匿名を認める代わりに、率直に話をしてもらう、DIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は、30年以上の経験があるメディアエージェンシーのベテランが、プログラマティックマージンという深い闇の世界の蓋を開ける。
議論の余地はあるものの、エージェンシーの支払いについて、リベートが当たり前となっている一方、目に見えないフィー(報酬)に関しては、話が異なる。
匿名を認める代わりに、率直に話をしてもらう、DIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は、30年以上の経験があるメディアエージェンシーのベテランが、プログラマティックマージンという深い闇の世界の蓋を開ける。企業の経営やクライアントとの関係を維持するためのプレッシャーは、ほかのあらゆるコストを押しのけて、それを優先させようとしたメディアエージェンシーを「負のスパイラル」に導いたと、その人物は語った。
こうした公にはされない報酬に対して、あるクライアントはエージェンシーに賄賂を要求し、またほかのクライアントはプログラマティックトレードの透明性をより高く保つために、内外から人材を雇っている。ただ、ブランドがどちらの道を選んだとしても、2017年はこの問題をより多く耳にする年になるだろう。
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下記の回答はわかりやすくするため若干編集されている。
――昨年のANA(全米広告主協会)の報告を受け、さらなる高い透明性への呼びかけがあったにも関わらず、あなたはプログラマティックメデイアの買付にあたっては、不透明な行為が存続しているといっている
一方ではメディアのオーナーからエージェンシーに払い戻されるリベートがある。それ以上に、プログラマティックトレードが増えるにつれて、定期的に獲得できる機会も増える。
クライアントは同意した額に相当するものを得るが、エージェンシーはそれを上手に低いレートで交渉していることがある。プログラマティックが0.5%ならば、それは人々の安眠を妨げるようなものではない。しかし、それが広告費全体の50%を占めるような場合は、根本的な問題となる。
――こうしたコストはどのようにして隠蔽されるのか?
エージェンシーが購入できるものは、クライアントとの合意内容と比べて40〜60%程度異なる、という場合もある。これは長い目で見れば非常に大きな金額となるだろう。
これまで見てきたなかで一番ひどかったマージンは、30ペンス(約40円)で獲得されたキャンペーンが報告時には1.20ポンド(約165円)として計上されたものだ。
――この背後にはどのような力が働いているのか?
メディアエージェンシーは、「親会社」をサポートするために必要な利益として、できる限り多くのマージンを得ようとしている。同時に、クライアントがプロキュアメントに際して、フィーやコミッションを引き下げる圧力をかけることで、エージェンシーは利益を得るための代替手段を見つけることが困難になる。
これは負のスパイラルだ。コスト削減は限界まで来ていて、コストが下がるよりも早いスピードで価格が下がっている。
――こうしたものの多くは、クライアントが発端のようにも見えるが
クライアントは、見つけること自体難しい貴重な新規顧客に投資する必要がある。しかしプロキュアメントは、エージェンシーに対して安価な取引を要求する。
周知のとおり、エージェンシーにとって顧客はもっとも安く、簡単に得られるため、これは見込客の開拓ではなく、リターゲティングを意味する。マーケターの短期的な性質とは、先々エージェンシーが説明責任を果たすことになるものを意味する。これは非常に頻繁に起こっていることで、クライアントにとって最適な結果は、達成可能だとはまったくいえない。おそらくその正反対だろう。
――メディアエージェンシーのスタッフの多くは、こうした見えないプログラマティックフィーについて認識しているのか? これはトップダウンの問題なのか?
少なくともこれは、ボトムアップの問題ではない。トレーディングチームの若者たちは、マニュアル通りに動いている。正しいとされていたことを行う責任がバイヤーにあった昔とは違う。最近の人は、非常に明確に決められた目的に向かって働いていているために、協定はより高いレベルで行われる。
――では、ブランドについてはどうか?
「自分たちの代理で行なわれている取引の方法には何ら問題ない」と考えているクライアントは、単に知らん顔をしているだけだ。クライアントの一部は、ささいなことに首を突っ込まない代わりに、協定のメカニズム全体に対して、売り圧力をかけることで危険を回避している。
彼らはこういうはずだ。「来年もう100万ポンド(約1億4000万円)相当のコストが削減されなければ、ビジネスの場を変えなければならなくなるだろう」。これは鈍器(切れ味の悪い手段)だ。
――情報通のクライアントの反応は?
メディアへの投資を経験したクライアントは、現在の動向に対して非常に賢くなっていて、どんな場合でもメディアのオーナーとの関わりをもっている。プログラマティックなシステムによって、いまやクライアントはエージェンシーを使わなくてもデジタルインパクトを得られるようになっている。
――これはエージェンシーを滅ぼすものか?
エージェンシーは長い期間をかけて、適切なオーディエンスにリーチする術を学んだ。しかし、それが最安価格を付けることで妥協しているのだとすれば、クライアントが上手に直接取引しているなどと誰がいえるだろうか。彼らに専門的な知識が欠けているのかもしれないが、少なくとも完全なる透明性を持っている。
――この問題は、プログラマティックの評判に傷をつけると?
この問題は潜在的にはプログラマティックを非難するものだが、それは間違っている。我々は、それがここにあるというだけで非難することはできない。これまでは一度に1500万人に届くテレビのスポット広告を買っていただろうが、いまとなっては1500万件の個人取引をするためのコンピューターが必要だ。
テクノロジーも取引機会も偉大だが、行なわれている商取引のいくつかは日和見主義的なもので、これは終わらせなければならない。
――アメリカと比べて、イギリスの状況は?
世界最大手の広告主のいくつかはアメリカにあるため、「どうしたらこんなことが起こり得るのか?」と真っ先に疑問視するのはアメリカ人だ。彼らこそ支出に対する最大限の金額を絞り出し、エージェンシーのレバレッジとして巨額を懐に入れているのだ。
彼らはそれで自分たちが救われるだろうと思っていた。正直に言って、ANAが「リベートに関してクライアントはまったく知る由もない」などといっているのは、ばかげている。
――これらすべての2017年の展望は? 解決策は?
今年は大きな年になるだろう。より高い透明性を提供するために、誰もがセルフサービスのシステムを使うようになるだろう。そして、これまで起こったことに対する恩赦、エージェンシーへの公正な報酬、そして透明性を高めるための標準化されたフレームワークを求める声が挙がると予想している。
前に進むために、この8年間のあれこれを非難し合うのではなく、譲れない一線を引くことが一番確かな道だ。私は、これは全員の連帯責任であると信じている。