招待制の音声SNSアプリ、Clubhouse(クラブハウス)の管理をフルタイムで行う企業が増えている。特にPRやコミュニケーション、ブランディングエージェンシーのあいだでは、専門職を設けるところも出てきたほどだ。
招待制の音声SNSアプリ、Clubhouse(クラブハウス)の管理をフルタイムで行う企業が増えている。特にPRやコミュニケーション、ブランディングエージェンシーのあいだでは、専門職を設けるところも出てきたほどだ。
いまだベータ版であり、iPhoneユーザーしか使うことができないClubhouse。だが、週あたりのアクティブユーザー数は200万人を超えるほどの人気を誇っており、コミュニティ構築や見込み客の獲得、記者会見の場として注目するエージェンシーが増えている。
クライアント対応のコア戦略へ
現時点でClubhouseの管理ツールは皆無なため、管理は必然的に手作業で行うことになる。ロンドンのコミュニケーションエージェンシー、バッテンホール(Battenhall)でClubhouseマネージャーを務めるニコール・メザサルマ氏も、パネルのスケジューリングやグループ管理など、実際にすべてを手作業で行っているという。
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15年間ジャーナリストとして活躍してきたメザサルマ氏は、2021年に入ってからバッテンホールのClubhouseマネージャーとして勤務している。同氏の主な業務はClubhouseについて社内で研究調査を行い、メディア戦略の一環としてClubhouseに関心を寄せるバッテンホールのクライアントへベストプラクティス情報を提供することである。
米DIGIDAYはこの記事を書くに当たり、メザサルマ氏以外にも2人のClubhouseマネージャーに話を訊いたが、いずれのエージェンシーも急激に伸びているClubhouseをフルタイムで管理し、クライアント対応のコア戦略へと組み込みたいと考えているようだ。
「試しながら学んでいる」
専門マネージャーを据えることで、クライアントに具体的かつ的確なアドバイスを送ることができる。「Clubhouseを採用したらうまくいくか?」という疑問の答えを探すブランドは増えており、適切な助言ができる価値は大きいとメザサルマ氏は話す。
「Clubhouseは、どの企業にとっても適切なアプリというわけではない。まずベータ版のアプリで、かつiPhoneにしか対応していない。オーディエンスには大幅に制約がかかることになる。だからこそ、クライアントごとに適切かどうかの判断が重要になってくる」。
Clubhouseマネージャーは、ほかにもクラブの立ち上げやコンテンツ内容の決定、ゲストのスケジューリング、イベントのプロモーションなどを行う。
「どうすればうまくいくか、何をすると失敗するか。実際に操作しながら、習得した知見の価値は非常に大きい」とメザサルマ氏。「試しながら学んでいるマネージャーが大半なのではないか」。
コミュニティおよび獲得ツール
デジタル広告エージェンシーのリッチフィールド・メディア(Litchfield Media)のCEO、メリッサ・リッチフィールド氏は、Clubhouseをコミュニティ構築および見込み客の獲得ツールとして捉えている。
リッチフィールド氏は現在、「フィーメイル・マーケターズ(Female Marketers)」というクラブを管理している。昨年に立ち上げられ、メンバー5000人、フォロワー4000人という規模のクラブだ。
リッチフィールド氏はひとりで管理しているわけではなく、マーケティング担当のアシスタントがメンバーの参加許可やスピーカーのスケジューリング、イベントのプロモーションなどを行っている。パネルディスカッションを行ったあとは見込み客に対し、Clubhouseのプロフィール欄に書かれたTwitterやインスタグラムのアカウントでフォローアップを行っている。
「Clubhouseによって、コンバージョンにかかっていた時間が1週間から1時間に短縮できるようになった」とリッチフィールド氏は語る。
「今はインフラ構築が主目的」
リッチフィールド・メディアでは今のところフルタイムで管理する役職を設けていないが、今後の課題として検討中とのことだ。リッチフィールド氏はClubhouseの流行を受けて、Twitter Spaces(*訳注:リアルタイムで音声通話を行うTwitterの新サービス。2021年4月から一般公開予定)をはじめとする音声ベースのほかのプラットフォームの利用も考えているという。
「クラブの規模も大きくなっているし、フルタイムの役職を設けることも検討している。これまでとは異なる業務が求められている」。
Clubhouseにはいまだ収益化仕組みが実装されていないが、リッチフィールド氏は「いずれVIPメンバーやプレミア機能などが導入できれば」と期待を寄せる。
「いずれ戦略を立てることになるだろうが、今のところインフラの構築が主目的となっている」。
リアルタイム音声サービスの恩恵
PR・コンテンツ・デジタル戦略企業のインテルメディアグループ(Media Group)では、Clubhouseが見込み客の獲得数でインスタグラムに次いで2番目の規模となっているという。共同創業者のリーガン・ファーリー氏によると、新規の見込みクライアントからの問い合わせのうち2割近くがClubhouseから届いているとのことだ。
また、クライアント向けに会見を行うなど、リアルタイムの音声サービスの恩恵をさまざまな局面で感じているという。
「音声を通じて、その場にいながら『会う』ことができる。指標はリアルタイムで追跡できないかもしれないが、オーディエンスとリアルタイムでつながれることの意味は大きく、ツールとしての価値は非常に高い」。
ファーリー氏は、Clubhouseをファネルマーケティング戦略で最上位に位置づけている。誰でも入れるClubhouseは、さまざまな見込み客を呼び込む可能性を秘めている。
「Clubhouseで注意すべきなのは、どのようなルームにしたいのか、はっきりと指針を設けて管理することだ」とファーリー氏は話す。
「音声SNSは残り続けるが…」
今、Clubhouseのあとを追うように音声ベースのSNSサービスが増えている。上述のTwitter Spacesもそうだし、ニューヨーク・タイムズの報道によると、Facebookも競合サービスの立ち上げを進めているという。
こういった流れを受けて、音声SNS専門の役職は今後増えていくのではないかとメザサルマ氏は予測する。「役職を任されるのは、既存のSNSマネージャーや、(音声コンテンツという性質上)ポッドキャストなどの音声担当になる可能性が高いだろう」。
Clubhouseが流行った背景には、新型コロナウイルスのパンデミックとロックダウンがあるという指摘も少なくない。ワクチンの接種が進み、外出する人が増えていけばこのトレンドがどうなっていくのかは不透明だ。
だが、Clubhouseがすぐに下火になることはないだろうとファーリー氏は予想する。
「音声SNSは残り続ける。それがClubhouseであるかは分からないが」と、ファーリー氏は続ける。「音声メインである以上、ほかのアプリのように画像やバニティメトリクスに振り回されることもない。そして迅速かつ効果的なコミュニケーションへのニーズは常にある。音声SNSはそれに応える大きな存在だ」。
[原文:‘Communicate quickly and effectively’: Why agencies are hiring Clubhouse managers]
KIMEKO MCCOY(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU