私が広告業界に入ってから30年近くが経ちます。Z世代の人たちが現場にどんどん入ってくるなか、隔世の感は否めません。牧歌的な世界から、掟はいつでも変化する日々競争の世界に業界は突き進んでいきますが、いったい何が変わって何が変わっていないのか? ーーAW2020:Asia 事務局長・吉井陽交氏による寄稿。
本記事は、元電通ワンダーマンおよび電通ダイレクト・ソリューションズのCEOで、現在はAdvertising Weekでアジアのエグゼクティブ・ディレクターを務める、吉井陽交氏による寄稿となります。
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私がこの業界に入ってから30年近くが経ちます。ジェネレーションZ(Z世代)の人たちが現場にどんどん入ってくるなか、隔世の感は否めません。共用黒電話とFAXで仕事をしていた現場からは、顔も見ないでクラウドで仕事が完結できる現在の環境は、想像もつかなかったでしょう。また、逆もそうですよね。
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さらに遡れば、エージェンシーがニューヨークの花形だったAMC製作のテレビドラマシリーズ『マッドメン(MADMEN)』に至っては、ノスタルジーを超えた憧れがありました。余談ながらモデルになったマディソンアベニューのヤング・アンド・ルビカム(Y&R)の旧オフィスには何度も通い、在りし日の姿に重ね合わせて感慨していました。
アナログからデジタルへ、トラフィックの可視化、プログラマティック、厳しく問われるROI、さらにはプライバシーとの葛藤と、牧歌的な世界から、掟はいつでも変化する日々競争の世界へ業界は突き進んでいきますが、いったい何が変わって何が変わっていないのでしょうか? Advertising Week2020:ASIA(AW2020:Asia)のコンテンツ「コマースズ・ローリング・20s(Commerce’s Roaring 20s)」では、そのように激しく変化する世界を1920年代に重ね合わせて見ることができます。
この30年近くを俯瞰して
今年もAdvertising Weekが東京にやってきました。
とはいえ、みなさんご存知のように、コロナ禍のなかで5月の恒例、東京ミッドタウン開催が秋に延期、グローバルでもほぼすべてが延期という状態のなか、今年はオンラインにて9月最終週から世界同時期開催という異例のイベントとなりました。東京は10月14日・15日にライブ配信を終え、現在はオンデマンド視聴期間に入っています。
AW2020:Asiaの事務局長を務める私としては、同じ時間に同じ空間を共有できない歯がゆさもありつつ、オンラインのメリットを活かしたかつてない豪華な顔ぶれを迎えてのセッションと、複雑な想いながらも今後の在り方に思いを馳せるところです。
さて、今回は私の実体験を交えながら、ブランドそして広告はどう変わってきたのか、もしくは目まぐるしい変化に気を取られて見失っているものは何か? などを、オンデマンド視聴できるAW2020:Asiaコンテンツのご紹介とともにお話ししていきたく思います。
※ DIGIDAY[日本版]読者限定で、AW2020:Asiaのセッションをオンデマンド視聴できる「無料パス」(通常価格5000円:視聴期間は11月6日(金)まで)をご提供いたします。コチラのリンクより、お手続きのうえご視聴くださいませ。[ログインがうまく行かない場合のヘルプ]
変わらないもの:ブランドの本質を伝えること
広告を科学として捉えるところから欧米のエージェンシーを中心に広告のメソドロジー(Methodology:方法論)の開発が業界に広まりました。特に消費者行動に関しては、1920年代からあるAIDAの法則が原型となり、AIDMA、AISAS、AISCEASと変化してきたのは記憶にもあると思います。
私は数年のあいだ、当時世界最高のクリエイティブ(CR)力を持つとうたわれた、サーチ・アンド・サーチ(Saatchi & Saatchi)に出向していた経験があります。そこで毎日の腕立て伏せ並みにトレーニングを受けたのが「シングル・マインデッド・プロポジション(Single Minded Proposition)」というユニークなメソッドでした。
詳細は割愛しますが、「なぜそのブランドは存在するのか?」ということを消費者サイドから解き明かし、最後は短い一文に凝縮するという、もっとも明快なクリエイティブブリーフを創り上げるメソッドです。
それは奇しくもマーケターが今、もっとも多く口にする「パーパス」そのものです。
