エージェンシーは名刺を宣伝道具として扱う。それに伴い、名刺づくりに対して、よりクリエイティブになった。つまり名刺とは、良好な第一印象を持ってもらうためのツールなのだ。この分野でもっともクリエイティブなものをいくつかまとめて紹介しよう。
エージェンシーは名刺を宣伝道具として扱う。それに伴い、名刺づくりに対して、よりクリエイティブになった。つまり名刺とは、良好な第一印象を持ってもらうためのツールなのだ。
たしかに、いまだにシンプルなデザインの名刺も存在する。しかし、いまやエージェンシーの個性を際立たせるデザインの名刺も増えた。厳選された色合いとスタイリッシュなフォントをあわせもち、遊び心があるうえに、大胆で洒落ている。
この分野でもっともクリエイティブなものをいくつかまとめて紹介しよう。ぜひ私も紹介してほしいと思われる方がいたら、こちらにツイートを。
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社員個別のアイコン
2014年、マーチンエージェンシー(The Martin Agency)は、543名の従業員それぞれが有する多様性を反映するべく、自らブランド再生を行った。同社の名刺はエージェンシー内で統一性を持ちながら、各従業員ごとに個人仕様となっている。スタッフ全員にケンタウロス、バイク乗り、ギターといった自身の個性を反映するアバターが提供されるのだ。
同エージェンシーの広報担当者は「彼らの個人としてのアイデンティティであり、プロとしてのアイデンティティでもある」と説明する。
ブランド再生のクリエイティブディレクター兼リードデザイナーのクリス・ピール氏によると、同エージェンシーはマイクロサイト内にアンケートを用意し、従業員に回答してもらったという。アバターはその内容をもとに作られている。「(言葉遊びゲームの)マッドリブのようなツールを使って、『その人が何に時間を費やしているか?』『なくては生きていけないものは何か?』といった質問やほかの個人的な質問をぶつけた。それを使ってジェネレーターが各人に最適なデザインを見つけ、500名を超えるエージェンシースタッフ全員に個別のアイコンを制作するに至った」。
アンビグラムのロゴ
ロサンゼルスに拠点を置くオムレット(Omelet)は、あえてシンプルなデザインを採用。同エージェンシーの豊かな創造力や多様性を感じさせる、ユニークなアンビグラム(さかさまから見ても同じ形)のロゴを生み出した。さらに、ロゴにはロサンゼルスへのオマージュとして、一般的なソリッドフォントカラーではなく、ロサンゼルス市内のさまざまな視覚要素を取り入れている。
「我々オムレットのスタッフは、常に個性やクリエイティブな才能を自分たちの代弁者にしたいと考えており、当社の名刺はそれを念頭に置いてデザインされている」と話すのは、オムレットのアソシエイトクリエイティブディレクター、クレメンテ・ボルネチェリ氏。「オムレットのことを知っている人なら誰でも、我々がロサンゼルスで生まれ育ったことはわかる。だから我々はこの素晴らしい街の視覚要素を取り入れることを選んだ」。
正方形のカード
メカニズム(Mekanism)の名刺は、Mの文字を丸で囲んだ、スーパーヒーローっぽい同社ロゴを強調。ほかと一線を画すのは、一般的ではない正方形のカードを採用した点だ。さらにロゴは、デボス加工(沈み彫り、エンボスの逆)してあるうえに、光沢をもたせてある。加えて、非常に分厚い素材に印字しているため、スーパーヒーロー感が増している。
「手裏剣としても使える」と、メカニズムのクリエイティブ部門を率いるトム・ライアンズ氏は語る。
ロゴを型抜き
現代では、名刺に載っている基本情報なら、モバイル端末やデジタル端末で、簡単にシェアして送信できる。そこで、イレブン(Eleven)では「名刺をアンチデジタルの芸術品に」と考えた。同社は印刷技術の長所を引き立たせ、「人の感覚にアピール」している。名刺に採用したのは、3種の繊細な印刷技術。なかでも目を引くのが、型抜きされた「11」だ。
イレブンの創始者兼クリエイティブ・ディレクターのマイケル・ボロスキー氏は、「手渡し交換を行う際、ほんの数秒で瞬間的な好印象を与えなければならない」と話した。
エレガントなデザイン
グレースブルー(Grace Blue)が名刺に求めたのは、複雑で魅力的なビジュアルと、満足感のある手触りによるエレガントさ。紙質と印刷手法、そしてデザインが互いを引き立てる。
カードデザイナーのアレックス・グリフィン氏は「会話のはじめに来る、丁寧なあいさつのようであり、最終的には人と人が交流した記念の品」のようだという。
重量感のある厚い紙
ワークアンドカンパニー(Work & Co.)が名刺に求めたのは、途方もなくまっすぐなデザインと最上級の紙と印刷だ。名刺は赤が基調で、非常に厚みのある紙材に印字されている。高額な試みであるため、同エージェンシーは従業員の所属部署のみを印字し、肩書は載せていない。昇進しても新しい名刺を作る必要がないようにするためだ。印刷フォントはアクチデンツ・グロテスクとガラモンドを融合させたもの。
「この名刺は重みがあり貴重だ。そして、いつでも気づいてもらえる」と話すのは、デザイナーでワークアンドカンパニーのパートナー、ジョー・スチュアート氏。「デザインに重みは必要ない。これには、すでに重みがある」。
自社のマーク
サファリ・サンデーズ(Safari Sundays)の名刺の主役は、同社のマスコットであるスティーブだ。ひょろひょろした曲線が絡み合って「S」の文字をかたどっている。サファリは従業員が新鮮なアイデアを求めて、新たな領域を探索する場所とされている。「S」は名刺の裏側にも彫られている。
洞窟壁画
DDBワールドワイド(DDB Worldwide)の名刺は、同社が人間性について抱く見識や消費者へのリスペクト、そしてクリエイティビティのパワーを伝えるものとされている。なかでも物語のもつ力こそが、常に人間の中核を成していると考え、洞窟壁画にインスパイアされたモチーフが使われている。
DDBワールドワイドの名誉会長キース・レインハード氏は、このデザインを選んだ理由について、「物語のパワーと重要性、そして洞窟暮らしの時代から我々人間は、物語を使って自分たちの文化やレガシーを形成してきたということを、自分自身や人々に思い出させるためだ」と語った。
「マッドマン」のパロディ
マフタイジク・ホファー(Muhtayzik Hoffer)のロゴは、社名を音節で区切ったもの。また、デザインは「(広告業界を描いたドラマ)マッドマン」のパロディでもある。
「我々は、ブランド関連コンテンツを開発するときと同じ自由さを、ロゴにもたせたい」と、共同創始者兼エグゼクティブクリエイティブディレクターであるジョーン・マッケンジー氏は話した。
シンプルの極み
ヒュージ(Huge)は、偉大なデザインは人々の暮らしにゆとりをもたせるものであり、シンプルを極めることが最高のデザインだという信念から設立された。2014年、ヒュージはシンプルであることを基本概念に据え、自社ブランドの改変を行っている。
洗練されたデザインシステムの導入、新ロゴの作成、またウェブサイトのリニューアルなどを手掛けた。すべての要素がシンプルなグリッドに基づいている。「H」のマークは同エージェンシーの「旗印」だ。
文字の形や余白は、「なにも描かれていないキャンパス」を表している。ヒュージにいる各人が作品を共有しつつ、ブランド全体のアイデンティティを強固にするという意味が込められているという。