メディア企業がブランデッドコンテンツの制作部門を社内に置くことはごく当たり前になっているが、米コンデナストはその社内部門「23ストーリーズ」を独立したエージェンシーに育て上げようとしている。イベン制作会社企業の買収により、プリント広告や動画広告から体験型マーケティングまでを提供できるようになった。その狙いは?
メディア企業が社内に専門部署を設置し、広告主のブランドメッセージを盛り込んだコンテンツを制作・配信することが当たり前になった今日、米コンデナスト(Condé Nast)はその社内部門「23ストーリーズ(23 Stories)」を拡張し、独立したエージェンシーに育て上げようとしている。
23ストーリーズは2015年1月、コンデナスト全体のブランデッドコンテンツの制作から配信までを一括して担当する部門として誕生。現在100人超の従業員を擁し、イベント制作、人材派遣、コンサルティングなど、コンデナストのメディアとは関係がないサービスにまで手を広げている。
買収を通じてサービス拡大
コンデナストはここ半年以上にわたり、23ストーリーズの機能強化に力を注いできた。3月、体験型イベント企業ポップ2ライフ(Pop2Life)およびイベントテックプラットフォーム企業リビット(Ribyt)を買収し、サービスを拡大。23ストーリーズは最近の仕事で、新たな力を示してきた。8月、『バニティ・フェア(Vanity Fair)』に掲載された米テレビ局大手FOXのドラマ『Empire 成功の代償』のプリント広告をデザイン。またニューヨークで開催された、米自動車大手フォードの大型高級SUV「リンカーン・ナビゲーター(Lincoln Navigator)」の新モデルを試乗できる3日間のポップアップイベントの制作を担当した。
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23ストーリーズはこれ以前にも外部ブランドの仕事に取り組んでいた。たとえば2016年1月、映画監督ジア・コッポラ氏と組んでグッチ(Gucci)の動画キャンペーンを制作。このシリーズは、『VOGUE』や『ニューヨーカー(The New Yorker)』などのコンデナストのメディアばかりではなく、グッチのWebサイトにも掲載された。
「我々は現在の編集体制の隣に、すべての機能を備えたエージェンシー組織を作ろうとしている」と語ったのは、ジョシュ・スティンチコム氏。23ストーリーズのシニアバイスプレジデント兼マネージングディレクターを経て、現在コンデナストのチーフエクスペリエンスオフィサーを務めている。「我々はプロジェクトに応じてエージェンシーのサービスをフルで提供し、ブランドの関心を引くことができる」。
編集サイドからの心強い協力も
コンデナストが23ストーリーズを設立したのは、2015年1月のことだ。当初は編集スタッフが23ストーリーズのマーケティングキャンペーンをアシストしていたため、編集業における伝統的な分離の原則を破るものだとして多くのメディア評論家から批判された。現在、23ストーリーズは、エージェンシーの元幹部や社員を中心としたスタッフにより、独立して運営されている。率いるのは、エージェンシーであるARニューヨーク(AR New York)を創業したあとでコンデナストに移籍し、現在クリエイティブディレクターを務めるラウル・マルティネス氏だ。23ストーリーズは、特定のブランドキャンペーンや内部のイベントについては、必要に応じて、引き続きコンデナストの編集の協力を仰ぐことにしている。
「広告の考え方全体が、この4~5年で大きく変化した」とマルティネス氏は語った。「我々はカスタマイズされたチームを提案できる。我々が所有するメディアは、提案される可能性があるすべてのライフスタイルをカバーしている」。
『ティーン・ヴォーグ(Teen Vogue)』の編集長エレイン・ウェルタロス氏は23ストーリーズと緊密に連携し、同氏率いる編集チームが発案した次回のサミットのプロジェクトを進めている。同氏は編集者としての視点から見て、イベントへの進出はブランドにとって重要な一歩だと語った。次回のサミットのねらいは、『ティーン・ヴォーグ』が最近よく取り上げてきたLGBTの権利の平等、性と生殖に関する女性の権利、理系分野における女性のリーダーシップなどのテーマについて、読者の関心を駆り立てることにある。
体験型マーケティングの需要
『ティーン・ヴォーグ』はこのサミットのほかにも、さまざまな講演やパネルディスカッションを通じて、読者と編集者をつなげる交流イベントを全米で開催していく。
「我々は、現状を前向きに変えていく取り組みの支援に力を注いでいる」とウェルタロス氏は語った。「このミッションは我々のコミュニティから好評を得ており、受け入れられている。今後は、我々のオーディエンスに対し、望ましい変革を実現するためのコミュニティ内部のツールとリソースを提供することで、我々のミッションを推進していく」。
「マーケターはイベントに高い関心を持つようになってきた。消費者がイベントに高い関心を持つようになったためだ」とマルティネス氏は語った。「過剰にデジタル化した世界に対する、アイロニックな反動だ。人は現実の生きた体験を強く求めると同時に、ソーシャルメディアでそれを共有したがっている。体験型マーケティングの需要があり、それがコンテンツ制作を促進してもいる」。
Bethany Biron (原文 / 訳:ガリレオ)
Photo courtesy of 23 Stories for Gucci