サーチ・アンド・サーチの往時のクリエイティブには、今でもハッとするパーパスが存在していることを確認できます。ブランドのパーパスを解き明かして、誰でも理解できる一文に凝縮し、クリエイティブが編み出す、巧みなメッセージとして世の中に伝えること、それはおそらくこれからも変わらないことでしょう。
そういった意味で、AW2020:Asiaコンテンツ「ザ・レスポンシビティ・オブ・マーケター(The Responsibility of Marketers)」は必見。Facebookのグローバル・ビジネス・マーケティングのバイス・プレジデントとWPPの最高クライアント責任者(Chief Client Officer)が向き合い、2020年のマーケターに求められるものを語り合っています。
変わっていったもの:その功罪
広告の世界は、デジタルとプログラマティックで一変しました。
リーマン・ショックの余波で金融のプログラマティック・エンジニアが多数この業界に入ってきたとの説もありますが、牧歌的な世帯視聴率の世界が一夜にして多くの指標に一喜一憂する世界に突入しました。広告マンが金融トレーダーに変革するのも大変です。
確かに可視化と効率の追求は「ある意味」都合の良いものです。マーケターは予算の配分に多くの選択肢を手に入れるとともに、以前は「金食い虫」と言われた広告費の説明責任を社内に果たせるようになりました。
しかしながら、サードパーティCookieのように掟がいつでも変わる世界では、マーケターもエージェンシーもトラフィックの行く末に目を奪われがちで、本来広告が背負う役割と本末転倒な事態を起きやすくした点は見逃せません。マーケターという職種が欧米に比べて少なく、人事異動で知見の継承が難しい点も加わり、目先のKPI、KGIの設定方法などで競争する環境も一因と言えましょう。
さらに、コロナ禍のなか、今後のデータ・ドリブン・カスタマー・エクスペリエンスは不透明になってきました。AW2020:Asiaコンテンツ「ザ・ビッグ・データ・リセット(The Big Data Reset)」では、データ解析の第一人者がブランドと消費者データを紐づけるアイデアについて語っています。
今求められる:原点×協働×CR
私が30年近くこの業界を俯瞰して、もっとも大切と思われることは、サーチ・アンド・サーチで体験した「なぜ、そのブランドは存在するのか?」に対する答えと、マーケターとエージェンシーが共通認識のもとに協働することです。ブランドのパーパスを考え抜き、信念を持って一気通貫した仕事を行っていけば、ゆるぎないメッセージとして心を打つことが可能です。広告のデリバリーは大変なパズルとなりますが、その信念に基づいてメッセージから起きる心の変化を想像し、目先の一般的な効率に惑わされずに設計することが求められます。
ここであらためて、メッセージを編み出すクリエイティブの重要性に、みなさんは気づくと思います。
今回のAW2020:Asiaでも、「かつてCMは幕間の寸劇と言われた」から始まるセッションもありますが、日本の広告コミュニケーションは情緒的な要素が不可欠です。
長年、お笑いが人気の文化もありますが、クリエイターは話題のクリエイティブを作るために、ときとして「瞬間芸」の世界に迷い込みます。
いまこそ、さらに力を入れることとしては、プログラマティックでは成し得ない人間の深い情緒への挑戦、ブランド・パーパスを的確に内包して心を動かすコンテンツを作るべく、クリエイターに正しい道標を与えて才能を最大限に引き出す手腕にあると思います。
たとえば、アクセンチュア・インタラクティブグループに入ったドルーガ5(Droga5)は、クリエイティビティを通じて成果をもたらしています。AW2020:Asiaのコンテンツ「ザ・ステート・オブ・クリエイティビティ:ア・カンバセーション・ウィズ・ドルーガ5(The State Of Creativity: A Conversation with Droga5)」では、クリエイティブをビジネスで活かす成功の鍵、それが何を意味するか、紐解きます。
「いつになっても本質は同じ」
広告とともに長年過ごしてきましたが、結論としては「いつになっても本質は同じ」というひと言に尽きます。その本質の正解が簡単に出ないので、みなさんの仕事はずっとチャレンジが続きます。さらに情緒とテクノロジーのパズルを扱うこの業界は、一層エキサイティングだと思います。
Advertising Weekにようこそ。是非多くの知見に触れてみてください。
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Written by 吉井陽交