クライアントの「ガイド」となることを仕事としているメディアエージェンシーたちは、消費者の習慣や行動を正確に把握し、最良のアクティベーションや広告展開を行えるよう、この1年間消費者調査パネルの設置に忙しかった。古典的な手法ではあるが、Cookie亡きあと消費者理解を深めクライアントを満足させる最良の手法だからだ。
昨今のメディアや広告に関して、ひとつ明白な真実があるとすれば、パンデミックが始まって以来、多くの消費者の行動が劇的に変化したということだろう。
クライアントの「ガイド」となることを仕事としているメディアエージェンシーたちは、消費者の習慣や行動を正確に把握し、最良のアクティベーションや広告展開を行えるよう、この1年間消費者調査パネルの設置に忙しかった。
何年も前から特定のパネル(調査の対象となるグループ)を設置しているエージェンシーもいる一方で、ここ数カ月のあいだにクライアントのためにより多くの情報を収集し、消費者がオンラインでどこを利用するのか、なぜそこに行ったのか、なにが消費者にモチベーションを与え、もしくはモチベーションを減らすのかを探る取り組みを強化するエージェンシーも出てきている。
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なぜパネルが重要になったのか
こうした動きは、パンデミックによって変化した世界で消費者に関する知識を更新したいと考えていることに加えて、メディアエージェンシーたちがこの種のインサイトを専門とするコンサルタント会社やより小規模なエージェンシーなどからも、これまで以上にプレッシャーを感じていることも影響している。
さらに、Cookieが廃止されたことでデジタルの世界で消費者の行動を追跡する能力は低下する一方、コンテクスチュアルターゲティングが復活しつつあり、あらゆる状況がより深い消費者理解を必要とすることを示しているのだ。なにより、クライアントの顧客について知れば知るほど、(エージェンシーの)マーケティングにおける立場は向上する。
「私たちは消費者心理を理解することがビジネスだ」と、スタグウェル・メディア・ネットワーク(Stagwell Media Network)に属するメディア・キッチン(Media Kitchen)CEOであるバリー・ローウェンサル氏は言う。同社の親会社であるスタグウェル・パートナーズ(Stagwell Partners)は市場調査会社ハリス・ポール(Harris Poll)を所有している。「調査とパネルは、潜在顧客を検索する方法であり、テクノロジーのおかげで簡便さも更新され続けている。Cookieがなくなるなか、これまで以上に重要になるのは間違いない」。
ローウェンサル氏は、調査におけるパネルの維持と改良を継続的に行うことが重要であると述べる。コストがかかったとしても、1回限りの作業や偶発的な作業であってはいけないという(ほとんどの場合、エージェンシーは消費者パネルに関連する費用を負担し、特別な要求または特に重い負担がある場合にのみクライアントに請求する)。
エージェンシーの世界では新しいことではないが、オリジナルの消費者パネルを立ち上げることで「顧客のためにオンデマンドでスケールでき、かつアクションに力点を置いた調査を行うことができる」とカンター(Kantar)のメディア・ドメイン・リーダーを務めるシニア・バイスプレジデントのジェッド・メイヤー氏は言う。
パネルにフォーカスし始めたエージェンシー各社
取材に対して実名の掲載を拒否したが、現在コンサルティング会社を経営している元メディアエージェンシーCEOである人物は、かつての所属エージェンシーに対して、Cookieが提供するサードパーティのデータに依存することに無頓着になっていたこと、その結果何年も消費者パネル調査に注意を払っていなかったことを非難したという。「(消費者パネル調査)は何年間も無視されてきたが、今は再び流行している」とその幹部は言った。
たとえば、電通インターナショナルは長年、カラ消費者コネクションシステム(Carat Consumer Connection System:CCS)を運用しており、これは現在はマークル(Merkle)のM1部門に属している。エプシロン(Epsilon)を買収したピュブリシス(Publicis)は、同社のショッパーズ・ボイス(Shoppers Voice)も受け継いだ。ショッパーズ・ボイスは、2200万人の消費者(100%許可ベースのオプトイン)からなる自己申告データベースであり、その目的は「リーチすることが困難な消費者を発見し、パートナー企業たちが適切なチャネルと期間でパーソナライズされたメッセージを送信できるようにして、(消費者からの)反応とROIを向上させること」だとエプシロンの広報担当者は述べている。
この流れは他エージェンシーにも見られる。ここ数カ月、オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group)とホライゾン・メディア(Horizon Media)は、消費者行動のうち「誰」が「なぜ」特定のアクションを取っているのかについてより深く掘り下げる、新たな取り組みを開始した。
ホライゾン・メディアは6月、彼らのWHY部門内でヒューマン・インテリジェンス(Human Intelligence:HI)部門を開始した。WHY部門は14年間にわたって人々の消費選択に影響を与える文化的、社会的要因を調査してきた。
新しいHIチームは、人間の意思決定の長いプロセスのうち、行動的側面を調査することを目的としている。ホライズンのクライアントたちが手助けを求めている、消費者選択における様々な要素の影響について先んじて理解しようとしている。その範囲は製品・サービスのプランニング段階(通常では、この段階はメディアエージェンシーが首を突っ込むステージではない)から、メッセージング、プランニング、そして広告に至るまで広範囲だ。
クライアントをいかに満足させるか
OMGは5月にOMGシグナル(OMG Signal)をローンチしたが、これは同社のデータプラットフォーム「オムニ(Omni)」を強化するために、オンライン調査を通じていつでもアクセスできる約200万人の(新しくプライバシーに準拠した書面での承認を得ている)アメリカ人からなる消費者パネルである。オムニのアイデンティティ・グラフに直接統合されているため、パネルから得られた分析・インサイトはメディアのプランニング、アクティブ化、測定へと自動的に階層化され、クライアントのキャンペーンにおけるクリエイティブ面での、もしくは配置面での方針転換を素早く行うことができる。ジェンダーに関する洞察、世代間の違い、文化的および多文化的傾向、態度および心理学的プロフィールなどがその関心ポイントとして示されている。
北米OMG(OMG North America)のCEOであるスコット・ハゲドーン氏はローンチの際にこう述べている。「行動データの利用には長い時間取り組んできた。マーケティング目的では、我々はアーリーアダプターだった。しかし、行動データは消費者が『どのように行動するか』を示すものであり、『行動する動機』についてではない。そこで私たちは、定量的な分析能力と合わせて、定性的、人類学的側面にもっと飛び込みたいと思った」。
つまり、より質の良い、洞察に満ちた分析が、クライアントを満足させる助けとなるということだ。
[原文:Consumer insights panels make a quasi-comeback in the agency world]
MICHAEL BÜRGI(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)