ブロックチェーンは金融革命をもたらさない:「関連企業の99%が過大評価されている」

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ブロックチェーンを使えば、多くのことができる。

たとえば、豚のバラ肉を(製造から販売まで)追跡するのは得意だ。紛争ダイヤの流通を阻止するのにも役立つ。医者はブロックチェーンを使うことで、患者のデータを追跡できるようになる。そのため、カルテの作成に追われていた時間を、実際に患者を診る時間に振り分けられるようになる。紙の身分証明書をもっていないため、基本的な医療サービスや金融サービスを利用できない難民は、ブロックチェーンがあれば、「公的な」デジタル身分証明書をもてるようになるかもしれない。

しかし、金融サービスを手がける企業が、数百万ドルをつぎ込んでまで、ブロックチェーン技術について調査をしたり、人材を発掘したり、ベンチャー投資をしたりする必要性はない。金融業界にとって、ブロックチェーンは高度なデータベース技術にすぎないからだ。コストの節約には役立つかもしれないが、革命をもたらすようなものではない。

「実際のところ、(ブロックチェーン企業によって)行われているのはひとつの機能を作ることだ。人々はこのことを理解する必要があると思う」と、ブロックチェーンのユースケースを調査しているアウトライアー・ベンチャーズ(Outlier Ventures)のCEO、ジェイミー・バーク氏は述べる。「もっとも望ましい結果は、その機能がどこかのインカンベント企業(すでに市場にポジションを築いている企業)によって実現され、そのインカンベント企業の主要な機能となっていくことだ。そうなれば上出来だ。私は、次のSAP(エスエイピー)が生まれるとは思っていない。誰もがそうしたことが起こると考えているが、私自身はそうした状況が起こりつつあるとは思えない」。

ついでにいえば、ソフトウェアやITを手がけるSAPは、ダイヤモンドの流通状況を追跡できるサービスを開発するブロックチェーン企業のエバーレッジャー(Everledger)と、2017年3月に提携したばかりだ。SAPの目的は、自社のビジネスネットワークにブロックチェーンの機能を組み込むことにある。また、SAPはブロックチェーンコミュニティのハイパーレッジャー(Hyperledger)にも参加している。

まずは初歩的な話から

ごく簡単にいえば、ブロックチェーンは共有台帳だ。この台帳は、同じネットワークに参加する組織(たとえば、ふたつの異なる金融機関)によって管理されるが、どこかひとつの組織に管理を依存することはない。新しい情報(金融取引の詳細情報など)が追加されると、ほぼ同時に台帳が更新される。

ブロックチェーンが他のデータベース技術と異なる点は、変更が絶対に不可能なことだ。ブロックチェーン上の情報を改ざんしたり編集したりすることはできない(本記事では、「ブロックチェーン」を「分散台帳技術」の意味で論じる。ブロックチェーンのもつさまざまな意味についての議論はしない)。

ここで、指摘してはいけないのかもしれないが、覚えておくべきことがある。それは、金融サービスのように厳しく管理されている業界に「破壊的な変化をもたらす」ことは、とてつもなく難しいということだ。新しい技術は、古いシステムやインターフェイスと統合する必要がある。だが、そうした作業は一晩でできるものではない。さらに、この種の技術は、ネットワーク効果があればあるほど(利用者が多ければ多いほど)効果を発揮する。しかし現在、ほとんどの企業は、なぜブロックチェーンが本当に「必要」になるのか、そしてどの段階の技術が自社とってもっとも効果が高いのかを、いまも探っている段階だ。

スタートアップインキュベーターあるいはスタートアップアクセラレーターとして活動しているアウトライアーが、この4年間に面会したブロックチェーン新興企業の数は1220社にのぼる(ほぼ1日に1社の割合だ)。また、エンジェルリスト(AngelList)だけでも、543社のブロックチェーン新興企業と739社のブロックチェーン投資家が登録されている。さらに、ベンチャー・スキャナー(Venture Scanner)は、73カ国にまたがる882社のビットコイン企業またはブロックチェーン企業を追跡。デジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group)は、少なくとも80社のブロックチェーン企業に投資している。

アウトライアーのCEO、バーク氏によれば、その99%が過大評価されているという。

「新興企業の90%が設立から3年以内に倒産すると考えれば、ブロックチェーン企業の99%が倒産間近だとしてもおかしくはない」とバーク氏は3月18日付けの記事で述べている。「この計算を、我々が追跡している1220社の新興企業に当てはめれば、私の定義する事業継続性の条件を満たす形で『成功』できる企業は12社だ」。

我々はどのようにしてここまでたどり着いたのか

業界関係者はブロックチェーンの進化について、ブロックチェーンはビットコインを支える技術だとか、金融革命をもたらす可能性を秘めているといったふうな話をしたがる。

ビットコインは2014年、ハッカーやマネーロンダリングがらみのさまざまな事件でマスコミを賑わせ、銀行はこの状況をあざ笑ったものだった。だが2015年になると、彼らはこの技術について学習しはじめた。そして2016年には、どのような金融業務にブロックチェーン技術が使えるのかを調べるため、概念実証テストを行うようになった。彼らのマインドはあっという間に変化したし、その変化の勢いはいまも続いている。

2017年は銀行がブロックチェーン技術を実際に利用しはじめる年になるとよくいわれるが、IBMがこうした予測を発表したのは2016年9月のことだった(実際、IBMは3月20日に、「ハイパーレッジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)」に基づいたエンタープライズ向けブロックチェーンをリリースしている)。

