デンマークのビール醸造会社であるカールスバーグ(Carlsberg)のマーケターは、絶えず変化する環境のなかでメディアの先行きを見極めるという、ほぼ不可能な課題に直面している。それでも、マーケターたちは挑戦を続けており、 […]
デンマークのビール醸造会社であるカールスバーグ(Carlsberg)のマーケターは、絶えず変化する環境のなかでメディアの先行きを見極めるという、ほぼ不可能な課題に直面している。それでも、マーケターたちは挑戦を続けており、電通傘下のエージェンシーであるアイプロスペクト(iProspect)に協力を仰いでいる。
アイプロスペクトは、6年間担当したイニシアチブ(Initiative)の後任として、カールスバーグについて学んでいる。
このような変更は広告業界でよくあることだが、カールスバーグがメディアエージェンシーのウェーブメーカーグローバル(Wavemaker Global)やゼニス(Zenith)ではなく、デジタルの専門知識で知られるアイプロスペクトを選択したことは、今後何に注力するかを雄弁に語っている。
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効果測定を強めるための新たなパートナーシップ
カールスバーググループでデジタルマーケティングおよびメディア担当のグローバルディレクターを務めるヘナ・マートソラ氏は、「6年前、私たちは多くの企業と同じように、インプレッションとリーチが十分である限り、従来のメディアを買うようにデジタルを買っていた」と振り返る。「とくに6年前より成熟した私たちの市場では、今は状況が変わっている」。
これはカールスバーグにとって、デジタルメディアの定義が変わったからにほかならないが、最近はさらにニュアンスが加わっている。かつて別々だった印刷、放送、オンラインメディアの領域がしばしば融合し、多くのビジネスの課題と機会が生み出されている。その結果、「財務的な観点から広告を追跡することが難しくなった」とマートソラ氏は説明する。
さらに、「デジタルは進化を続けているため、財務の観点からデジタルにどれだけ投じているかを把握するのが難しくなっている」とマートソラ氏は続ける。だからこそ、同氏らが、測定の専門知識を豊富に持つエージェンシーを見つけたいと考えたことは理解できる。この分野で際立っているのがアイプロスペクトと電通だ。両社とも既存の手法より高い精度で注目を集める(少なくとも、そう自称している)ツールやパートナーシップを開発し、急成長している独自の測定手法を宣伝している。
このような動きは常に、カールスバーグのような企業の興味をそそるものだった。「カールスバーグの経営はかなり厳格だ」とマートソラ氏は語り、調達チームがすべての支出に大きな影響を与えていることに言及した。
いかに予算をより賢く使うか
とはいえ、「ピッチとその後の意思決定が調達チーム主導だったわけではない」とマートソラ氏は述べている。むしろ、コストは規模、ビジネスインテリジェンス、商取引といった基準のひとつにすぎなかった。それでも、カールスバーグがアイプロスペクトとともに目指していることすべては、いかに予算をより賢く使うかということに根差している。
アイプロスペクトのクライアントおよびブランド担当グローバルプレジデントであるアマンダ・モリッセイ氏は、「マーケティングチームと調達チームが緊密に連携していることは、ピッチの時点で明らかだった」と振り返る。「そのため、アテンションエコノミーのようなものについて話し始め、それが広告にどのようなインパクトをもたらすかについて語ったとき、それは商取引から調達、ビジネスのマーケティングサイドに至るまで、完全に理解されていた」。
これがどのように実現するのか詳細は不明だが、カールスバーグのマーケターは、ピッチの時点ですでに、何が上手くいくかの兆候を感じ取っていた。
「(ピッチでは)カールスバーグが彼らのオーディエンスをよりよく理解できるよう、私たちのアイデンティティプラットフォームを使用し、そこから発展させることができた」とモリッセイ氏は説明する。ここまで来るには時間がかかる。今のところ、両社はグローバルレベルでもローカルレベルでも、どのようなセットアップが適切かをまだ検討している状況だ。
明確な現実主義
「アイプロスペクトには、どのようなチームが最適か、どのようなツールを使って作業するのがもっとも効率的かといったことについて、どのようなアプローチをとるべきかを指導してほしい」とマートソラ氏は話す。
ある有名ブランドが大きな広告効果を期待して大手エージェンシーを起用するというのは、典型的なシナリオに聞こえる。残念ながら、このような効果は実現しないことが多い。変化のためには多額のコストがかかり、多くの企業が耐えられないためだ。その結果、ブランドの壮大な期待に応えることができない。
しかし、今回のパートナーシップでは明確な現実主義がキャッチフレーズのようになっている。重視されているのは野心的な変化ではなく、より小さな、しかし間違いなく焦点を絞った変化を実行することだ。おそらく、今回は違う結果になるだろう。
「マーケターとして、私たちが購入するメディアには透明性が必要だ」とマートソラ氏は話す。「デジタル予算を最良の方法で使っているかと質問されたとき、最良の回答ができるようにしたければ、社内でもっと説明責任を果たす必要がある」。
エージェンシーモデルの死という幻
マートソラ氏の発言は、広告のより広範なトレンドを浮き彫りにしている。カールスバーグのような企業がデジタル広告に多額の投資を行うとき、マーケターは財務部門の監視から逃れるため、慎重を期す必要があるという傾向だ。
エージェンシーのCEOが重要な役割を果たしていると主張するのはこの点であり、それは一理あるかもしれない。エージェンシーはいくつもの課題を抱えながら、マーケターがより責任ある立場になることを手助けする役割を強化してきた。数字がそれを物語っている。
大手エージェンシー6社が所有するメディアエージェンシーネットワークと、大手独立系メディアエージェンシーが管理する請求額は、2022年、全世界で2530億ドル(約35兆2850億円)に達した。これらを合わせると、データ収集および分析企業のコンバージェンス(COMvergence)が調査した全世界のメディア投資の96%を占め、全体として前年比8%の成長を遂げている。
エージェンシーモデルの死について、語るのはもうやめにしようという気にもなる。
[原文:Behind Carlsberg’s new agency and marketing plan]
Seb Joseph(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:島田涼平)