匿名を条件に、率直な意見を語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、クライアント、メディアオーナー、テクノロジー、エージェンシーなど業界の全貌を知りつつ、広告業界が直面する混乱状態やエージェンシーにまん延するリベート体質に憤りを感じる広告専門家に話を聞いた。
デジタルメディアはめまぐるしく変化している。その結果、いままでに見たことない新しいモノへの執着が生まれ、それが負の影響をもたらしている。いま、その影響力や指標、そして広告サービスといった点において、責任を問われているのがプラットフォームだ。
これは、あるベテランのデジタル広告マンの見解だ。匿名を条件に、率直な意見を語ってもらう「告白」シリーズでは、クライアント、メディアオーナー、テクノロジー、エージェンシーなど業界の全貌を知りつつ、広告業界が直面する混乱状態やエージェンシーにまん延するリベート体質に憤りを感じる広告専門家に話を聞いた。
内容を明瞭にするため、若干編集を加えたものを紹介する。
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――デジタル広告の現状で最大の懸念事項は?
人々があまりにも無条件にプラットフォームを許容している点だ。良識ある理念をもって考えることをしていない。新しいものなら何でも結構、何でもおもしろい、というように。何の根拠もなくても「とにかく使ってみるべき」という風潮がある。
Snapchat(スナップチャット)が良い例だ。広告プラットフォームとしての実績があるかどうかに関わらず、ユーザーはそれに飛びついてしまう。クライアントはただ「新しい」というだけの理由でそれを求め、そのクライアントを喜ばせるためにエージェンシーもそこに食いつく。ジャーナリストや投資家も同じだ。大変結構だが、飛びつく前にそのプラットフォームが本当に健全で強固なものであることを確認する必要がある。
――Snapchatのユーザーは、つまり次世代の消費者だが?
Snapchatの主なオーディエンスは、可処分所得が多い層ではない。しかし、広告業界は若者に熱い視線を送っている。「新しさ」を求めるがゆえの「新しいもの好き」なのだ。
――精査しないことで、どんな悪影響が?
結果的に我々はいま、混乱に直面している。我々は自分たちが利用するプラットフォームへのアプローチに対して寛大すぎる。Facebookの内容を第三者が検証することはない。同様のメディアプラットフォームでも検証されることはないだろう。「新しさ」の前では、人々は基本的な原理を捨ててしまう。それゆえに、プラットフォームは判断基準や説明責任、そして広告提供などの面で従来の価値に従う必要がなくなるのだ。
――つまるところは、GoogleとFacebookのことか?
Googleがほかよりまともだからといって、例外にはできない。You TubeのようなものはGoogleにとってちょっとした寄り道のような存在だ。You Tubeにも問題がないわけではない(というか、ある)がGoogleの本質はまた別のところにある。問題は一般的なディスプレイ広告だ。仲介者との取引が発生する度に、彼らが上前をはねているのに、誰もその理由を知らないのだ。
――パブリッシャーやクライアントにとっては厳しい状況だ。
クライアントは、何から知れば良いかもわかっていないようだ。すべてが非常に複雑で、テクノロジー面も、予算面も、誰が、いつ、どこで、何をするのかわからない。また、聞かれたことにだけ答えればいい、と考えるエージェンシーも存在する。それでは誠実さに欠ける。医者に行き、特定の病気かどうかを具体的に質問するようなものだ。医者が「その病気ではない」と答えるだけで、ほかの病気の可能性について何の説明もしないのと同じだ。
――エージェンシー側の最大の不満は?
メディアプランニングを担う人々が「クライアントにとって最良のもの」ではなく、「リベートを最大限得る」ことを第一に考えている点だろう。何よりも困るのは特定のプラットフォームを利用するようクライアントに強要することだ。そして、その目的は、ただ金銭的な恩恵を受けること。それがクライアントの利益になるのか? おそらくそうではないだろう。
――現状がもたらすものは?
例を挙げれば、旧来のポータルサイトにはクライアントにとってもはや適切なポータルではないにも関わらず、高額リベートを提供することで、市場シェアを維持するものもいた。たとえば、広告掲載先となるメディアパートナーと、年間取引額1000万ポンド(約13億7800万円)で合意したとする。パートナーからのリベートが50万ポンド(約6889万円)だ。もしその翌年、それがクライアントにとって理想的なプラットフォームではないことがわかったとしても、パートナーを換えるためにはさらに1000万ポンド(約14億円)を費やし、また同額のリベートを払ってくれる相手を見つけなければならない。もとのプラットフォームが年間1100万ポンド(約15億1537万円)の取引で60万ポンド(約8265万円)のリベートを払うといってきたら、きっと受けてしまうだろう。それがクライアントにとって良いかどうかはともかく、そのほうが簡単だからだ。
――そうした現状でも、あなたがこの業界にとどまる理由は?
市場というのは、必ず正しい方向に修正されていくものだ。我々は取引に頼りすぎるのをやめ、戦略を重んじるやり方に立ち返らなければならない。メディア戦略は、取引条件よりも重要視されるべきだ。この業界はその責任を再認識する必要がある。
Jessica Davies(原文 / 訳: Conyac)