エージェンシーを辞めて、最高の人生を手にした7人の事例:「自分の運命はすべて自分次第」

広告エージェンシーの従業員ならば、無計画な退職はまずありえない、と思うことだろう。エージェンシーの仕事が多忙を極めるこの時代なら、なおさらだ。

ところが、次の予定もないまま退職を決意したことで、人生が好転したと断言する人もいる。以下の7人も然りで、次が決まる前にエージェンシーを辞めた(1人は業界を完全に後にした)経緯と、それによって人生の質が向上した理由を語ってくれた。

いずれの発言も、読みやすさを考慮し、短く編集してある。

信じられないほど成長できた

ノーブル・ピープル(Noble People)
シニアメディアデザイナー
フィリップ・パコーヴィック氏

数年前、僕はサンフランシスコのとあるエージェンシーに勤めていて、行き詰まりを感じていました。それでふと、よし、ニューヨークに行って自分を試してみよう、と思ったんです。実力を証明したい一心でしたし、辞めるのがどういうことなのか、深くは考えませんでした。2週間で準備して、引っ越し用のトラックを借りて、5日かけてニューヨークまで運転して行きました。ここで暮らしはじめてから、いままでにどれほど成長できたか、自分でも信じられないくらいですよ。

退職は人をひどく不安にする。絶対に次のステージに行けると、自分を信じるしかなくなる。それが、僕の背中を強く押してくれました。僕は学生の頃、ものすごく勉強ができたわけじゃない。だから人一倍努力するタイプでした。そのときもそうで、辞めたことでほかに選択肢がなくなったんです――とにかく成功するしかなかった、ニューヨーク中を走り回って、チャンスを掴むしかなかったんです。普通はみんな、結果がある程度見えるところでやりたがる。でも、何も考えずに思いきって飛び込んでみると、ものすごいことが起きることもあるんです。

うまく辞めることはかなり重要

某インハウスエージェンシー
コンテンツストラテジスト

ブランド側の[諸々を扱う]仕事をはじめたんですが、そのうちに、そこの風土は自分には合わないと感じるようになりました。で、その少し前に、妻の妊娠が判明していました。当時、私のワークライフバランスは最低でしたね。無職の心配よりも何よりも、辞めるしかない、という思いのほうが強かったんです。育休[の申請]が[その会社では]好意的に受け入れてもらえないのは、わかりきっていたからです。辞めたことで、多くのものを手放しました。ボーナスだけでなく、会社の株も。[私は当時]良い給料をもらっていたし、立派な肩書きとかなりの権限もありました。でも、それもこれもすべて手放したのは、そうするだけの理由があったからです――然るべき育休が欲しかったし、ボロボロの私を妻は見かねていましたから。

幸い、以前に勤めていたエージェンシーが雇ってくれましてね。正直、自信を失くしかけたことも何度かありました。退職したことで、自分のキャリアを自ら葬り去ってしまった気もしました。ですが、全体として見れば、うまく行ったと思います。私からのアドバイスは、たとえ何の計画もなく辞めるとしても、背水の陣は敷かないこと、ですね。うまく辞めるのは、実はかなり重要です。広告業界は狭いし、噂はすぐに広まる。下手な辞め方だけはしないこと。何の得にもなりませんから。

他人にどう思われようが気にしない

プラグマティック・デジタル(Pragmatic Digital)
共同創設者/チーフクリエイティブオフィサー
スコット・ウェストウォーター氏

私は広告/マーケティング業界に20年ほどいました。地位が上がるにつれて、もともと任されていた仕事が減り[管理業務が増えていき]まして、こんなはずじゃなかった、という思いが強くなりました。そんな折、2017年に父が突然他界しました。それからというもの、私の人生は何なんだと、思うようになったんです。いえ、ミッドライフクライシス(中年の危機)とは違います、自分が置かれている状況を見つめ直したんです。

そんなある日、電車に乗っていたときにたまたま、心臓発作で倒れる人を目にしましてね。その瞬間、はっとしたんです。このまま現状に甘んじていたらダメだと。ひどく動揺しましたし、それで決意を固めることができました。その2週間後には、辞めていました。とくに計画はなかったのですが、その前に妻とふたりで音声にフォーカスするLLC(合同会社)は立ち上げていましたから。辞めたことで、まさにあっという間に、人生が一変しましたね。あれは私にとって最良の決断だったと思っています。もっと早く辞めていれば良かったとさえ思いますが、未知の世界が怖かったんです。この経験を通じて学んだのは、未知の世界を受け入れることの大切さと、過去も[自分が]他人にどう思われるかも、気にする必要はない、ということですね。

