ニューヨークで20年以上の経験をもつベテラン広告マン、マーク・ダフィ氏(54歳)がつづる、広告業界への濃厚なメッセージがこもった辛口エッセイ。これを読めば米広告業界の裏側がよく見えてくる? 今回のテーマは、2025年、広告エージェンシーの姿について。
このコラムの著者、マーク・ダフィ(55)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米大手Webメディア「BuzzFeed」で広告批評コラムを担当していたが、2013年に解雇を通達された業界通コピーライター。
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これを読んでいるあなたが、もしもいま12才で、将来コピーライターか、アート・ディレクターか、アカウントエグゼクティブになりたいとしたら、まず言いたい。いますぐ、その馬鹿げた考えを捨てなさいと。次に言いたいのは、10年後の広告エージェンシーは、機能から見た目まで、何から何まで、いまと違ってしまっているだろう、ということだ。
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数年前なら、広告エージェンシーに種類になんてなかった。それがいまではデジタルエージェンシーやプログラマティックエージェンシーにはじまり、「体験型」エージェンシー、「コンテンツ」エージェンシー、「インタラクティブ」エージェンシー、PR広告エージェンシー、マーケティング広告エージェンシー、パブリッシャー広告エージェンシー、ニューヨーク・タイムズ、ハリウッド俳優マシュー・マコノヒーまで、エージェンシーの種類はワケがわからないくらい多岐に渡っている。

マコノヒー氏は、バーボンウイスキー「ワイルドターキー」のための6分の「短編映画」を構想、執筆、出演、監督した。出来はあまり良くない。
でも、いまから9年も経てば、そんな状況も終わっているかもしれない。少なくとも以前のような、広告エージェンシーのすることといえば一種類という状況に戻りつつあるだろう。もちろん、このプロセスでたくさんのエージェンシーが破産して消えていくのだろうけど。
しかし、この将来に置いて、「広告」エージェンシーという名前が残っているかはかなり怪しい。というのも「広告」という言葉は、皆から避けられる「嫌な言葉」になってしまっているからだ。「プログレッシブ」な思想をもつといわれている、ゼロ世代の子どもたちが大人になるにつれて、「広告」という言葉は、もっともっと嫌われていくだろう。
じゃあ、広告エージェンシーは何と呼ばれるようになるか? きっとオレたちがまだ聞いたこともないような「スーパーかっこいい」バズワードを冠することになるだろう。まったく想像もつかないけれどな。たとえば…ダメだ、思いつかない。
未来の広告エージェンシーのなか
エージェンシーのオフィスに入ってすぐ、ロビーはどんどんとワケの分からない空間になっていくだろう。エージェンシーの「ステートメント」といわれるものは、パッと読んで意味が分かるものはなくなるはずだ。

「ジグジグした世の中にザグを」。BBHチャイナは、ロビーという点では一歩先を行っている。はてなマークのイスに座って、自分という存在に疑問を投げかけながら、アポイントの時間を待つのだ。禅である。
次のステップはクリエイティブ部門だ。クリエイティブはもはやクリエイティビティを独占する場所ではなくなり、クリエイティブと呼ばれなくなるだろう。「シンキング(Thinking・考える)部門」とでも呼ばれるかもしれない。クリエイティビティはあらゆる従業員からもたらされるようになるからだ。受付担当からクリエイティビティが飛び出してくるかもしれない。受付担当も「チーフ・アナログ・インタラクティブ・オフィサー」と呼ばれるようになっているに違いない。
またコピーライターやアートディレクター、デザイナーといったすべてのクリエイティブたちは「ストーリーテラー」と呼ばれるだろう。ドラマ「マッドマン」の時代の、人々のエゴを満たしてくれる偉そうな肩書は無くなる。この新しいストーリーテラーたちのなかには、クライアントのオフィスにずっと住んでしまうような人たちも出てくるはずだ。
クリエイティブディレクターだって、いまじゃ「変なファッションセンスをした耐えられないぐらいのウザい奴ら」と思われているが、それも変わるだろう。どう変わるって? ジェイムズ・フランコ、エイミー・シューマー、レナ・ダンハム、トム・ヒドルトン、そしてグウィネス・パルトロウといった「耐えられないぐらいのウザイ」芸能人に取って変わられるはずだ。
次がアカウント部門だ。もっとも過大評価されている従業員たちが、もっともクダラナイ会話を繰り広げている部門だ。そこらの政治コンサルタントよりも、よっぽど効率的におべっかを使って、生き残っている人種だ。アカウントエグゼクティブという名称も変わるだろう。ブランド創造者やブランド宣教師なんて名前をもつようになるに違いない。

「オレのことを二度とアカウントエグゼクティブなんて呼ぶなよ。」 ロジャー・スターリングは2025年のブランド宣教師の鏡だ。
ミーティング室だって姿を変えるに決まっている。きっと参加者全員が、相互に接続されたインタラクティブな球状のイスに座っているに違いない。もしミーティングに外部の人が出席していたら、ブランドショーランナー(もといアカウントエグゼクティブ)は社内のバズワードの意味一覧が紹介されたパンフレットを渡してくれるはずだ。
すべてのエージェンシーがまた、従業員とクライアントに無料でマリファナを提供するようになっているだろう。

Buzzfeedの球状イスのひとつ。写真:筆者
未来のクリエイティブな人々
「昔ながらの」プロダクトとプロダクトの恩恵を紹介するタイプの広告が今後も消えていくのは確実だろう。ブランドはLGBTQの権利や男女平等、難民、人種問題といった社会的なトピックを扱い続けるんだ。
けれど2025年には、もっともっと複雑かつグローバルな問題に、ブランドが関わっていくに違いない。アフリカにおける内戦のどちらかにスポンサーとしてブランドがついたり、政治家を支持するような広告を作ったりだ。「ユニリーバはこのメッセージに同意します」なんてのが政治キャンペーンに流れはじめるかもしれない。
5kmの飛行距離を誇るカスタマイズドローンで、イベントや集会にブランドのメッセージを届ける。そんなのもすべてのエージェンシーが行うようになるだろう。ホームレスが増えれば、彼らの掲げる段ボールに、ブランドロゴが表示されるようになるのも間違いない。IBMの人工知能ワトソン(とスーパーコンピューター)はエージェンシーに「雇われて」複雑な案件のクリエイティブを仕上げてくれるだろう。ワトソンがカンヌライオンズでゴールドライオンを総なめにする日がやってくるんだ。
最後に、現在71歳のマーチン・ソレル氏は、依然として世界最王手の広告会社WPPのCEOのまま留まっているだろう。
Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)
Photo from ThinkStock / Getty Images