業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、ブランドやエージェンシー、アドテクプラットフォームからの依頼で広告詐欺の調査を行う専門家に話を聞いた。この人物によると、エージェンシーは不純な動機で審査会社を選んでいるうえ、統計サンプリングの概念を十分に理解していないという。
広告詐欺の構造については広く議論されているが、理解するのは難しい。
業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、ブランドやエージェンシー、アドテクプラットフォームからの依頼で広告詐欺の調査を行う専門家に話を聞いた。この人物によると、エージェンシーは不純な動機で審査会社を選んでいるうえ、統計サンプリングの概念を十分に理解していないという。
以下はインタビュー内容を要約し、読みやすく編集したものだ。
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――タブーラ(Taboola)やアウトブレイン(Outbrain)などのコンテンツレコメンデーションウィジェットは、米大統領選以後、信憑性の乏しい過激なコンテンツの資金源になっているとして、かなりの批判にさらされた。これらのウィジェットは広告詐欺の温床でもあるのか?
広告料がクリック単位(CPC)のものは、どれもきわめて危険なビジネスモデルだ。サイトにウィジェットを設置したパブリッシャーは、クリック数に応じて報酬を受け取る。このようなウィジェットは、クリックスルー率の高いサイトに設置すれば高い売上をもたらしてくれるが、クリックスルー率が高いサイトは詐欺の可能性も高い。したがって、詐欺を助長する環境を生み出しているといえる。
――グループM(GroupM)の最高デジタル責任者、ロブ・ノーマン氏が最近、広告詐欺の悪影響はしばしば誇張されていると述べた。これについて、あなたの意見は?
不安で混乱に陥るクライアントをなだめるつもりで言ったのだろう。クライアントが目にするのは、広告詐欺は悪化の一途をたどる大問題だという話ばかりだからだ。
――しかし、誰の数字なら信用できるのか? 当然ながらエージェンシーや審査会社は、クライアントに詐欺は少ないと思わせたい。一方で詐欺対策コンサルタントは、詐欺はとてつもない大問題だが、自分たちが解決してみせる、と伝えたい。
詐欺はこっそりと行われ、見つからないようあらゆる手を尽くしている。したがって、推定は単なる推定にすぎない。推定にバラつきがあるのは、異なる見方を示しているのであって、健全な状況だ。だが、全員の意見が一致していることがひとつある。それは予防策が常に後手に回っているということだ。
――詐欺業者は審査をくぐり抜ける新たな方法をつねに編み出しつづけている。第三者審査は本当に有効なのか?
審査は確かに有効だが、問題がどこにありそうかを指摘してくれるだけだ。クライアントは自分自身で調査を徹底し、サプライチェーンから詐欺を撲滅する努力を続ける必要がある。
――いまだに審査会社は山ほどある。そろそろ広告主にも、どれがもっとも効果があるのかわかっていい頃では?
クライアントは、必ずしももっとも正確な審査会社を選ぼうとしていない。エージェンシーはしばしばコンペを実施する。ふたつのベンダーを使ってテストを実施し、結果を比較して、詐欺の割合を低く報告したベンダーと契約するのだ。
――そのやり方の問題点は?
エージェンシーが自分たちに都合のいい数字を選んでいるにすぎないことだ。たとえば、一方のベンダーは80%が詐欺と報告し、もう一方は20%が詐欺と報告したとする。多くのエージェンシーは後者を選ぶ。クライアントにひどい結果を見せたくないからだ。だが、賢いエージェンシーなら長期的視点に立ち、悪い数値を報告した方のベンダーと契約して、問題点を洗い出そうとするだろう。
――ベンダー利用以外に、広告主が詐欺被害軽減のために何ができる?
簡単な質問をしてみよう。広告枠を買う際に、どうやってオーディエンスを獲得しているか聞いてみる。ユーザーあたりの獲得コストがずっと一定なら、確実に詐欺だ。本物のオーディエンスを獲得しているなら、将来のクリックスルー率を確実に計算できるはずがないのだから。詐欺パブリッシャーや胡散臭いアドネットワークの多くは、質問をすればするほど逃げ腰になっていくはずだ。
――それは、ずいぶんシンプルな方法に思える。広告主はすでに実施しているのでは?
この業界はアドバイイングに忙しすぎて、審査をベンダーに任せきりにしている。ときには少し立ち止まって、普段は目につかない場所を覗き込むのも大切だ。
――詐欺の調査について、人々が一番勘違いしていることは?
サンプリングだ。詐欺の検出について話すとき、ベンダーがキャンペーンをどの程度実際にスキャンしているかなど、広告主は考えもしない。
――それはどういう意味?
大部分のベンダーは広告主のインプレッションの10%しかスキャンしない。それに広告主の方も、サンプルサイズはそれで十分だと考えている。しかし、サンプルサイズと信頼区間が相関するのは、サンプルが母集団をきちんと反映している場合だけだ。そして、ベンダーが本当にキャンペーン全体を反映するサンプルを拾っているかどうか、広告主にはわからない。
Ross Benes(原文 / 訳:ガリレオ)
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