元MTVのビデオ・ジョッキー、コルトレーン・カーティス氏が運営する、クリエイティブオフィス「チーム・エピファニー(Team Epiphany)」は、本質的なインフルエンサーマーケティングを提供してくれると評判だ。「インフルエンサーはコミュニティ」と言い切る、コルトレーン氏のキャリアを追った。
コルトレーン・カーティス氏のオフィスの訪問客が最初に目にするのは、彼の5才になる息子エリントンのポートレートだ。ほかにも映画『ハード・プレイ(White Men Can’t Jump)』や『星の王子 ニューヨークへ行く(Coming to America)』のイラストレーションが窓際に飾られている。
透明なテーブルを覗くと、なかにはエア・ジョーダン2・ハイDBモデルの石膏模型が鎮座。ふたつある模型は白い方がアーティスト、ダニエル・アーシャムによるもので、ブロンズの方はアーティスト、マット・セナがデザインしたものだ。
クリエイティブオフィス「チーム・エピファニー(Team Epiphany)」のファウンダーでマネージングパートナーであるカーティス氏は、多くの顔を持つ41歳だ。起業家、大の息子好きの父親、1100足ほどのスニーカー収集家、そして元MTVのビデオ・ジョッキー。
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カーティス氏はまた、インフルエンサーを手配する人物としても知られている。Googleやハイネケン(Heineken)、そしてヘンドリック・ジン(Hendrick’s Gin)といったブランドの大きな予算を使ってインフルエンサーキャンペーンを展開する。

チーム・エピファニーにある、コルトレーン・カーティス氏のオフィス。Credit: Angel Navedo/Team Epiphany
「コルトレーンは非常にダイナミックで誠実、かつ正直なんだ。たとえ私が同意しないような内容でも、ビジネスにとって何がベストかを伝えてくれる。これは珍しい性格だ。ほとんどのエージェンシーは案件を獲得するために、ただブランドが聞きたいことを言ってくる」と語るのは、ウイリアム・グラント&サンズ社のウィスキーブランド、グレンフィディックとモンキーショルダー担当マーケティングディレクター、マイケル・ジャディーナ氏だ。「インフルエンサーを買い取るようなことはできない。コルトレーンはそれを理解していて、そのことに誠実に実行をしている。信じられないくらいに勤勉家か、自分の仕事に情熱を持っている。彼の情熱は人に感染するんだ」。
セレブよりもその周囲の人
カーティス氏は、MTVでビデオ・ジョッキーとして2年間働いたあと、嫌気が差して辞め、自分のエージェンシーであるチーム・エピファニーを創立した。MTVでのキャリアを通じて彼が気づいたのは、セレブリティ自身よりもその周囲に存在する人々の集まり、ネットワークのほうがパワフルだということだ。
当時ブランドは、インフルエンサーマーケティングの予算を持っていなかった。そのためコルトレーンは、彼のエージェンシーをPR会社として位置付け、セレブリティとの関係を活かしてブランドが雑誌に載るように働きかけるという仕事をした。しかし、このPRモデルの難点は、ブランドよりもセレブリティに雑誌の注意が向くことであった。
ソーシャルメディアが台頭したとき、カーティス氏はこのモデルからインフルエンサーネットワークとコラボレーションをするという方向にシフトした。
「MTVでの仕事はすごくつまらなくなった。実際は何もないって知ってるのに、セレブにこれはしたか、あれはしてないかと聞く仕事だからね。私にとっては話し相手のセレブよりも彼/彼女のスタイリストのほうがよっぽど面白いんだ。そういった不満を通して有名人自身よりも、彼らの周りに存在しているネットワークの方が、実際はパワフルだって気づくことができた」と、カーティス氏は語る。
新しいコミュニケーション形式
カーティス氏にとってインフルエンサーマーケティングは、根本的には決してマーケティング手段ではない。新しいコミュニケーション形式なのだ。そしてインスタグラムやYouTubeで多くのフォロワーを持っている人だけがインフルエンサーでもない。大きな影響力を持ちながらまだソーシャルメディアでアクティブじゃない人々もインフルエンサーだ。
たとえば、ハイネケンが8年間行ってきているインフルエンサー企画に#Heineken100がある。これは毎年アメリカ全土から100人のインフルエンサーを選ぶというものだ。しかし、ブランドのプロモーション部分は決して派手ではない。去年はこの企画に加えて、マイアミマリンスタジアムを一新するというプロジェクトも行っている。このプロジェクトに協力してくれたインフルエンサーにはデービッド・グラットマンなどがいる。彼らがオンライン、オフライン両方でこのプロジェクトの宣伝をした。インスタグラムでのグラットマンのフォロワー数は20万9000人ほどでしかない。しかし、彼はリブ・ナイトクラブ(Liv nightclub)といったマイアミの人気スポットをいくつも所有しており、「マイアミのキング」として知られているのだ。こちらの方がより重要であった。その結果、マイアミ市は4500万ドルの債権を承認し、スタジアムを生まれ変わらせることができたのだ。
