MITメディアラボは8日(米国時間)「ブロックチェーンはインターネットがメディアに対してしたことを金融システムにする」という論考をハーバードビジネスレビューに公開したので参考にしよう。
今週はブロックチェーンの話題が多かった。ビットコインの根幹技術として生まれ、分散型台帳などと呼ばれるブロックチェーンにはさまざまな活用例が期待されている。
仮にトランザクションから仲介者を減らすことに成功したり、ブロックチェーンを基に発給される「トークン(証明書)」を活用したりした場合、さまざまな「売買」のコストが下がり、すべての取引の方法が変わる可能性がある。それはメディア広告業界も別ではない。
MITメディアラボは8日(米国時間)「ブロックチェーンはインターネットがメディアに対してしたことを金融システムにする」という論考をハーバードビジネスレビューに公開したので参考にしよう。論考はMITメディアラボ所長 伊藤穰一氏 、MITメディアラボの研究グループ「デジタル通貨イニシアチブ」研究部長 ネハ・ナルラ氏、「デジタル通貨イニシアチブ」研究者 ロブレ・アリの共同署名だ。
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伊藤氏が2016年の「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2016 TOKYO(主催デジタルガレージ)」で語ったのときと同じように、論文はブロックチェーン・暗号通貨とインターネットのアナロジーを指摘している。
インターネットと同じように開発の初期段階では多くの競合するテクノロジー群があり、「あなたが語っているのがどのブロックチェーンなのか」を特定することが重要だ。
早期のインターネットは軍や研究機関で非商業的な開発がされた時期があったが、ブロックチェーンをめぐっては当初から多量の投資がつぎ込まれていることにMITメディア・ラボは疑問を呈している。
イノベーティブではない、数十年前から存在している単なるデータベースと化したブロックチェーンが生まれており、投資家はバズワードに便乗するためにそれを「ブロックチェーン」と呼んでいる。
現存する金融システムはとても複雑であり、複雑性はリスクを作り出している。新しい非中央集権型の金融システムは暗号通貨(*編注:ビットコインなどの暗号学の活用により成立する通貨)とともに仲介者のレイヤーを排除することにより、もっとシンプルになりうる。これはリスクに対する保障になりうるし、お金をさまざまな方法で動かすことで、新しい金融商品を生み出す可能性を開くだろう。暗号通貨は社会的に「排除された」人たちに金融システムへのアクセスを開き、参入障壁を引き下げ、競争を刺激する。
為政者は政策上の目標を達成する最高の手段について再考することにより、金融システムを再構築することができる。システミック・リスクを減らすこともできる。金融システムの利用者同様、為政者もその難解さに苦しんでいる。より透明性の高いシステムを作ることが、連なる仲介者と利用者が負担するコストを削減できる。
MITメディアラボはビットコイン/ブロックチェーンの実験が将来の標準を構築していると主張した。
ビットコインは2008年の金融危機への反応として、生み出された。初期のコミュニティは強いリバタリアンと反権威主義の考え方を持っており、それは強い反商業主義を伴ったフリーソフトウェア文化に似ていた。しかし、(同様の哲学から生まれた)リナックスがほとんど商業アプリケーションやサービスに組み込まれるようになったのと同じように多くのブロックチェーンの極端な利用例は、大企業や政府、中央銀行のための標準になる可能性がある。
シリコンバレーバンクのダニエル・ケイマリング氏は先週、金融機関が抱える課題は、レガシーシステムを抱えながら、銀行機能のひとつひとつをディスラプトしようとする(銀行機能のアンバンドル化をしようとする)スタートアップと競争しなくてはいけないことと指摘している。
金融機関内の基幹システムや国内銀行間決済のシステムは80年代に設計された「ビフォアインターネット」。パフォーマンスが高くはないシステム群を抱え、銀行内部に労働集約性の高い構造を背負ったまま、収益を上げづらいマイナス金利を迎えている。日本経済新聞によると、日本のメガバンクでも「決済や生体認証のプラットフォーマーをめざす」という動きが出ているようだ。
