広告業界にはスタートアップやイノベーションが好きなエージェンシーがたくさんあるが、その裏はたいした物がないことが多い。匿名と引き換えに率直に語ってもらう告白シリーズでは今回、ある有名エージェンシーの元イノベーション主任が、たくさんのクリエイティブショップがイノベーションラボを展開している理由を明かしてくれた。
広告業界にはスタートアップやイノベーションが好きだと公言するエージェンシーがたくさんある。だが、華やかな話の裏にはたいした物がないということが、あまりに多い。
匿名と引き換えに率直に語ってもらう告白シリーズ。今回、ある有名広告エージェンシーの元イノベーション主任に、たくさんのクリエイティブショップがイノベーションラボを展開している理由を明かしてもらった。
わかりやすくするために、会話は少し編集している。
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――エージェンシーにとってイノベーションが大切である理由が盛んに語られている。真剣に受け止めない人が多いのはなぜ?
出資者に忠実であることが必要なエージェンシーは、ここしばらくやってきたように、コスト把握をしっかり進めている。つまり、毎月の数字で出資者をなだめる方が重要なのだ。
エージェンシーのバックエンドコストに含まれるバックエンドの企業だと、クライアントから(イノベーション向けの)お金を出してもらうのはもっと難しい。そのため、イノベーションの専門知識は会社の重荷だと見られている。
長期的には効果があるとわかる具体的な手段がないことが、さらに拍車をかけている。最近では、クライアントとエージェンシーの双方で、「ピカピカの新しいおもちゃ」症候群がたくさん目撃されてきた。
そこに極めて短期的な思考を加えることも可能だ。クライアントは間違った課題に取り組み、原因ではなく効果を論じている。
――イノベーションは定量化が難しいからといって、定量化すべきではないということにはならない、と
イノベーションへの意欲があるCEOが一定数いる一方で、日々の仕事に効果がないからと、イノベーションに投資する必要性を理解できないCEOもいる。そのふたつの違いは、エージェンシーのCEOが、しっかりとしたKPIのセットを要求しているかどうかによって見分けられる。
イノベーションという言葉に対するKPI――すなわちより大きいなにか、より良いなにか、より強いなにか、異なるなにか――を明確に定義してあれば、たくさんの成長を目にすることができるだろう。これからはハイブリッドモデルになるのはほぼ間違いないが、クライアントの成果と指標にしっかりと即した、お互いの価値を促進するモデルに基づいた道を進まなければならない。従来の多くのエージェンシーモデルはそうではない。
――イノベーションのKPIをもたないエージェンシーでは、クライアントからさらに予算を獲得するためだけのイノベーションになっていると?
儲けを増やすための目くらましにすぎない。エージェンシーは表面上、最先端で先を見ていると見られようとして、イノベーションハブなり社内のスペシャリストなりを用意するだろう。
しかし、実際には60年間変わっていないビジネスを提供し続けているのだ。これまでとまったく同じことをやっているエージェンシーはたくさんある。
――つまりエージェンシーは、ビジネスの別のよくない部分を隠すためにイノベーションを利用していると?
たとえばピュブリシスグループ(Publicis Groupe)は、自社とクライアントのために構築している人工知能「マルセル(Marcel)」に集中できるように、広告賞には一切資金を使わないようにすると発表した。しかし、これはまやかしかもしれない。賞にお金を使うのが嫌になり、そこで、スタートアップに出資するというPRストーリーを公開することにした可能性がある。賞に行くお金が多いほど、それがわかりやすい。
――これに対するブランドの反応は?
全般的に言ってクライアントは、エージェンシーの稼ぎ方について理解を大幅に深めている。テクノロジー導入とは、透明になり、ごまかしがなくなるということなのだ。また、ソーシャルメディアのさまざまな手段による、直接行える代替策がさらに増えている。
クライアントは、エビデンスに基づくソリューションに目を向けており、表面的なパートナーシップや間に合わせのアライアンスに納得してばかりではない。
――この問題をエージェンシーが修正するには?
大半のCEOは、本当のイノベーションに必要とされる変化が不可欠だとは、まだ見ていない。彼らにとっては、クライアントを喜ばせるために、「イノベーションやキラキラした新しい妖精の粉を振りまく」ことで十分なのだ。
クライアントもまた、イノベーティブな仕事の購入という点では度胸がない。しかし何より、多くの会社が、イノベーションとはビジネス上の変革の一環であることをわかっていない。彼らは、イノベーションや、革新的な考え方を会社の中核に実際に埋め込むためにすべきことを目にしても、自分たちの考え方を根本的に変えるのは難しい。
だから、ウーバー(Uber)やAirbnb(エアビーアンドビー)のような破壊者たちが、既存のモデルを破壊していくことになる。機敏ですばしっこいプレイヤーたちの新しいモデルがやってこようとしている。
Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)