「現状に満足するな」:クリエイティブエージェンシーに求められる、難しい綱渡り

アメリカではクリエイティブエージェンシーが窮地に立たされている。少なくとも、クライアントは指定代理店(agency of record:以下、AOR)よりプロジェクト単位の契約を求めており、支払期限の延長もトレンドになっている。つまり、クライアントはコンサルティングを依頼せず、クリエイティブ業務の内製化を検討しているということだ。

クリエイティブエージェンシーがこのような環境で生き残るには、プロジェクト単位の仕事に適応し、自身のビジネスニーズへの対応方法を考えながら、これまでより長く支払いを待つという難しい綱渡りをこなす必要がある。さらに、クライアントのクリエイティブ業務にエージェンシーが必要な理由を絶えず明確にし続けなければならない。エージェンシーはクライアントのニーズを満たすだけでなく、エージェンシーのブランドも役に立つということを。

無理難題に聞こえるかもしれない。そして多くのエージェンシーは生き残ることができないと思うかもしれない。実際、ゲリー・グラフ氏は年内にバートンF.グラフ(Barton F. Graf)を閉鎖すると発表した。2010年に創業し、奇妙なユーモアのセンスで知られた独立系クリエイティブエージェンシーが閉鎖するという事実は、クリエイティブエージェンシー、なかでも独立系エージェンシーは、このような状況を乗り切れるのかという疑問を投げ掛けている。

メタフォース(Metaforce)の共同創業者でブランドコンサルタントを務めるアレン・アダムソン氏は「バートンF.グラフが独立系クリエイティブエージェンシーの終わりを象徴しているとは思わない」と話す。「もし世界が違っていたら、おそらくデロイト(Deloitte)に身売りすることも可能だっただろう」。

今回取材したエージェンシー関係者たちは、巨大クリエイティブエージェンシーが失われることを嘆いていたが、独立系クリエイティブエージェンシーの終わりのはじまりとは思っていない。むしろ、クリエイティブエージェンシーは絶え間なくビジネスモデルを変化させ、振り子がどのように揺れているか(プロジェクト単位の契約かAORか)を常に把握する必要があり、エージェンシーがブランドのサービスプロバイダーであるという現実を受け入れなければならない前兆と捉えている。

エージェンシー検索コンサルタントAARパートナーズ(AAR Partners)のプレジデント、リサ・コラントゥオーノ氏は「エージェンシーは4分の1の時間で、さらに半額で、倍の仕事をしている」と話す。「つまり、中小のクリエイティブエージェンシーは破滅に向かっているということだろうか? 答えはノーだ。この事実が意味しているのは、エージェンシーは大小にかかわらず、身軽でなければならないということだ。決して現状に満足してはいけない。自己満足したときこそ、あらゆる点を見直さなければならない」。

エージェンシーが必要な理由を伝える

世界最大の広告主であるプロクター・アンド・ギャンブル(以下、P&G)は効率化のため、エージェンシーの整理、業務の内製化、エージェンシーコストの削減を積極的に推し進めてきた企業の1社だ。2014年以降、同社はエージェンシーの数を6000から2500まで削減した。エージェンシーの仕事はまだあるが、以前より少なくなっている。

P&Gで最高ブランド責任者を務めるマーク・プリチャード氏はBusiness Insider(ビジネスインサイダー)の取材に対し、「我々は根本からやり方を変え、エージェンシーへの支払いと制作コストを10億ドル(約1050億円)規模で削減することに成功した」と述べている。「基本的には、さまざまなエージェンシーから優秀な人材を集め、ひとつのグループにまとめるという方法にした。狙いはクリエイティブ業務におけるコラボレーションの組織化だ」。

P&Gのこうした要求は、あらゆる規模のクリエイティブエージェンシーが考えるべきひとつの問題を象徴しているのかもしれない。今回取材したエージェンシー関係者たちは、特にこの市場では、エージェンシーが独自の用途と目的を持ち、それらをクライアントに提供し続ける必要があると分析している。ただし、クリエイティブ業務そのものが少ない市場への対処方法を見つけ出さない限り、マーケターに用途と目的を提供するだけで、生き延びることはできないのだろう。

キャンベル・エウォルドのCEOケビン・ワーツ氏は「何のために存在し、どのような関係を築くかを明確にすれば、エージェンシーは成功するだろう」と述べたうえで、クライアントはエージェンシーにフルサービスを求めており、本当の意味で導いてくれるエージェンシーが好まれると言い添えた。「今後も(クライアントが)5~6社のエージェンシーと関係を構築しなければならない(場面はあるだろう)。クライアントはその調整を面倒に思っている。そのため、彼らは本当の意味でまとめ役となるエージェンシーを求めている。さまざまなエージェンシーとうまくやっていくエージェンシーだ」。

