データサイエンティスト協会代表理事の草野氏は日本企業にマッチした事業形態をどう築いたか、日本のデータアナリティクスをめぐる状況、企業のデータ活用、人材供給などを解説した。
⽇本でもビッグデータ、近年の人工知能ブーム、さらにIoTを前にしてデータアナリティクス分野が比較的活況を帯びる一方、いくつかの課題も浮き彫りになっている。
日本のデータ分析企業のはしりであるブレインパッドは、12年前の2004年、日本ではかなり早期にデータ分析に注目して起業し、東証一部上場を実現。ブレインパッド代表取締役会長で、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事の草野隆史氏は日本市場でデータアナリティクスとビジネスをつないだ先例として、2月7〜8日に開催された「BIG DATA ANALYTICS TOKYO(ビッグデータに人工知能を)」に登壇した。
草野氏は日本企業にマッチした事業形態をどう築いたか、日本のデータアナリティクスをめぐる状況、企業のデータ活用、人材供給などを解説した(スライドはここで公開されている)。
Advertisement
守りの日本、攻めの米国
ビッグデータに関する取り組み状況をみると、日本は情報収集段階で止まっており、米英独中の4カ国に比べて取り組みが遅れている。データ分析⼈材のいる⽇本企業は8.3%に過ぎない。
草野氏はIT投資を増額する企業の増額予算用途を日米比較した(電⼦情報技術産業協会=JEITA「ITを活⽤した経営に対する⽇⽶企業の相違分析」調査結果=2013年10⽉)。
「日本は守りのIT投資、業務効率化・コスト削減に投資する傾向が強い。米国はITをつかって新しいビジネス機会を広げたり、サービスを革新したりする傾向が強い。日本企業の半分にはCIO(最高情報責任者)がいない。システム部門長が多数派だ。米国には9割の企業にCEOの直下に兼任のCIOか、専任のCIOがいる」。
アメリカは日本よりソフトウェアエンジニアの数が3倍以上多い。「ユーザ企業とITサービス企業におけるIT技術者の分布状況をみると、米国は7割程度がユーザ企業に所属するが、日本では75%がITサービス企業に所属する(外注の比率が高いということ)。ただし、米国の場合は英語を話すので、インドなどの海外への外注が比較的容易な点を考慮する必要がある」。
日本でデータ分析をビジネスにするには
「日本ではROI(投資利益率)がはっきりわかるものにしか投資しない。この環境下でどうビジネスモデルを育てるか?」。
草野氏は以下の3点の事業をつくることになったという。
* アナリティクス事業
* ソリューション事業
* マーケティングプラットフォーム事業
「海外の人に見せると『なぜ3つもやるんだ。プロフェッショナルを束ねる仕事、ソフトを販売しインテグレーションする仕事、SaaSを1社でやる合理性がない』とよく言われる。しかし、分析で価値をつくるために必要だった」。
「顧客の課題を聞いて、コンサルテーションして、システムを構築して、実際にオペレーションするところまで、一気通貫でやっている。情報システム部に行っても仕事にならない。情報システム部はビジネスからかなり離れている。オペレーションを改善しようとなり、マーケティング部門に営業することになった」。
受託分析で予測することにした。分析の結果「〇〇万円以上利益が出るからいいですよね」と言えるため、システムインテグレーター的な受託業務にならないという。
ソリューション事業生んだソフトウェアの脅威
草野氏はVC(ベンチャーキャピタル)から資金を調達し、ビジネスの拡大を目指した。その矢先、機械学習で予測するソフトウェアを提供する 「KXEN」が登場した。 その後、2013年に欧州の大手IT企業SAPがKXENを買収し、名称を「SAP BusinessObjects Predictive Analytics」に変更した。
「簡易な分析は人間なしで行えるので、もしこれを顧客が導入したらと戦々恐々としていた。起こった変化は変えることができないので、僕ら自身がこれを活用し、売ることにした。分析関連ソフトウェアは仕入れて売るという姿勢に変わった」。
顧客のデータ抽出にお⾦がかかるという課題もあった。「多くの場合、情報システム部がデータベースの管理を外注しており、分析⽤のデータ抽出に、データ分析以上に費⽤がかかる。その費用の分まで、分析サイドで価値を出すことが求められかねない。クライアント企業に対して、情報系のシステムを提案し、⼀気通貫にデータ収集から分析を⽀援する体制を構築することにした」。
ネット経由の接点が増えているなか、分析結果を即座にアクションに活かす必要があってつくったレコメンデーションエンジンが最終的にプライベートDMPになったという。「商品軸での推奨で、ユーザーを軸にデータを蓄積、アクションを取れるものがなかった」。
リスティング広告の入札を最適化するソフトウェアを開発。クリック数、クリック単価を勘案し、キーワードへの入札額を調整する製品だ。
アナリティクス人材にキャリアパスを
日本には統計学部・学科がない。心理学、計量経済学のなかで統計を勉強する場合がある程度。データサイエンス学部も今年ようやくひとつ目だ。米国は応用数学、統計学、コンピュータ・サイエンスの研究素地があり、データサイエンスの需要を取り込めた。
「日本は純粋数学であり、統計は皆無、コンピュータサイエンスは計算機科学として発展してきた。理工系も少ない。大学生の20%。韓国は理工系率が63%なので、人口が半分以下の韓国よりも日本の理工系学生は少ない」。
一方転職市場では、データサイエンスティストとして登録した求職者の割合は約0.6%と希少性が高く、引っ張りだこになる。つまり極めて不足している状況だ。「分析組織を立ち上げて、人を育成できる人材がいない。ビジネスとシステムを理解し、データでつないで社内で価値創造ができる⼈材も足りない」。

ブレインパッド代表取締役会長で、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事の草野隆史氏
「重要性が増す⼀⽅で、あくまでもビジネスをサポートする位置づけ。好きな分析の仕事をしたまま昇進するのは困難。⾮常にストレスの⾼い仕事であることへの周りの理解が薄い。社内の便利屋的に使われたり、⾼ストレス下で⾼い価値を創出したにも関わらず評価されなかったりする」。
データサイエンティストは現場で働きたがる、専門職としてのパスをつくってあげるといい、と草野氏は指摘した。
Written by Takushi Yoshida/吉田拓史
Photo by GettyImage
※訂正:「草野氏はVC(ベンチャーキャピタル)から資金を調達し、ビジネスの拡大を目指した。その矢先、欧州の大手IT企業SAP
草野氏はVC(ベンチャーキャピタル)から資金を調達し、ビジネスの拡大を目指した。その矢先、機械学習で予測するソフトウェアを提供する 「KXEN」が登場した。 その後、2013年に欧州の大手IT企業SAPがKXENを買収し、名称を「SAP BusinessObjects Predictive Analytics」に変更した。
ご指摘を頂き有難うございます(吉田)。