「もし我々がデービッドと関係を持っていなかったら、そのマーケットにおいて存在感を持ちたがっているブランドを連れて、彼に交渉に行く、というようなことができなかっただろう。こういう関係のおかげで通常なら不可能なこと、そして予算的にも不可能なことが、ができるようになる。(グラットマンのようなインフルエンサーたち)は関係が継続して一貫していることに信頼を置く。『ちょっとお願いがあるんだけど、ブランドについて1回だけツイートしてくれない?』というようなのとは違うんだ」と、カーティス氏は言う。
ブランドが魅了されるアプローチ
カーティス氏にとって、インフルエンサーマーケティングの問題点はビジネス契約のきらいが強すぎることだ。彼は「マイクロインフルエンサー」というコンセプトを信用していない、ただの流行語にしか過ぎないと思っているのだ。そして、フォロワー数が彼らの「インフルエンス」を決めたりはしない。カーティス氏はインフルエンサーを起用するためのプラットフォームを利用しないと付け加えた。
「結局のところ、どれくらいの数字がとれるかを最善を尽くして予測をするものの、最終的には直感でしかない。インフルエンサーとブランドと信頼関係を築かないといけない。インフルエンサーマーケティングが扱うのは人であって、人は変わるものだから、インフルエンサーマーケティング自体も常に変化するんだ」。
インフルエンサーは個人ではなくて、コミュニティだとカーティス氏は考えている。この考えはチーム・エピファニーの根幹となっている。「カニエ・ウェストを考えるといい。彼は音楽の天才だ。しかし、ほかのあらゆる物が、彼の音楽ですらそうだけど、彼が集めている人々のネットワークによって影響されている。ほかの有名人も同じだ。会社も同じ法則を使って、ブランドにワクワクを作ることができる。ブランドがうまくプロダクトの周りにネットワークを作ることができれば、カニエは必要ないんだ」と、カーティス氏は言う。
ブランドたちは、カーティス氏のこのアプローチに魅了されているようだ。ハイネケンUSAのシニアブランドディレクターであるクィン・キルバリー氏によると、チーム・エピファニーが提供する、カルチャーインフルエンサーたちのネットワークの成果というのは、インプレッション数以上のものがあるという。マイアミマリンスタジアムの再建において、政府の支援を獲得できたことは、ただビールを売るよりもよっぽど大きな意義を持っている。「ブランドが言って欲しいことを言ってくれるインフルエンサーを、エージェンシーに見つけてもらうことは必ずしも必要ではない。私たちはコミュニティを作ろうとしていて、コミュニティが私たちをサポートしてくれるのだ。人工的に作られたものではないから、ユニークだ」と、キルバリー氏は言う。
チーム・エピファニーの矜持
カーティス氏が自身のエージェンシーをチーム・エピファニーと名付けたのには理由がある。英語でエピファニー(Epiphany)と言うと、突然人生において内面から訪れる重要な気付きのことを指す。彼のエージェンシーとミーティングをしたあとに、ブランドが「ああこういうことをすれば良いのか」と、悟りを開くように気付いてもらえることが究極的な狙いだからだ。
カーティス氏自身のエピファニーは、15年前に起きている。ロサンゼルスのとあるイベントで彼の現在の伴侶であるリサ・チュー氏に出会ったのがそれだ。「親友に、あの子と結婚するよ、って言ったんだ。私の人生のなかで最大のエピファニーだ」。
チュー氏は、チーム・エピファニーのナンバー2だ。会計、法務、財務、そして実験的マーケティングといった部門の運営に携わっている。これらはチーム・エピファニーの収益の約4割にも達する。戦略、ビジネス開発、そしてクリエイティブ案件チームを率いるのがカーティス氏となっている。ソーシャルメディアとPRは、ふたりで協働でマネージメントをしている。
夫婦のリーダーシップの下、チーム・エピファニーはカーティス氏ひとりのプロジェクトから80人編成の会社へと成長した。彼はこれほどの規模のグループをマネジメントしたことはなく、エージェンシーのサイズが大きくなったことは、彼にとっては新しい挑戦となっている。
「ここのスタッフは子どもを持つようになり、私が失敗すれば彼らの人生も失敗することになる。そのダイナミックを考えると、これは信じられないほど大きな責任だ。エリントンの父親であるということよりも、そっちの方がストレスになっている」と、カーティス氏は言う。
Yuyu Chen(原文 / 訳:塚本 紺)
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