IBMはハイパーレッジャーと共同で、取引に関するあらゆる詳細をネットワークのメンバー同士で共有できる汎用ブロックチェーンの開発に取り組んできた。これは大手銀行が参加する最大規模のネットワークのひとつだが、銀行業界以外のパートナーはさらに多い。

一方、ハイパーレッジャーのライバルであるR3 CEVは、この技術を利用して、まったく異なるプラットフォームを開発している。規制下にある金融機関どうしの金融協定を記録・管理するための専用プラットフォーム「コーダ(Corda)」だ。

R3の最高技術責任者(CTO)、リチャード・ジェンダル・ブラウン氏はコーダについて、「この技術を使えば、金融業界が抱える膨大な数の問題に対応できることがわかった」と話す。同氏は、20年以上IBMに務めていた経験をもつベテランだ。「ただし、いまのようなブームを巻き起こしたこの技術は、そのまま変更を加えずに使えるものではない。金融以外の問題を解決するための技術は、金融業界で見られる問題を解決する手段にはならないのだ」。

この技術の本当に革新的な点は、ある意味で平凡なことだとブラウン氏はいう。最初の段階では、システム参加企業は、お互いを完全には信用していない。だが、その状況で情報をシステム上で共有することで、お互いが共通の合意に従っていることがわかるようになるのだ。ただし、人々がそうしたシステムを利用する適切な手段をもっていなければ、金融サービスにとってそのシステムは意味のないものになる。

「対処すべき問題はふたつある。新しいものが登場したら何が起こるのかという問題と、その新しいものが金融機関にとって役立つものかどうかをどうやって判断するのか、という問題だ」とブラウン氏は話す。「このような考え方は、『ブロックチェーンはクールだ。このチャンスを活かす方法を探しに行こう』といったアプローチとは大きく異なる。そうしたアプローチは、いってみれば熱に浮かされているのだ」。

技術は成熟しつつあるが、まだ十分ではない

R3は2016年11月、PR面でちょっとした打撃を受けることになった。創設メンバーであったゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)とサンタンデールUK(Santander UK)銀行が、R3コンソーシアムから離脱したのだ。ゴールドマン・サックスはこの件についてコメントしていないが、噂によれば、R3の投資フレームワークに反対したという。当初は10%の株式をR3が保有し、残りの90%の株式を投資企業が分け合う予定だった。だがR3は、メンバー銀行が取得できる株式の割合を60%に縮小。そのあとでゴールドマン・サックスは離脱した。また、サンタンデールUKによれば、同社はこれまでとは異なる方向でブロックチェーンへの取り組みを進めることにしたという。具体的には、取引処理ではなく、国際決済とスマートコントラクトに軸足を移すようだ。

サンタンデールUKでイノベーション戦略担当研究開発責任者を務めるジュリオ・ファウラ氏は、ブロックチェーン技術が決済に革命をもたらす可能性があるという見方をいまも支持しているが、それがいつどのように起こるかについてはわからないと認めている。

「2016年は大きな進歩がみられた年だったが、(ブロックチェーンは)まだまだ成熟する必要がある。それからでないと、ブロックチェーンの本格的な利用について考えることは難しい」とファウラ氏はいう。「革命をもたらす可能性があると私は確信しているが、それには時間がかかる。きわめて現実的に考え、懸命に取り組む必要があるのだ」。

サンタンデールUKは、「Utility Settlement Coin」と呼ばれるブロックチェーンプロジェクトに関与している。これは、同社がほかの3つの銀行と共同ではじめたプロジェクトで、目的は、ブロックチェーンを利用した決済システムを開発することだ。同社はまた、決済を手がける新興企業リップル(Ripple)の技術を利用するための業界標準化団体「グローバル・ペイメンツ・ステアリング・グループ」(Global Payments Steering Group)を、ほかの5つの銀行と共同で設立している。

結局、行き着く先はデータ、そしておそらくAIだ

サンタンデールUKのファウラ氏にとって、モバイルデバイスの普及は、新しいデータソースを利用して決済を変化させる機会を提供するものだった。だが、古い技術が使われたシステムを大幅に改善するにあたっては、技術そのものだけでなく、組織と人の管理も同じくらい重要になると同氏はいう。

「我々にとっても、ほかの企業にとっても、そうしたデータを使って顧客のことをもっとよく知り、彼らによりよいサービスを魅力的な価格で提供できるチャンスがある」とファウラ氏はいう。「(ブロックチェーンは)技術上の大きな進歩だ。だが、(中略)人々にデータ分析を活用してもらい、自分の知識や経験を補完してもらう必要がある。そうすれば彼らは、より適切で十分な情報に基づいた決断を下せるようになる」。

アウトライアーのCEO、バーク氏は、ブロックチェーンのことを、金融サービス企業にデータの標準化を促す「トロイの木馬」だと語っている。標準化が実現すれば、人工知能(AI)をデータに適用して、市場の効率性と有効性を高めることができるかもしれない。

「今後は、新興市場や発展途上市場で、ブロックチェーン技術が本当に革新的なことを実現するだろう。なぜなら、そのような場所にはインフラがないからだ」とバーク氏は語る。「アフリカやインドでは、従来の銀行システムを一気に飛び越えてモバイルバンキングが生まれた。彼らはウェブサイトを作ることさえなかった。それとほとんど同じように、彼らはモバイル技術を使って、こうしたものを作りはじめるだろう。技術はあるが、大規模に開発したり安全に開発したりすることができないというのが、いまの先進国の現実なのだ」。

Tanaya Macheel(原文 / 訳:ガリレオ)
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