「日系企業の広告主は、広告のリスクに対して『事なかれ主義』だ」:あるエージェンシーで働く、プランナーの告白

日系企業の広告主が描く理想と実際の現場のあいだには、まだギャップがあるようだ。

日本アドバタイザーズ協会(JAA)が2019年11月26日、「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を発表するなど、日本の広告主も広告品質を巡る問題に取り組む姿勢を明確に見せはじめている。しかし実際の現場では、デジタルに関する知識に乏しいがゆえに、「ひとまず安心」な手段を選び、成果とのバランスが取れていない広告主もいる。

匿名を条件に、業界の裏事情について赤裸々に語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、日本のあるエージェンシーで、日系、外資(主に米国資本)の両方を担当するプランナーに、両者の広告品質を巡る問題に対する、スタンスの違いを聞いた。この人物は現在、ナショナルクライアントを中心に、メディアプランニング、及びデジタル広告の運用を担当しているという。以下、会話の詳細だ。読みやすさを重視して、一部編集してある。

──日系企業と外資系企業のあいだでは、広告品質に対するスタンスにはどのような違いが?

現在私は、飲料業界を担当領域として、大手の日系と、主に米国資本の外資系企業のプランニングを任されている。両者のあいだには、広告品質に対するスタンスに関する大きな違いが見られる。日系企業の場合、アドフラウドにせよブランドセーフティの対策にせよ、基本的にそのスタンスは「社内に向かった事なかれ主義」だ。

広告品質を巡る問題は、なにが要因で起きているのか、そして、成果を上げつつ対策をするにはどのような手段があるのか。それを理解するために知識を得ようとするよりも、広告主は当たり障りが出ないようなプラニングを選択しがちだ。彼らも、決して広告品質などどうでも良いと思っているわけではないはずだが、残念に思う。

──なぜそのような状況に? 要因をどう考える?

大きな要因のひとつは、日系企業の組織構造にあると思う。彼らの多くはジョブローテーションの制度があり、デジタルマーケターの担当者がプロフェッショナルではなく営業出身者だったりと、デジタルマーケティングの知識を持ち合わせていないケースが多い。さらにその上司は、テレビCM全盛の時代を過ごしてきた宣伝部のお偉いさんだ。彼らに至っては、広告詐欺というワードを聞いただけで取引禁止を切り出す勢いだ。現場のデジタルマーケティング担当も上層部も、知識が不十分なため、ひとまず安全だが、広告効果の低い手法を選びがちになってしまう。

──とにかく、何も起きないように事を済ませたいと

おっしゃる通り。現に、ブランドセーフティ関連でいくと、PMP(プライベート・マーケット・プレイス)や、ホワイトリスト配信など、プレミアムなメディアなど、特定の媒体や枠に絞って広告を配信する手法が重宝されてきている。確かにこれらの手法自体は、ブランドセーフティの担保に効果的だ。

しかしなかには、ろくに調べもせず、ひとまず当たり障りのないよう事を進めるために、これらの手法を活用する広告主もいる。PMPやホワイトリスト配信は、媒体を絞るため、当然リーチは制限される。ブランド広告ならまだしも、セールスプロモーションの現場で判断を誤ると、外資系企業との販促パフォーマンスの差が開く。彼らはこうした前提について十分な知識がないため、説明に苦労することが多々ある。

──それに対して、外資系企業はどうか?

私の担当している、米国の企業でいくと、まずデジタルマーケティング担当は、社内のプロパー社員ではなく、外部からデジタルマーケティング経験者を採用している。そうした人材の大半は、広告プラットフォーム、もしくはデジタル専業のエージェンシー出身者だ。彼らはデジタル知識を持っているし、成果とリスクテイクのバランスについても理解しているため、販促効率を失わず、ブランドセーフティーのリスクを排除することができている。

また、外資系企業ではデジタル担当が持てる裁量も大きいので、意思決定がスピーディーだし、リスクを具体的に理解し、排除する技術を駆使しつつ意思決定ができる。別途費用がかかるIAS 、MOAT、DoubleVerifyといったアドベリフィケーションツールに投資することも躊躇がない。リスクを排除し、ハイパフォーマンスな広告運用で投資回収する。そういった判断は外資系企業でなされる比率が高い。

──広告主の現状を変えるには、どのような策が効果的?

当然、組織構造から変えることが理想的だ。しかしまずやるべきは、デジタルマーケティングのプロフェッショナル人材を担当者に据えることではないか。加えて、その人材を受け入れる側もデジタルマーケティングの知識を身に付けるべきだろう。

私は何も、広告主を責めたいわけではない。そもそも広告品質を巡る問題は、不正業者はもちろん、そこに対してしっかりと責務を果たさない、一部のプラットフォーマーに責任がある。

こうした状況に対し我々エージェンシーも、広告主のリテラシー向上のために、勉強会の開催や、マーケティングカンファレンスでの情報・ナレッジ発信などを積極的に取り組む必要があると考えている。私が望むのは、広告主に適切な知識を身に付けてもらい、ともにビジネスを成長させたい、それだけだ。

Written by Kan Murakami