恐怖と燃え尽きが蔓延する、米・エージェンシー業界のいま:「休み方に賢く取り組む」

クリエイティブエージェンシーでコピーライターとして働くジョー(仮)は先日、壁にぶつかった。通常の生産性を維持できないように感じられ、休みをとらざるを得なかったのだ。コロナ禍がもたらす終わりの見えない不確実さ、それによる経済的な悪影響、不安定な社会と米西海岸をおそう火事などが続き、彼は仕事に集中することができなくなったのだ。

ジョーにとっては、いま世界でさまざまな重大なことが起きているなか、クライアントからの「馬鹿げたリクエストに応えること」が、いつにも増して心身の疲労を生むものとなった。3月以降、複数の重大事件が勃発するなか、クライアントが要求ばかりしてくる状況は、エージェンシーならどこでも同じだ。しかし、それだけでなく「終わりが見えないこと」がジョーにとっては問題だったと語る。「リモートで働くこと自体は問題なくても、あらゆる不確実性のせいで自分は壁に打ち当たり、どう対応したら良いかわからない状況になった」。

ジョーのようなケースは、ほかでも起きている。エージェンシーの社員やエグゼクティブたちは、恒常的な不確実性と常にオンの状態でいなければいけない必要がもたらす疲労感が、最近になって現れてきたと語る。この疲労感について正直であること、また有給を使ったり、休みをとったり、4月から疲労の原因となってきた終わりのないZoom(ズーム)会議を電話でのミーティングに切り替えたり、ミーティングに制限時間を設定し、ミーティングの合間の時間をさらに確保するなどを社員に促すことで、エグゼクティブたちは燃え尽きが起きないように取り組んでいる。それでも、エージェンシーの社員たちは業界中で起きている大規模の解雇が原因で、疲労感について正直に語ることがクビにつながるのではないかと心配している。

「2週間の変化のはずだった」

なぜ疲労感が今になって姿を現してきたか、理由を尋ねたところ、エージェンシー勤務の人々やエグゼクティブたちは、透明性の欠如が人々にのしかかり始めたと回答した。アトランタを拠点とするクリエイティブエージェンシー、ケミストリー(Chemistry)のプレジデントであるティム・スミス氏は、8月をベンチマークのひとつとして設定したところが多かったことが、多くの人々の疲労につながっていると考えているという。「騒動が収まるのがいつか、ということについて多くの人が8月を基準として予想をした。しかし8月が来たが依然として状況は改善していない」。

匿名を条件に取材に応えてくれたエージェンシーエグゼクティブのひとりも同じ意見を口にした。「これは2週間の変化のはずだった。それが6カ月続き、人々は少なくとも1年は続くだろうと気付き始めている」。

取材に応じた人々によると、3月に新しい現実に対応するためにクリエイティブに修正を加え、メディアプランを変更するなかで、当初はスタートすることに伴う勢いがあったものの、1年を通じてこの行為を続ける可能性が出てきたなか、その展望に圧倒されているようだ。「ここまで長続きする事態には対処できる準備はなかった。アドレナリンが失われて、さまざまなステージの疲労困憊が生まれる」と、クリエイティブエージェンシーでエグゼクティブ・クリエイティブディレクターを務める人物は語った。

恐怖をやらわげるための対応策

エージェンシーエグゼクティブたちは、部下たちにその疲労を感じることにオープンになるように伝えている。彼らによると疲労を避けることは不可能だという。

「エグゼクティブレベルではみんな、社員が燃え尽きていることを認識している」と、アイリス(Iris)の北米最高マーケティング責任者であるジル・スミス氏は言う。「燃え尽きが起きていないフリはしないように社員たちに伝えている。現状は決して良いものではなく、正常でもない、と認識することは非常に重要だ。お互いにモチベーションとインスピレーションを与える必要があるが、それは簡単なことではないだろう。素晴らしい気分に感じられる日もあれば、翌日まったくやる気が出てこないかもしれない。そのことに正直であることが重要だ」。

エージェンシーの社員たちは、解雇される可能性が大きく感じられるときに正直になることは難しいと答える。7月に米DIGIDAYが報じたように、エージェンシー社員の半分は現在、仕事を失わない、という自信を持っていない。これらの恐怖をやらわげるため、アイリスでは解雇がいつ起きて、それぞれの部門がなぜ解雇されたのかの理由について極めて透明になるように務めてきたと、スミス氏は言う。

「関係性をクリエイティブに」

エージェンシーエグゼクティブたちは休みを取ること、疲労感に関して正直になることを促しているものの、すべての従業員がそれに従うわけではないだろうと理解している。

「機能するシステムを作り上げるときには、場合によっては個人レベルにまで掘り下げてコラボレーターになることを、しっかりと吟味する必要がある。そして、これらの導入される解決策を許可するようなカルチャーを生み出すことに取り組む必要がある。勤務時間と場所、ミーティングに関する習慣、休みを取ること、あらゆる施策が検討される必要があり、従業員たちとの関係性をクリエイティブに、常に再検討する必要があるのだ。我々は迅速な行動を崇拝する(業界)だが、迅速に、かつ賢く、いかに我々が休みを取るかについて取り組もう」と、マッドウェル(Madwell)のクリエイティブ部門バイスプレジデントであるローラ・エサレッジ氏は言う。

[原文:‘Clever about how we rest’: As uncertainties drag into fall, agencies are facing a burnt out and fearful workforce

KRISTINA MONLLOS(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU