第一印象を良くするために、エージェンシーが名刺を使わなくなる日は来ないだろうが、その形状は必ずしも長方形の厚紙だとは限らない。同業者のなかで存在感を出したいのであれば、一般的な名刺でなくとも、ブランドメッセージや詳しい連絡先を伝える方法はある。今回は、独創性に富んだ、有用で細部にまでこだわったものを紹介する。
第一印象を良くするために、エージェンシーが名刺を使わなくなる日は来ないだろうが、その形状は必ずしも長方形の厚紙だとは限らない。ひしめく同業者のなかで存在感を出したいのであれば、一般的な名刺でなくとも、ブランドメッセージや詳しい連絡先を伝える方法はある。
今回は、よくある名刺とはひと味違い、クリエイティビティに富んだ、有用で細部にまでこだわったものを紹介する。
オリジナルのビール
クリエイティブデジタルエージェンシーのウェイステッド・クリエイティブ(Wasted Creative)で戦略部門を率いるクリスティアン・ペリンス氏は、「名刺は時代遅れだ。99%の確率で、注意を喚起することはない」と語る。「『皆が本当に手にしたいものといえば、ビールだ!』という考えに行きついた」。
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ウェイステッド・クリエイティブは、ロンドンでクラフトビールが醸造されている地域にオフィスを構えていたこともあり、独自にビールを醸造。そうして完成した「ウェイスト・ペール・エール(Waste Pale Ale)」には「No.2」と「No.4」の2種類があり、3人の創業者が生まれた土地の原材料(コソボの蜂蜜、イングランドのモルツ、ニュージーランドのホップ)を含むなど、品質面での独自のこだわりも見せる。

ウェイステッド・クリエイティブのビール
創業日が2006年6月6日であることにちなみ、アルコール度数は6.66%。そしてビンの裏側にはもちろん、各従業員の連絡先情報が記してある。2カ月ごとに200本ずつ作られるこのビールは、クライアントからの需要が絶えない。
ウェイステッド・クリエイティブは今年、ビールとともに簡易VRヘッドセットのGoogleカードボード(Cardboard)を贈り、自社の仕事を披露した。「我々の映像作品を短い時間で観てもらう方法だ」と、ペリンス氏。「だが何より、ささやかなものであっても、独創性を示すことには取り組む価値がある」とコメントした。
調味料の小袋
プロダクトにブランド名を載せることは有効だということで、広告代理店BBDOの傘下でイスラエルに拠点を置くギタムBBDO(Gitam BBDO)は、調味料の入った小袋に詳細な情報を印刷して名刺にしている。
ただし、先述のウェイステッド・クリエイティブのビールも同様だが、ギタムBBDOが作った調味料の小袋の名刺のように、消費されるものだと、使い終わったあとに捨てられてしまうという欠点がある。
ミニフィギュア
おそらくレゴ(LEGO)によって人気が出たミニフィギュアは、それほど実用的ではないが、好印象を残すことにはなる。3Dプリンティングの腕前を披露できるなら、なおさらだろう。これを実際に行ったのが、オランダのデジタルエージェンシー、レイジョリュート(Resoluut)。同社は、従業員をスーパーヒーローに変身させたミニフィギュアを3Dプリンタで制作し、各フィギュアの下には連絡先と、各人の得意技を記した。

レイジョリュートのスーパーヒーローたち
レイジョリュートは、サイトデザインとUXに特化したエージェンシー。同社いわく、デザインは製品であり、デザイナーはヒーローなので、彼らをアクションフィギュアにするのは夢だったという。別の例としては、冒険心に富むスウェーデンのカメラマンが、自己アピールを大胆に発展させ、自分自身のアクションフィギュアを400体作っている。
ARカード
紙の名刺は熱烈なデジタル愛を叫んではくれないが、そこにテクノロジーを重ねることで、ちょっとした技巧を添えられる。
「サイト、動画、ソーシャルのアカウントなど、見せたいデジタルコンテンツがあっても、1枚の紙では無理だ。しかし、拡張現実(AR)なら、次のレベルに進むことができる」と、カトラス・コミュニケーションズ(Cutlass Communications)でディレクターを務めるアントーニ・ヒートリー氏は語る。「ARは、パーソナルなつながりを可能にしてくれる」。

カトラス・コミュニケーションズによるARの活用例
大半のARカードは、「レイヤー(Layar)」か「ブリッパー(Blippar)」などのアプリをダウンロードしなければ利用できず、それが余分で面倒な手間になる。とはいえ、登場してから久しいARへの関心が、ここに来てまた高まりをみせている。「特に『ポケモンGO』が大流行したあとで、勢いづいてきた」と、AR企業のマグネティック(Magnetic)でアカウントマネージャーを務めるリサ・ビーチ氏は指摘する。
目を引く形状
広告の仕事には、美しくデザインされた名刺はあたりまえだ。ロンドンに拠点を置くデザインエージェンシーのチョンプ(Chomp)は、通常の長方形は使わずに、「かじる」を意味する社名(とロゴ)にインスピレーションを得て、隅をひと口かじったような形の厚めのカードを印刷し、どん欲に優れたデザインを求める同社の姿勢を表現した(下写真[左])。
チョンプのディレクター、リチャード・ナイト氏によると、シンプルだが記憶に残るようにデザインしたという。「反応はいつだって、『すごい』という驚嘆だよ。いつも、ポジティブな反応と、『カードをかじったのは誰なの?』と聞かれる。場を和ませるのに最適だ」。

チョンプの名刺(左)と、カウンター・クリエイティブのビジネスカード(右)
オランダに拠点を置くエージェンシーのカウンター・クリエイティブ(Counter Creative)も、社名を強調する名刺を制作。カウンターでよく目にする番号札に似せた名刺を作った(上写真[右])。パフォーマンスを重視するエージェンシーとして、同社がこのカードのデザインに込めたのは、クライアントにクリエイティブを届けるチケット、というメッセージだ。
とはいえ、定形外のデザインは、目立つためのボーナスポイントにはなるが、財布や名刺入れに収めるのが難しいという欠点もある。
風変わりな肩書き
名刺に書く肩書きで目立つという手もある。「Copy Cruncher(コピーの大食い屋)」「Word Herder(言葉の番人)」「Web Kahuna(ウェブの呪術師)」「Master Handshaker(握手の達人)」でもいいし、「a humble Superstar DJ(控えめなスーパースターDJ)」でもいいだろう。印刷会社のムー・コム(Moo.com)によると、これらは名刺に印刷される役職の芸術的表現として、人気トップ20に入っているという。
こうした工夫で会話は弾むが、独創的な肩書きは、すぐに時代遅れになるかもしれないし、陳腐な表現に聞こえることもある。こうした役職名の効果を発揮させるためには、自分が実際にやっている仕事と若干の関連性をもたせ、職務の説明になっている必要がある。たとえば、クリエイティブエージェンシーのビドラック(Bidlack)が、自社の会計担当者を「Bean Counter(豆を数える人)」と呼んでいるように。
Lucinda Southern (原文 / 訳:ガリレオ)
Image from VERMILLION SILK