FUTURE OF WORK

経営者は社員以上に、メンタルヘルスに課題を抱えている:コロナで崩れるワークライフバランス

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが勃発した当初、デヴィン・ジョンソン氏はインディアナポリスにある無人のオフィスの真ん中で、過労による神経症を引き起こすかどうかの瀬戸際に立たされていた。しかし従業員たちは、彼の世界で何が起きているのか、どんな困難に直面しているのか、理解していないようだった。

見込み客の獲得や創出を支援するケネクテッド(Kennected)の創業者で、最高経営責任者(CEO)を務めるジョンソン氏は、いまでも当時のことを明確に覚えていると語る。困難な状況のなかでも、全精力を傾けて、自分自身と会社のためにより一層の力を尽くし、この危機を乗り越えてより良い未来を手に入れようと、自らに誓ったという。

「私自身と会社の経営者が常に前向きで、明確な目標を持っていることが何よりも重要だった」とジョンソン氏は振り返る。同氏が担当するクライアントには、ウォルマート(Walmart)やメリルリンチ(Merrill Lynch)ら大手企業が名を連ねる。「リーダーとはそういうものだ。沈みがちな気持ちを引き立てながら、後に続く者たちのために自信を持って活路を開かなければならない」。

燃え尽き症候群に陥りやすいのは経営者

2020年、肩書きに「C」の付く企業の最高幹部たちは、従業員の給与削減、一時解雇、一時帰休の検討など、幾度となく苦渋の決断を強いられた。なかでも、経営の最高責任者たるCEOたちは、いつオフィスを再開するのか、出社に際してワクチン接種は必要か、さらにオフィスワークの再開後の働き方はどうなるのか、難しい問いに対する答えを求められた。

「これらの問いに対する答えはあまりに不確かだ。多くのCEOが、会社や部下の要求に答えられないかもしれないという無力感にさいなまれている」。そう語るのは、オバーランド(Oberland)の創業者で、プレジデントを務めるドリュー・トレイン氏だ。同社は、ニューヨークを拠点とするクリエイティブエージェンシーで、ウーバー(Uber)やブルーマングループ(Blue Man Group)らを顧客とする。

ところが、従業員の目に映るCEOは、往々にして、ストレスやメンタルヘルスの問題とは無縁の存在だ。「CEOは、常に順風満帆のように振る舞うことを求められるが、そんなことはありえない。ビジネスにおいてその種の正直さは、イメージに傷を付けたり何らかの代償を生みかねない。一方でそれを内に溜め込めば、それはそれでネガティブな影響が生じる」。トレイン氏はそう説明した。

オラクル(Oracle)とワークプレイスインテリジェンス(Workplace Intelligence)が、世界11カ国で12000人を対象に行った最近の調査によると、経営者たちは従業員以上に、心の健康問題に悩んでいる。彼らもまた、同僚や従業員とのバーチャルなコラボレーション、増大するストレスや不安の管理、職場文化との隔絶に煩悶しているのだ。

ワークプレイスインテリジェンスのマネジングパートナー、ダン・ショーベル氏は、「燃え尽き症候群に陥りやすいのは、従業員たちよりもむしろ経営者だ」と指摘する。「彼らは、出世するための意欲と熱意がある。これは、長時間労働に駆り立て、ワークライフバランスを軽視させる一因だ」。

従業員と自らの健康の両立

CEOたちは、パンデミックによる困難に正面から向き合い、解決策を模索し、組織の先頭に立ってこの世界的な危機を乗り切ろうとしている。従業員と同じように個人的な問題も抱えていてもだ。たとえばオラクルの調査によると、従業員よりもCEOのほうが、AI(人工知能)を活用したメンタルヘルスの問題解決に前向きのようだ。実際、悩みを打ち明ける相手に、チャットボットやデジタルアシスタントを選ぶCEOが73%だったのに対し、従業員は61%だった。また、AIの恩恵をより強く感じているのも経営者で、80%が職場でのメンタルヘルスの維持に役立ったと回答している。

ダガー(Dagger)は、アトランタを拠点とするクリエイティブエージェンシーで、顧客にはコカ・コーラ(Coca-Cola)やデルタ航空(Delta Air Lines)らが名を連ねる。同社のマイク・ポポウスキーCEOは、「結局のところ、組織の健やかさは、そこで働く人々がどれだけ健やかかによって決まる」と述べている。

「CEOは従業員に目配りしながら、自分の管理もおろそかにはできない」。そう語るのは、サンフランシスコのエージェンシー、オーガニック(Organic)のCEOを務めるキャシー・バトラー氏だ。同社はナショナル・インスツルメンツ(National Instruments)や、アメリカンファミリー生命保険(American Family Insurance)といった企業を顧客に持つ。

パンデミックが勃発した当初、バトラー氏は従業員の健康や安寧に何よりも心を砕いたという。適宜休憩を取ること、会社が給付する医療手当を利用することなどを、スタッフ全員に推奨した。結果的にこの対応は、従業員だけでなく経営者にとっても有益だった。

誰かと繋がることが大切

カシーフ・ナクシュバンディ氏は、ロンドンに拠点を置くグローバルな技術系人材派遣会社、テンス・レボリューション・グループ(Tenth Revolution Group)の最高マーケティング責任者(CMO)だ。ナクシュバンディ氏によると、同社では「バディアップ・ウィズ・ザ・ボード(Buddy Up With the Board:会社の重役と友だちになろう)」という職場支援ツールを導入して、従業員の誰もが最高責任者レベルの経営幹部とのビデオ通話を予約できるようにした。このツールを使えば従業員は、経営者に仕事上の助言を求めたり、コロナ禍にまつわる不安を打ち明けるなど、何でもざっくばらんに相談することができる。

オーガニックの取り組みと同じように、ナクシュバンディ氏らの発想は、あらゆる点で、経営幹部にも従業員同様のメリットをもたらした。同氏はこう説明する。「うちは大きな企業だ。全従業員と知り合いたいと思っても、なかなかそうはいかない。1対1の対話を可能とするこのチャットルーツのおかげで、ここしばらく失われていた社員同士の親密さを、いくぶん回復できたように思う」。

ボストンに拠点を置くヘルスケアテクノロジー企業、ウーバードック(Uberdoc)の最高執行責任者(COO)、クレイグ・ゼヴィン氏は、コロナ禍中の最大の収穫は、自分の時間を確保できたことだと語った。同氏は、15分の休憩時間を1日に2回取ることにしている。さらに、いつもの通勤時間を心と身体の健康維持と、自己啓発に充てている。

「弱さをさらけ出すことは時に重要だが、経営者には従業員や投資家に自信と安定を示す責任がある」とゼヴィン氏は語る。「心の健康を維持するためには、誰かとつながり、経験を共有する手段を社外に求める必要があるかもしれない」。

[原文:Bosses share burdens of leadership during a pandemic and its effect on their mental health

TONY CASE(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)
Illustration by IVY LIU