かつての広告代理店のスターは、インターネットに滅ぼされた。
「昔ながらの」広告は瀕死の状態である、あるいはすでに死んでいると明言した最近の記事は枚挙にいとまがない。しかし、大部分の記事は、従来型広告の凋落により金銭的な恩恵を受けるデジタル業界人による希望的観測であった。
この人の記事(警告:ギョーカイ用語満載)によると、「デジタル」が、「質の高いコンテンツ作成」への障壁をなくし、「クライアントは誰のアイデアにでも耳を傾けるようになった」から広告は死んだのだという。
このコラムの著者、マーク・ダフィ(54)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米大手Webメディア「BuzzFeed」で広告批評コラムを担当していたが、2013年に解雇を通達された、失業中の業界通コピーライター。
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かつての広告代理店のスターは、インターネットに滅ぼされた。「昔ながらの」広告は瀕死の状態である、あるいはすでに死んでいると明言した最近の記事は枚挙にいとまがない。しかし、大部分の記事は、従来型広告の凋落により金銭的な恩恵を受けるデジタル業界人による希望的観測であった。
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デジタル・ストラテジストのアミル・フサイン(警告:ギョーカイ用語満載)によると、「デジタル」が、「質の高いコンテンツ作成」への障壁をなくし、「クライアントは誰のアイデアにでも耳を傾けるようになった」から広告は死んだのだという。
ソーシャル解析企業のCEO(再び警告:ギョーカイ用語炸裂)によると、「(広告が死んだ)理由は簡単だ。広告に消費者の声を取り入れることが求められ、また消費者はそれが当然だと思っているからだ」。
「ワイアード」の予測がニアミス
先見の明があった「ワイアード」は、1994年の時点で「広告は死んだのか」と問いかけている。この記事で、筆者は次のように予言している。
2015年のスーパーボウルでは、我々は自分の観たいコマーシャルを選ぶことができ、人工衛星と連携するコンピュータが、視聴者の住んでいる地域に特化したカスタムコマーシャルを瞬時に作成する、と。当たらずとも遠からずである。あとほんの数年もすれば、この予言は現実となるだろう。
古典的広告の事実上のスポークスマンであるダン・ウィーデンは、デジタル革命がもたらすのは、「我々の変革、あるいは、無力化」であると言っている。現在のところ、「無力化」が優勢なようだ。
大手代理店とデジタル世代の軋轢
大手代理店の収益は落ちてきている。この傾向は今後5年間でさらに加速化するだろう。企業がデジタル「コンテンツ」に割く予算は急激に伸びてきているが、同時にアドブロックは恐ろしい勢いで普及している。我々が知っている「広告の世界」は終焉を迎えているのである。
大手代理店では、中途半端ながら時流に乗る努力をし、「デジタルネイティブ」のクリエイティブスタッフを雇ってはいる。しかし彼ら若手のライターやデザイナーは、代理店を牛耳っている上層部の年寄り連中が何にもわかっちゃいないことに気がつくと、すぐに回れ右をして代理店を去っていく。優秀な若手はその後、嬉々としてデジタルショップやインハウスのクリエイティブスタジオに収まるのだ。
そして、こういったデジタルショップやスタジオによると、ミレニアル世代は商品特徴の「売り込み」など聞きたいとは思っておらず、ブランドっぽくないブランドを求めているという。
したがってブランド企業は、より「人間らしく」「人を惹きつける」コンテンツを作るべきであり、コンテンツが売り上げに貢献するかどうかなんて気にしてはいけない(ハァ?)、なぜなら、情報通のジェネレーションY(1975−89年生まれ)は、広告に惑わされて購買行動に出たりしないからである、と。
何でもかんでも「本物」
彼らが作成するのは、「広告」ではなく、フィルムであり、ドキュメンタリーであり、イベントであり、ジャーナリズム公告であり、クラウドソースされた物語なのである。「オーセンティックなストーリーテリング」、つまり「本物の物語」が新しいイメージ広告の主流となっているが、端的に言うと、「売り込みをすることなく面白い物語で楽しませろ」ということだ。デジタルエージェンシーは、こうしたコンテンツを作るのに非常に熱心なのである。商品を売れない広告を作るのは実に簡単だからだ。
多くのブランド企業は、この売り込みをしない「本物」ムーブメントにハマりまくっている。何百万という閲覧回数(虚偽閲覧の事実は伏せておくか)が報告されるので無理もない。
「本物のストーリーテリング」は、別に新しいアイデアではない。1964年DDB製作のフォルクスワーゲンの古典的コマーシャルは、正真正銘モノホンの物語であり、観て面白く、そして、聞いて驚けと、車の売り込みに大成功したのである。
「除雪車の運転手って、除雪車がある場所までどうやって行くんだろうって不思議に思ったことは?」のナレーションをバックに、雪道をものともせず進むフォルクスワーゲン。
昔ながらの人間はどうするべきか?
しかし、娯楽性があり、情報を伝え、売り上げにもつながる「本物」コンテンツは、作るのが難しく時間もかかる。そして、現代の世代は、難しく時間がかかるものを徹底的に嫌がるのだ。
昔ながらのクリエイティブ系業界人はどうしたらいいのか? そうだな、あの説明しがたい「ビッグアイデアのひらめき」をまだ内に秘めているんじゃないのか。ただし、ひらめきを待ち、対価を払うことを厭わず、あとこれが一番重要なことだが、ビッグアイデアを「信じて」くれるクライアントはなかなかいないだろう。
クリエイティブディレクターはどうしたらいいかだって? まあ、あんたらも棺桶に片足突っ込んでいるようなもんだけど、善後策を考えておいたほうがいいだろうね。「ビッグアイデア・アプリ」でも開発すれば?(敬称略)
Mark Duffy(原文 / 訳:片岡直子)
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