コンテンツ」の共同作成者になってもらおうというブランド企業さえある(ユーザーにタダ働きさせるわけだ)。社会文化とか時事問題とか個人の習慣とか、そういったものに介入することが、ブランドには許されていると思っているらしい。
このコラムの著者、マーク・ダフィ氏(54)は、広告業界を辛口批評する人気ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人で、現在、失業中のコピーライター。米大手Webメディア「Gawker」でも週刊コラムを担当し、直近では、世界一のバイラルメディア「BuzzFeed」で「広告批評」記事を担当していたが、2013年に解雇を通達された。
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いまの時代、ブランドは「ソーシャル」な存在である。つまり、「いいね」したり「フォロー」したり、さらには「Poke」だってできる存在なのだ。すばらしいね!
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さらに、前世紀マーケティングの壁を取り払うべく、消費者に「コンテンツ」の共同作成者になってもらおうというブランド企業さえある(ユーザーにタダ働きさせるわけだ)。社会文化とか時事問題とか個人の習慣とか、そういったものに介入することが、ブランドには許されていると思っているらしい。
その結果として、ブランド企業が、自社ブランドとは何の関係もない社会問題を語る「フィルム」が増えてきている。「フィルム」の最後にはブランドのロゴを貼り付け、「ブランドX:社会問題X(人種差別の根絶、円満な結婚生活、世界平和、etc)のオフィシャルスポンサー」とでも言いたげに。
社会を論ずるとは、企業らしからぬ無私の姿勢と思われるかもしれないが、気をつけて欲しい。ブランドXは非営利団体ではないし、ブランドXの目指すものはただひとつ、ブランドXを売ることだけだ。
現在進行形の問題をテーマにしていいのか?
2015年5月、ペットフードのペディグリーは「Feed The Good(より良い世界を育てるフード)」グローバルキャンペーンのアメリカ版広告(BBDO New York制作)をリリースした。
このビデオ広告のコンセプトはこうだ。みんなが犬を飼ってペディグリーのペットフードを犬に食べさせれば、みんな仲良くなれる。要約すると「ペディグリーは人種差別を根絶する」。
ブラヴォー。当時、アメリカ国内の人種間の緊張がここ数年でもっとも高まっているなか、ペディグリーはフォックスハウンド犬の敏捷さで人種差別テーマに飛びついた。実際、現在進行形の問題を広告に利用するとは、さすがにやりすぎちゃいないだろうか。
せめてロゴを入れない配慮は欲しい
もうひとつ、最近の例をあげよう。2014年10月の、リジョイス(Rejoice)シャンプーの中国語スポットである(Leo Burnett Hong Kong製作)。警告:これは4分以上の「フィルム」なので覚悟して見るように。
個人的には、90秒以上の広告ビデオを見ないことにしている。常識的な長さに編集されていないブランドの「物語」など、見るに価するとは思えないからだ。私と同じく長ったらしい広告を見ない主義の読者にあらすじを紹介しよう。
中国では、昨年300万組のカップルが離婚し、そのうちほぼ10万組が、同じ相手と再婚したそうだが、「リジョイスブランドがお届けする絹のようになめらかな髪をした女性とは、どんな男性だって離婚を思いとどまるに決まっているのです」。つまり、女房の価値は髪で決まると。女性を馬鹿にした話だとは思いもしないようだ。
P&Gヘアケア製品の中華圏担当マーケティングマネージャであるテレンス・ラム氏は、この広告を擁護し、以下のように述べている。
「夫婦の間がどんなに困難な状況にあっても、仲直りできる美しい関係は可能だと我々は信じています。これは、離婚という社会現象に対し、我々が強く思うところであり、愛と美しい髪を追求するブランドにふさわしい立場だと思っています」。
長い髪と愛の象徴であるイエス・キリストも、リジョイスシャンプーを使っていたらローマ人に殺されることもなかっただろうさ。
両方とも、お手軽に雰囲気を醸し出せるモノクロ動画だが、少なくともリジョイス(P&G 製品) は製品イメージ/ロゴを付けていないので、そこは認めよう。
ものすごい再生回数を稼ぐ社会事象広告
もちろん、これ以外にも多くの穿った見方をしたくなる「社会派広告」が出回っている。代表的なのは、ロングランとなっているダヴのキャンペーン、「輝く女性になりたいコンプレックス」を利用した女性向け広告シリーズなのだろう。
なかには、少なくとも自社製品とメッセージを関連づけ、ちゃんとしたものを作ったケースも散見される。たとえば生理用品ブランドAlwaysの「Like A Girl」キャンペーンなどだ。
こうした社会事象広告は、一般的にものすごい再生回数を稼ぐので、これからも同じような広告が増える一方であろう。しかし、ブランドが社会問題に関心を持つのは、売り上げに貢献すれば、の話である。
ブランドは人間ではない。ブランドのTwitterがいかにフレンドリーであろうと、ブランドは消費者のお友達ではないのだ。ブランドとは、消費者に認知されるイメージ以外の何物でもなく、それがブランドとの「カンバセーション」のすべてである。
【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら】
Mark Duffy(原文 / 訳:片岡直子)
Image by 星野美緒(Original Photos of Thinkstock/Getty Images)