マーケティングの専門家であるピーター・ワインガード氏にとって、大きなエージェンシーと仕事をすることは以前ほど魅力的ではない。ワインガード氏はニューヨーク・パブリック・ラジオ(New York Public Radio)のCMOとして、アバウトドットコム(About.com)、シティー・イーツ(City Eats)などのブランドを担当してきた。ワインガード氏は電子メールで取材に応じ、次のように述べている。「ブランドは社内に多くの人材を抱え、顧客のファーストパーティデータも十分ある。多くの場合、自前のソーシャルメディアやデジタルメディアを運営している。このような世界では、制作の専門知識やマスメディアの割引料金など、大きなエージェンシーが伝統的に提供してきたサービスの多くは必要とされない」。また、ワインガード氏によれば、大手ブランドのマーケターたちは、完全に統合されたエージェンシーのさまざまなチームと連携しなければならないことにフラストレーションを感じているという。

プロジェクト単位の仕事の現実

エージェンシーにプロジェクト単位の契約を求めることはかつてないほど一般化しているが、この傾向がいつまでも続くとは限らない。クライアントはエージェンシーとプロジェクト単位の仕事をすることで、長期的な関係を完全にコミットしないことにより、関係がどのように変化していくかを感じ取ることになる。プロジェクト単位の仕事では、クライアントは本当の意味で卓越したクリエイティブアイデアではなく、クライアント自身が要求したものを得ることになる可能性が高い。エージェンシーは長期的な関係を築かないクライアントを支援したいと思わないためだ。

コラントゥオーノ氏によれば、プロジェクト単位の契約とAORのどちらを選ぶかはクライアント次第だという。コラントゥオーノ氏は最近の傾向として、多くのブランドを持つ大企業は両方を取り入れようとしていると述べている。

それでも、一部のエージェンシー関係者は、クリエイティブエージェンシーが進むべき道はプロジェクト単位の仕事に適応することだと考えている。AORよりプロジェクト単位の契約が好まれる流れに逆らうのではなく、ビジネスモデルを一新し、プロジェクト単位の仕事を勝ち取る世界に慣れるべきだと考えているのだ。無駄を減らし、マーケターが求めるビジネスモデルに対応すれば、長期生存率が高まると、エージェンシー関係者たちは口をそろえる。

そのためには、クリエイティブ部門の規模を見直し、契約を勝ち取ったとき、人員をシームレスに増減させる方法を考え、オフィススペースの大きさなど、経費についても再考しなければならない。

キンバ・グループ(Kimba Group)の共同創業者レベッカ・ロソフ氏は「プロジェクト単位の仕事は、適切に扱えば、ビジネスモデルとして成功を収める可能性がある」と話す。「制作会社を見れば、人材の配置を工夫すれば良いことがわかる。それが現実だ。必要なのは、ビジネスに精通していることだ」。

しかし、ブランドのマーケターにとって、プロジェクト単位のモデルへの移行は、長期的な問題の解決につながらないかもしれない。あるエージェンシーがプロジェクトを担当し、ビジネス上の問題が解決しなかった場合、マーケターは別のエージェンシーに同じことを依頼する可能性が高いためだ。

フルサービスの独立系エージェンシー、ケミストリー(Chemistry)のプレジデント、ティム・スミス氏は、マーケターがすぐにエージェンシーを変える理由のひとつとしてエージェンシーへの不信感を挙げ、だからこそブランドはAORにすべてを任せたがらないのだと分析している。

「これは考え方として間違っている。なぜならパートナーになってはじめて、長期的な視野に立ち、クライアントのビジネス上の問題を解決できるためだ」と、スミス氏は話す。「ひとつのプロジェクトを与えられたら、燃えさかる火を消すだけだ。火を消し終わり、彼らの手に戻しても、いずれ同じ問題が再燃する。これはとても残念なことだ」。

プロジェクト単位のモデルへの移行は、創造性という犠牲を伴う可能性も高い。ゴードゥー・ディスカバリー(GoDo Discovery Co.)のCEOエリック・ハースカインド氏は、電子メールで取材に応じ、次のように述べている。「エージェンシーモデルは長年、進化し続けている。大口の顧客がいなければ、企業の成長に必要な従業員を雇うこともできない。大口顧客をいくつか失えば、以前のように創造性を発揮する自由まで失ってしまう」。

Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)