WeChatの影響力が拡大していることを背景に、ブランド、エージェンシー、テック企業が中国のデジタルマーケティング情勢にますます関心をしている。そこで、アメリカ市場に中国のエージェンシーたちが進出してきた。彼らの中国市場に関する専門知識は、アメリカのエージェンシーたちよりも高い競争力があるからだ。
北京に拠点を置く独立系デジタル企業、ハイリンク(Hylink)が2016年、カリフォルニア州サンタモニカにオフィスを開設したとき、同オフィス7人目の従業員であり、スポーツ・エンターテインメント分野の戦略的パートナーシップディレクターとしてマイケル・ホービッツ氏が同社に入社した。ホービッツ氏は中国で暮らしたことはないが、ゼネラル・ミルズ(General Mills)やP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)といったクライアントを抱えるアメリカのエージェンシーで働いた経験があり、その経験はハイリンクのアメリカ市場への参入を助けることになるだろう。
「ハイリンクは、アメリカのクライアントたちとのやり取りのパイプ役を務めてくれるメディアやエージェンシー勤務経験を持つ人間を探していた」とホービッツ氏は述べる。「私には中国市場に関して経験はほとんどない。いまは、自分にとって大変勉強になっている」。
ハイリンクがアメリカの同業他社と違うのは、サンフランシスコ観光協会(San Francisco Travel Association)やブランドUSA(Brand USA)などのアメリカのブランドが中国のバイドゥ(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)といった企業に限定してメディアバイイングができるよう支援を行っていることだと、彼は語る。
Advertisement
ホービッツ氏の経験は、部分的にはアリババとテンセントの保有するWeChatの影響力が拡大していることを背景に、ブランド、エージェンシー、テック企業が中国のデジタルマーケティング情勢にますます関心を示すアメリカ市場に中国のエージェンシーたちが進出していく手段を説明している。それに応じて、ハイリンクのようないくつかの中国企業は、コンテンツ制作が急増しているニューヨークやロサンゼルスのような都市に最近オフィスを開設し、中国から従業員を移動させると同時に現地でも人材を採用している。もちろん、彼らの中国市場に関する専門知識は、アメリカのエージェンシーたちよりも高い競争力がある。
「中国はアイデアの実験場」
2016年9月、上海に拠点を置くブランドコンサルタント、ラブブランド(Labbrand)のマネージングディレクター、デニース・サベット氏がニューヨークに移り、4名のチームで構成される同社初のアメリカオフィスを開設した。同社の中国のクライアントたちが世界的に展開しており、同時に、中国市場への参入を模索しているアメリカのブランドも増えていることから、ラブブランドはアメリカでのプレゼンスを確立することができたと、サベット氏は語る。ラブランドが提供する主要サービスのひとつがネーミングだ。このエージェンシーは、マーベル(Marvel)、Booking.com、今年はエアビーアンドビー(Airbnb)など、多くの西洋ブランドのために中国語の名称を作成している。
「昨年秋にシンガポールとニューヨークにオフィスを開設したため、クライアントが遅くまで会社に残っている必要はなく、それぞれのタイムゾーンで業務を行うことが可能になった。一方で、中国ブランドの国際化が進み、彼らのために東南アジア、欧州、米国でのプロジェクトを我々は手掛けているところだ」と、サベット氏は述べた。
デジタル空間は動きが速く、中国では細分化が進んでおり、自身のチームがそこでスピードをコントロールできれば、ほかの場所でクライアントと協業することも可能だと、サベット氏は確信している。「中国は国際展開のアイデアを得るための実験場だ。アメリカに限定して知見を得ることは不可能であり、グローバルな視点が必要だ」と述べた。
M&Aを実施する代理店も
ハイリンクやラブランドといった企業がアメリカ市場での有機的成長を見込むなか、中国最大のエージェンシーネットワークのブルーフォーカス・コミュニケーション・グループ(BlueFocus Communications Group)は、WPPのように主にM&Aによって世界的拡大を進めている。ブルーフォーカスは数年前、イギリスを拠点にするソーシャルエージェンシー、ウィーアーソーシャル(We Are Social)とアメリカのデザイン会社フューズ・プロジェクト(Fuseproject)を買収した。今年4月、COOのジアン・ション(Jian Xiong)氏は、2020年までに600億元(約1兆円)の収益創出をブルーフォーカスは目標としており、その半分は海外事業から見込んでいると株主総会で述べたことが報道されている。
ション氏によれば、昨年2016年のブルーフォーカスの総収益うち約38%を国際ビジネスが占めており、同社は今年アメリカでさらに多くの企業買収を模索しているということだ。
しかし、中国国外でのエージェンシー事業展開は容易ではない。ニューヨークシティのチームが拡大するにつれて、自然とエージェンシー文化が構築されることは難しいとサベット氏は考えており、ホービッツ氏もハイリンクは中国では有力なエージェンシーだが、そのブランド認知度はアメリカでは高くないと語っている。
2018年以降はさらに拡大
こうした課題にもかかわらず、現在40人の従業員を抱えているハイリンクは、サンタモニカオフィスでアカウントマネージャー、グラフィックデザイナー、ユーザーエクスペリエンス開発者をさらに採用している最中で、2018年初頭にニューヨークへ別のオフィスを開設する予定があると、ホービッツ氏は述べた。
「プログラマティックや人工知能関連のアドテク企業買収も検討している。ほかのアメリカの広告代理店を買収する可能性についてだが、それは我々のビジネスモデルにはない」と、同氏は語った。