ニューヨークで20年以上の経験をもつベテラン広告マン、マーク・ダフィ氏(54)がつづる、辛口エッセイ。これを読めば米広告業界の裏側がよく見えてくる? 今回のテーマは「ミレニアル世代の若造に効果的な広告」。
――若造たちはなんでもタダで欲しがる。むしろそれが普通だとすら思っている。上の世代が作り上げたクソみたいな世界やエコノミーの対価として、えらい量の物資をタダでもらうのが正しいと信じ込んでいる。上の世代としてはあまり言いたくないが……あながち間違ってないのかもしれない。
このコラムの著者、マーク・ダフィ(54)は、広告業界を辛口批評する人気ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。2013年に米大手Webメディア「BuzzFeed」から、広告批評コラム担当からの解雇を通達された、業界通コピーライター。
◆ ◆ ◆
やあ、そこのブランド! 焦っているかい? つかみどころのわからない18〜34歳くらいの「ミレニアル世代」と呼ばれる連中の共感を呼べないからだな? だったらちょうどいいところに来た。私は「若造」と「広告」の両方の面でエキスパートだ。だからキミにあのイカれた若造どもへの接し方を詳しく教えられる立場にある。
Advertisement
私は過去に18カ月間、この世でもっとも「若造」な場所で働いていた。ニュースサイト「BuzzFeed」のニュースルームだ。そこでは100人以上の自称「ソート・リーダー(オピニオン・リーダー)」の若造たちが毎日、自分たちの世代がなにをしているか、欲しいか、必要か、好きか、嫌いか、観ているか、食べているか、飲んでいるか、シェアしているか、などを考え会議にあけくれる。
説得すると逃げ出す若者たち
「BuzzFeed」を退職後、私はふんぞり返って数々の広告を見てきたが……正直ダメダメだ。キミたちブランド・マネージャーは「Gen Y」(ジェネレーションYの略。1975年から1989年に生まれた世代。日本でいう「ロスジェネ」に近い)を魅了させるような広告を作ろうとするが失敗に失敗を重ねている。キミたちの最大のミスは何なのかわかるかね?
ヤツらに自社の商品を買うよう「説得」しようとしていることだよ。「Gen Y」の連中はキミの話を聞く忍耐力がない。というか、そもそも誰かに指図されるのを聞く耳なんてもっちゃいない。そして生まれながらにしてデジタル社会に接してきたヤツらは、いわゆる「デジタル・ネイティブ」ってヤツだ。しかし、キミたちはそうでないことくらい自覚しているだろう?
だが、心配ご無用。これから若造世代に効果的な広告のプランを4つ紹介しよう。
その1:「オヤジたちが大っ嫌いな◯◯」というコピーをつけろ
キミの作るすべての広告に、とにかくこのコピーを入れてみよう。なぜかって? それはヤツらが世界中の森羅万象の何よりも嫌いなのは「オヤジ」、つまり「団塊の世代」だからだ(まあ、唯一の例外は「チンタラしたネット環境」だな)。
(訳:団塊の世代が大っ嫌いなAppleWatch[左]、団塊の世代が大っ嫌いなスターバックス[右])
「オヤジたちが世界経済をボロボロにしやがった(リーマン・ショックのことだね)」、「オヤジたちが地球環境を滅ぼしやがった」、「コンピューターが動かないから直してくれ……ってホント、使えねぇオヤジだな」、「無精ヒゲくらいに目くじら立てんなよ、オヤジ!」。
すべてヤツらの「心の声」だ。な? オヤジを毛嫌いしているだろう? だからこのコピーが有効なんだ。「敵の敵は味方」ってやつだ。
実際にオヤジたちがその商品を嫌っているかどうかは関係ない。そこはキミの会社のマーケティング部の「教祖様」が、キャンペーンをサポートする統計をでっち上げてくれることだろう。
それとだ! 嬉しいことに、「自分はまだイケてる」と見せたがる、ちょい悪オヤジやオバサン連中が大喜びでキミの商品を買ってくれる。これぞまさに一石二鳥だ!
その2:商品を無料で配ろう
若造たちはなんでもタダで欲しがる。むしろそれが普通だとすら思っている。上の世代が作り上げたクソみたいな世界やエコノミーの対価として、えらい量の物資をタダでもらうのが正しいと信じ込んでいる。上の世代としてはあまり言いたくないが……あながち間違ってないのかもしれない。
欲しがる若造にキミの商品をタダで与えてみよう。すると彼らはすぐさまソーシャルでこう投稿するだろう。「このブランドいいね!」と。そしたらドーン! 数百万人のブランド・アンバサダー(ブランド大使)の出来上がりだ、しかもタダで。この手法はミントキャンディのTic TacsからBMWまで幅広い製品に効果的だろう。
(訳:究極のドライビングマシーン、いまなら0ドル)
その3:つまらんほどに誠実に
キミは1991年に公開した『クレイジー・ピープル』という映画を観たことがあるだろうか? ダドリー・ムーア演じる天才広告マン、エモリー・リーソンは精神崩壊が原因で痛いほど正しい広告を作り始める、という話だ。たとえばボルボの広告だと「カクカクしていて箱みたいけど、いい車です」とか。
さて、最近アメリカで流行っているのが、この「正直なブランド・スローガン」シリーズだ。この手法、試してみてもいいが、間違ってもジョークでするんじゃないぞ?
スマートになるな。面白くしようとするな。ドラマチックさや興味深さも追求するな。若造世代はそういったくだらんことはちゃんと見抜いている。
(訳:それなりの割合の人が、キミのことをそれなりにカッコいいと認めてくれるさ)
その4:社会問題との関係性を描け(実際に関係あるかどうかは関係ない)
キミが売ろうとしているのはドッグフードか? 人種差別を攻撃しろ。はたまた石鹸か? 女性の社会的地位向上と関連付けろ。あとはそうだな……知らんけどチェーンソーを売るなら「DV被害を無くそう」とか言えるだろう。論理的にあってるかなんて気にしなくていい。ヤツらは「社会問題に貢献します系広告」にすぐ食いつくんだから。
(訳:もう、なんだってカットします! ……もちろん、DV被害件数だって)
……というこうとだ。わかったかな?
しかし、ちゃっちゃと実行に移さなきゃダメだぞ? その次の世代はもうすぐそこに来ている。そんでそいつらにはどういった広告が効果的かなんて見当も付かんからな。
【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら】
Mark Duffy(原文 / 訳:柳沢大河)
Image by 上野菜美子