現在、「インフルエンサー」が注目バズワードとなっている。インフルエンサーというソーシャルメディアのスターを中心にエコシステム全体が進化を続けてきたが、ブランド、エージェンシー、そしてインフルエンサーの関係には不協和音が生じつつある。今回の「告白シリーズ」では、微妙になってきたインフルエンサーとの関係について、匿名のソーシャルメディア担当管理職が語る。
現在、「インフルエンサー」が注目バズワードとなっている。インフルエンサーというソーシャルメディアのスターを中心に、エコシステム全体が進化を続けてきたが、ブランド、エージェンシー、そしてインフルエンサーの関係には不協和音が生じつつある。今回の「告白シリーズ」では、微妙になってきたインフルエンサーとの関係について、匿名のソーシャルメディア担当管理職が語る。
インフルエンサーフィーバーはいつからはじまった?
2014年の夏だ。つまり、ソーシャルメディアは一過性の流行ではないと、ブランド企業らがついに認めたときだ。それまでは、「これって投資に値するのか?」という態度だったブランドが、Facebookやインスタグラムの業績が明らかになると、「ちょっと待ってくれ、いまそんなにコンテンツはない」と、焦りはじめた。1年に12本のTVコマーシャルを作っていたブランドだ。それが現在では、自動車ブランドでも、1日に6〜7回もソーシャルメディアに投稿するようになった。いまや仕事の質は落ち、インフルエンサーが余っている。
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何がいけなかったのか?
短い間にインフルエンサーに金をかけすぎた。2014年の時点では、現場で数枚の写真を撮ってもらうのに500ドル(約5万円)。それが1500ドル(約15万円)になり、いまでは数十万ドル(数千万円)だ。インフルエンサー自身が、アートを重視しなくなってきている。ソーシャルメディアの仕事をしている若者のグループに講演したことがあるが、「どうやったらインフルエンサーになれますか?」と質問された。何が得意なのか、と聞いたら、特技はないという。いまでは、面接で得意分野を聞かれて「自分はインフルエンサーだ」と答える人間は雇わないが、「写真をやっている」という人間なら雇う、そんな感じになってしまった。
報酬はどうやって決めるのか?
いくら払ったらいいのか、全然わからない。それが問題だ。現在、コンテンツの「プロデューサー」としての役割とインフルエンサーとしての役割を分けて考えている。例えば、50件の画像なら、編集と著作権もすべて込みで4000ドル(約44万円)くらいだ。その後、配信について話し合う。2件、4件、6件の投稿にいくら、という払い方をする。つまり、コンテンツとは別料金だ。
インフルエンサーはどうやって見つけるのか?
ソーシャルチームは、ミレニアル世代の集まりだ。彼らがその方面に詳しく、いい人材が見つかるので、キーワードと一緒にデータベースに入れておく。しかし、通常はCEOとかCMOが、「うちの子供がこの人のファンだ」といえば、その人に決まる。ある大手自動車ブランドで仕事をしたときは、そこのCEOの子供がファンだから、という理由で数枚の写真に30万ドル(約3300万円)を払ったこともある。
インフルエンサーエージェンシーはどう?
規模が大きくなっている。2200人のフォロワーと仕事をしているという大手メディアネットワークもあり、役には立つ。大きな問題は、人材派遣会社のようにはいかないという点だ。彼らの有する人材が、きちんと仕事をしない場合、代えは用意されない。ブランドの代理店が、インフルエンサーエージェンシーから、誰かを雇うということもできない。ブランドの方からこっちに来いという態度で、向こうから営業には来ない。おかしな話だ。
インフルエンサーを雇うプロセスはどんな感じ?
まず、会ってご挨拶だ。こちらの考えを述べ、コンセプトを出してもらう。相手が真剣かどうかはすぐにわかる。まともな場合は、一両日中にアイデアをいくつか出してくる。ブランドを何も考慮していない、見栄えがいいだけのプレゼンを送ってくる人もいる。とんでもないのになると、「車を1台用意してほしい。ロンドンで受け取り、ヨーロッパ中を転がしてみるから10万ドル(約1100万円)出して」などと言ってくる。そんな提案が通るとでも思っているのか、予算というものをまるで理解していない。
ブランド側で適正価格がわからないなら、インフルエンサー側ではわかっている?
そんなことはない。あるインフルエンサーに撮影の依頼を持ちかけたら、忙しいからダメ、でも報酬が倍ならいいと言う。その週末、ブルックリンのパーティーでそいつに鉢合わせしたら、もっと金を出せと言ってきた。呆れた話だ。最初の仕事なのに、自分の価値がわかっていないから、適当な額をでっち上げてくる。
それで、いくらくらい払うのか?
2014年の段階では、編集済みの30から40の画像に800ドル(約9万円)。製品コストを足すと、撮影プラス数週間のコンテンツ使用料で2500ドル(約27万円)くらいだった。現在では、ケイシー・ネイスタットのような超大物ユーチューバーの報酬は30万ドル(約3300万円)から50万ドル(約5500万円)、しかもブランドに著作権は渡らない。
大物ユーチューバーといえば、ブランドに利用されたという人もいるけど?
気持ちはわかる。しかし、言わせて貰えば、おいしい仕事もらってるくせに、とも思う。せめてクライアントのクルマは大事に使ってほしい。
今後の展望は?
インフルエンサーは、減りはじめるだろう。ブランド企業は、フォロワーの数なんてクソの役にも立たないと悟りつつある。実にいい写真を撮り、20万のフォロワーがいる、だから何だというのだ? コンテンツのクリエーターにすべてを任せるわけにはいかない。インフルエンサーに関していえば、彼らのビジネスは交友関係がすべてだ。知人が「Vice」にいるから、友達の写真を使ってもらう。インスタで誰それを知っているから、トレンディングページで取り上げられる。生きるも死ぬもプラットフォームで、という時代なのだ。
Shareen Pathak(原文 / 訳 片岡直子)
Photo by Thinkstock / GettyImage