常識があるなら探してみる価値はある

リ:シグナル(Re:signal)
デジタルPRマネージャー
スリナ・チャンド氏

辞めたのは昨年の秋です。その会社で学べることはすべて学んだし、成長させてもらえる機会はもうそこにはない、という気がしたんです。次のプランとか、そういうものは一切ありませんでした。辞めたあとは、それこそ内心パニック状態で、とんでもない過ちを犯してしまったんじゃないかとか、そんなことばかり考えていました。それと、胸が張り裂けそうでもありました。職場の人はみんな、いい方ばかりでしたから。いまにして思えばですが、安心できる場所にいようと思えばいられるなかで、あえて不安定な環境に自らを置かないとダメだと気づくのには、かなりの勇気が必要だったんです。

[この先どうするのか、数カ月間じっくり考えまして、今度の月曜から新しい仕事をはじめることになりました]。 いまは、自分にふさわしい決断をしたと思っています。頭をすっきりさせるために少々休憩を取ったのは、私にとっては最善の行動でした。ただし辞める場合は、その前に必ず、いまの仕事に満足していないと100%言い切れるかどうか、自分に問いかけること。私の場合は、そこに至るまでに数カ月かかりました。常識的な金銭感覚のある方なら、この業界以外にも仕事はあります。常識がある方でしたら、探してみる価値はありますね。

失敗を恐れてはいけない

Booking.com
ソーシャルメディアクリエイティブプロデューサー
ローラ・ウォン氏

1年少し前のことです、私はパートナーとともにバンクーバーでの仕事を辞めて、アムステルダム行きの片道チケットを買いました。仕事の当ては何ひとつありませんでした。それまで、あるデジタルエージェンシーにいたのですが、以前から海外で働いてみたかったんです。この転職はまさに、人生が変わる経験になってくれましたね。当初は、仕事を決めてから引っ越そうと思って、何カ月間か応募はしていたんです。でも、とにかく行ってみようと思いまして、それで航空券を片道だけ買って、挑戦してみることにしました。経験はありましたし、この業界なら大丈夫、という自信はあったんです。

良い仲間も、良い地位も、良い給料も、良い福利厚生も手放したわけですが、後悔はありませんね。過去はふり返りません。未知の人々と出会い、安全地帯の外で暮らしてみることには、計り知れないほどの価値があります。辞める前の私は、失敗を恐れてばかりで、ほかのことに目がいかなかった。私と同じ立場の人に言いたいのは、恐怖に縛られるな、ですね。もしも恐怖に屈して足を踏み出せていなかったら、いまの私はないわけですから。

我ながら最良の決断だった

ストーム・コレクティヴ(Storm Collective)
共同創設者
レシェル・デントン氏

数年間勤めていたエージェンシーを辞めました。そこでは、信じられないほど長い労働時間を強要されていました。働き過ぎで壊れてしまうのも、そこでは珍しくありませんでした。私には医師の友人がいるのですが、皆から口を揃えて、あの頃の君の働き方はちょっと異常だったと、いまでも言われます。でも産休を取る[まで、それがどれだけ異常なのか、自分では気づかなかったんです]。

産休が明ける前、会社に顔を出した際、復帰について訊かれたのですが、思わず出た言葉に自分でも少し驚きました。「戻るつもりはありません」と、きっぱり断ったからです。呆然としながら会社を後にしたのを覚えています。

そのとき、はっと気づいたんです。この子を誰かに預けるのなら、それだけの価値があると思える仕事じゃないと嫌だと。正直、我ながら最良の決断だったと思います。それで、フリーランサーと請負業者をまとめる会社をはじめました。いまにして思えば、自分が何を望んでいるのか、無意識のうちに気づいた[のだと思います]。エージェンシーで働いている人にはたいてい、ある思い/姿勢が生じます。それはとても強力で、とても根深い。それを[維持するように]それこそ洗脳されて、辞めるといった行動を取ると、自分の心証が悪くなってしまうのではないか、という不安に取り憑かれる。でも私の場合は、蓋を開けてみたら、これまでの人生で最高の出来事が起きたんです。

答えを見つけようと努めるが大事

某デジタル制作会社
ストラテジスト

何年も前、僕は計画もなく辞めて、副業を本業にして、いまはまたエージェンシーにいます。そのなかで得た最大の収穫は、職業は必ずしも僕という人間を表すものではない、と気づいたことですね。当時の僕は、会社や仕事を通じて確証を探し求めていました。いまの仕事は僕の得意分野ですが、それがアイデンティティだとはもう思っていません。仕事が僕という人間を作るわけじゃない。仕事はあくまで、生活の糧を得る手段です。

辞めるのは自由になること、と思う人もいる。その一方で、辞めるのはひどく恐ろしいこと、と思う人もいる。結局のところ、退職にはその両方が伴う。自分の運命はすべて自分次第、という状態に置かれるわけですから。未知の世界に飛び込むと、いろいろな方向に導かれます。そこで大切なのは、凝り固まらずにそれらを試してみて、自分は何に刺激を感じるのか、何を楽しいと思うのか、その答えを見つけようと努めることです。

Kristina Monllos(原文 / 訳:SI Japan)
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