対面会合を有益にする非言語シグナルの数々に、Zoomでは気づきにくい。また、Zoomでは雑談に代わるものは、事実上存在しない。コロナ禍が長引くなか、こうした欠点を克服するべく、メタバース/仮想空間でコワーキングをする企業も現れている。
コロナ禍中、対面共同作業の代替策として、多くの企業がバーチャルコミュニケーションツールを取り入れたが、彼らは間もなく、後者には弱点があることに気づいた――たとえば、対面会合を有益にする非言語シグナルの数々に、Zoomでは気づきにくい。また、雑談に代わるものは、事実上存在しない。
コロナ禍が長引くなか、こうした欠点を克服するべく、メタバース/仮想空間でコワーキングをする企業も現れている。
Zoom「燃え尽き症候群」は実際、絵空事ではない。非言語シグナルに気づこうと目を凝らし、自分の顔と常に対峙し、非モバイル環境で会話を続けねばならない――こうした諸々がすべて、この1年にわたる全米的「Zoom疲れ」の要因となっていると、スタンフォード大学バーチャル・ヒューマン・インタラクション研究所は2021年2月に報告している。「Zoomでは、新たなコミュニケーション手段を有機的に生むことはできない」と、メタバースプラットフォーム、トピア(Topia)CEO、ダニエル・リーベスカインド氏は語る。「とにかく不可能なんだ」。
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「実際のオフィスに近い体験」
ロブロックス(Roblox)やマインクラフト(Minecraft)をはじめ、大半のメタバースプラットフォームはもともと、仕事ではなく遊びの場として設計されている。だが設計・開発者の多くは、そうした仮想空間が持つミーティングやコワーキングの場としての潜在力に有機的に気づいている。たとえば、トピアのリーベスカインド氏とその同僚は、Google Meetから自社開発の仮想空間へと移行した。クロスプラットフォームソーシャルアプリ/仮想空間、レック・ルーム(Rec Room)では、従業員は「メーカーペン(maker pen)」を使い、3次元仮想物体(バーチャルオブジェクト)を試作できる。3Dソーシャルメタバースプラットフォーム、ステージヴァース(Stageverse)の従業員は、2021年前半に自社プロダクトの試用を始めたところ、ごく自然に交流および集合できることに気づいた。
これらの企業が異口同音に認めるのが、没入型仮想空間でのほうがより滑らかかつ自然な交流ができ、いわゆる社会的手がかりにも気づきやすい、という点だ。たとえば、トピアが毎週開催しているイベント「タウンホール(Town Hall)」では、話者は並び順を通じて話したい順番をそれとなく伝えられるかもしれないが、こうした暗示は従来型のビデオ通話/会議では難しい場合が少なくない。「Zoomではどうしても、職場に付き物の堅苦しさが出てしまう、たとえ3~4人しかいない場合でもそうだ」とステージヴァースのCEOティム・リッカー氏は指摘する。「廊下で軽く言葉を交わす、といった機会がどれほど重要なのか、失ってみて初めてわかった――いわゆる雑談の大切さだよ」。
仮想コワーキングスペースは実際、ひとつのプロジェクトになる可能性を秘めている。2021年8月、Facebookはホライゾン・ワークルームズ(Horizon Workrooms)を立ち上げた。同僚たちがVRヘッドセットを付け、同じバーチャルルームに集えるようにするリモート共同作業ツールだ。「文字どおり挙手もできる。ほか参加者は手が上がっているのを周辺視野で目にして、そちらを振り向く」と、プログラマティック広告企業シェアスルー(Sharethrough)の社長ダン・グリーンバーグ氏は語る。「それで、『ああ、見えてるよ、私はここだ――で、どうした?』となるわけだ」。
2021年7月、マーク・ザッカーバーグ氏はザ・ヴァージ(The Verge)のインタビューにおいて、Facebookが今後メタバース企業へと方向転換する旨の発言をし、物議を醸したわけだが、いずれにせよ、仮想空間の職場利用は、メタバーススタートアップに限った話ではない。ロブロックスをベースにするバーチャル体験開発企業スーパーソーシャル(Supersocial)の従業員はすでに、労働時間の大半を仮想空間で費やしており、したがって2021年に、バーチャルオフィスを設立した同社の動きは極めて理に適ったものだった。eスポーツニュースサイト、アップカマー(Upcomer)の記者らは、2021年4月に同社がリモート化したことを受け、マインクラフトにバーチャルなスタッフラウンジを作った。「あれは、実際のオフィスで感じられる雰囲気に一番近いものだったと思う」と、アップカマーのスタッフライター、ニック・レイ氏は語る。
ゲーマー含有率の低い企業でも
従業員に占めるゲーマーの割合がクリティカルマスに届かない企業でさえ、バーチャルスペースの活用を始めている。バーチャルリアリティプラットフォーム、VRダイレクト(VRDirect)のマネージングディレクター、ロルフ・アイレンバーガー氏によれば、同社はドイツの高級車メーカー、ポルシェ(Porsche)やスイスを拠点とする食品飲料大手ネスレ(Nestlé)といったクライアントと共同で、オンボーディングミーティングやカンファレンスといったバーチャルリアリティワークイベントを開催している。「我々はソフトウェアを提供し、コンテンツは彼ら自身が創る」と氏は語る。
職場/ワークスペースとしての仮想空間の成長は、雇用者という概念の転換にもつながっている。これは実際、スーパーソーシャルといったメタバースネイティブな企業ではすでに起きており、仮想および現実空間のオーバーラップが進むなか、今後も続いていくと思われる。職場がよりアクセスしやすいものになれば、かつては物理的な距離や文化の違い、あるいは年齢のせいでアクセスしづらかった職業も同じく、手の届きやすいものになるからだ。
スーパーソーシャルのCEO、ヨナタン・ラズ・フリードマン氏は、変化はすでに起きつつあると確信している。10代のデベロッパーから応募が多数寄せられており、彼らの多くはバーチャル戦力に加われる実力もやる気も備えているが、現段階では断らざるをえないと、同氏は語る。「15歳の少年が自室でビジネスを構築できるいま、そういう若者たちがこうしたテクノロジーに余すことなくアクセスできるよう、労働者の要件や定義に関する考えを改める必要がある。16~7歳がロブロックスといったプラットフォームで創り出す経験や職場環境は、35歳以上の人が創るそれとは、大いに違う」。
偶然の産物か、目的に特化した産物かの別はともかく、メタバースという概念が一般化しつつあるなか、メタバース/仮想空間でのバーチャルコワーキングは確実に広まりつつある。たしかに、ロブロックスが近い将来Zoomに取って代わる、ということはないだろう――ただし、従業員をZoom「燃え尽き症候群」から救い、彼らに新たな形での共同作業を促し、潜在的戦力の人材を増強したいと考えるすべての企業にとって、そうしたオンラインゲーミングプラットフォームが実行可能な代替案であることは、間違いない。
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)