米決済スタートアップRippleは、SBIとRippleの合弁会社SBI Ripple Asiaが、既存のシステムを通過しないブロックチェーンを活用した送金テクノジーの試験導入を完了し、商業展開の段階に移行したと発表した。SBIホールディングスCEO 北尾吉孝氏は昨年12月のカンファレンスで「ブロックチェーンを使い国内外の送金オペレーションを一元化し、手数料を一気に引き下げる。いまの送金手数料は預金金利を考えると高すぎる」と語っており、2月末のイベントでも同様の発言をしたようだ。
『ビジネスブロックチェーン』の著者ウィリアム・ムーゲイヤー氏は「金融機関は規制されている。コンプライアンスと規制を遵守しないといけない。大企業が新事業や技術に踏み込めず新興企業にとって代わられる『イノベーションのジレンマ』だ。金融機関は既存のビジネスモデルから新しいモデルを生み出すことを好まない」と指摘した。
金融機関はブロックチェーンの好ましくないレイヤーを取り除き、好ましいものだけにする。同じようなことがインターネットでも起きた。97年後半にインターネットが現れたとき、大企業は『イントラネット』を導入しようと意気込んだのだ。
この部分はMITメディア・ラボの論旨と同じだ。
金融機関はブロックチェーンで金融システムを改善しようとしているが、スタートアップはブロックチェーンで金融システムをディスラプトしようとしている。
ひとつの可能性は金融機関が素晴らしいバックエンドになることだ。人がUberを利用するとき、銀行口座間で資金が移転される。あるいは移転を取り持つPayPalが利用され、最終的な資金移転がされるという形で、バックエンドになる。
以下、今週のその他のトピック。
▼Google世界最大のデータサイエンティストコミュニティ「Kaggle」を買収
カグル(Kaggle)は世界中から40万人を超えるデータサイエンティストと機械学習専門家が集まる世界最大のコミュニティ。企業がコンペ形式で課題を提示し、賞金の提供と引き換えにもっとも精度の高い分析モデルを得ることなどができる。
▼Google、動画の被写体を自動的に判断する
Googleは8日(米国時間)、米サンフランシスコでのイベント「Google Cloud Next’17」で、動画を分析して、なにが映っているかを自動的に判断する「Video Intelligence API」を発表した。画像認識や音声認識の領域で進歩が見られたが、AIが動画を「理解」するのは大きな一歩かもしれない。
▼Facebook「人ベース」の広告効果測定をマーケターに提供へ
リーチとアトリビュ―ションに重点を置いた高度な広告効果測定ツールのテストを開始。Atlasの一部として提供されてきた「人ベースの効果測定」は、近々Facebookのビジネスマネージャから、Facebookで利用可能になる。Facebook、インスタグラム、Audience Network (オーディエンスネットワーク)はもちろん、その他のパブリッシャーも含めてキャンペーンの効果を比較することが容易になるという。
▼Facebook Messengerもスナチャ化
FacebookはInstagramでSnapchatをコピーしたと言われるが、今度はMessengerにもSnapchat Storiesに類似した機能を搭載した。縦型の24時間で消える動画でフィルターが使える。
▼プラットフォームはまだまだ脆弱
ウィキリークスは7日、米中央情報局(CIA)による秘密ハッキングに関する大量の文書公開をはじめたと発表。CIAはiOSやAndroidのハック、メッセンジャーアプリの暗号化解読などを成功しており、我々の利用するプラットフォームは依然として脆弱なことが示された。
▼ゲームアプリの王者はテンセント
アプリ市場データを提供するApp Annie(アップアニー)は3月7日、2016年の1年間におけるアプリの収益額ランキング上位52社を発表。アプリで世界一収益を上げているのはテンセントだった。2位のスーパーセルもテンセントグループ。
Written by 吉田拓史
Photo by GettyImage