分散型メディアが増えるなか、これまでのパネルデータのみではプランニングに限界がある。大手広告代理店は、ファーストパーティデータやデバイス、ソーシャルから収集したデータから顧客のアイデンティティグラフを作成し、インベントリーと掛け合わせたプランニングに注目する。消費者の行動変化に伴い、プランナーにも変革が必要だ。
メディアの分散化が進むなか、コムスコア(comScore)やニールセン(Nielsen)によるパネルデータのみを頼りに、メディアのプランニングとバイイングを判断する時代は終わりを迎えようとしている。
広告世界最大手WPPのメディアエージェンシー、グループ・エム(GroupM)は2016年12月から、オーディエンスベースのプランニングを行うためのプラットフォーム「[m]プラットフォーム([m]Platform)」を売り込んでいる。また、電通イージス(Dentsu Aegis)傘下のマークル(Merkle)や、オムニコム傘下のハーツ&サイエンス(Hearts & Science)も、同様の動きを見せてきた。
「ピープルベースドマーケティング」とも言われる、オーディエンスベースドプランニングは、ブランドのファーストパーティデータ、デバイスID、AmazonやGoogle、Facebookなどからのサードパーティデータ、さらに各エージェンシーが購入したデータソースなど、さまざまなデータセットから収集したデータをもとに、個人を特定できる情報を開示せずに、カスタマーのアイデンティティグラフを構築する。それを、パブリッシャーのインベントリー(広告在庫)と組み合わせたマーケティングだと、メディアエージェンシーの幹部らは説明する。
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動きはじめたエージェンシー
「消費者の行動は変わった。オーディエンスがスマートフォンでFacebook動画を見ているのを、モバイル、動画、ソーシャルという3つの異なるチャネルで扱うべきではない」と、ハーツ&サイエンスのチーフデータサイエンティストであるミーガン・パリューカ氏は語る。彼女は、いま同社でオーディエンスベースドプランニング部門の立ち上げを進めている。「我々は(メディアプランニングについての)考え方を変える必要がある。オーディエンスベースドプランニングは、消費者のプロフィール、フォーマット(この例では動画)、画面(モバイル)、およびパブリッシャー(Facebook)すべてを包含して考えるアプローチだ」。
パリューカ氏によるとハーツ&サイエンスは、オムニコムのデータとアナリティクス部門であるアナレクト(Annalect)と連携して、クライアント向けにアイデンティティグラフの構築を進めつつ、リアルタイムデータとこれまでにオムニコムが所有するデータをもとにインベントリーグラフも作成する。「オーディエンスとコンテキストはともに重要であり、クライアントのアイデンティティグラフと我々のインベントリーグラフ、その両方に力を入れている」と、同氏は語った。
一方、マークルも、オーディエンスベースドプランニングの強化を進めている。6月には、名前やメールアドレスのような個人を識別できる情報に基づいた米国消費者およそ2億8000万人分のIDを保管しているプラットフォーム「M1」を、電通イージスネットワークのメディアエージェンシーに展開した。電通イージス傘下のメディアエージェンシーでは、組織によりデータの専門知識に差があるため、マークルでオーディエンスベースドプランニングを一元的にサポートできるチームを組成する予定だと、同社のアナリティクスソリューション部門シニアバイスプレジデントを務める、ピーター・バンドレ氏は話す。
クッキーからIDベースへ
「オーディエンスベースドプランニングは、クッキーベースから、IDベースへとシフトしている。クッキーに基づくプランニングでは、デバイスを交換すると、クッキーが削除されてしまうし、モバイルアプリではクッキーを使えないなど、たくさんの問題がある」と、バンドレ氏は語る。
「消費者IDに基づくプランニングなら、クロスデバイスの問題を回避できるし、オフラインセールスと結びつけることも可能だ。広告を見せている相手と見せていない相手を把握し、そのうえで販売データを組み合わせることができる」。
バンドレ氏によるとマークルは、タイム社(Time Inc.)、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal:以下、WSJ)、AOLのネットワークなど、米国の大手パブリッシャー20社以上のユーザーアカウント情報を集めた「パブリッシャーアドレサブルマーケットプレイス(Publisher Addressable Marketplaces)」というソリューションも開発した。マークルはこうした消費者IDを使って、パブリッシャーのインベントリーに対するメディアプランを作成できると同氏は言う。「たとえば、ターゲットオーディエンスをWSJのユーザーから見つけられることなどがわかる」と、バンドレ氏は語った。
まだまだ教育は必要
一方、技術としては成熟しているが、オーディエンスベースドプランニングに関してエージェンシーとパブリッシャーの双方において、まだまだ教育が必要だとバンドレ氏は考えている。「パブリッシャーは関心を持っているが、すべてのパブリッシャーがデータとシステム自動化などの(クライアントの)ニーズに対応できるわけではない」と同氏は語り、オーディエンスベースドプランニングを電通イージス傘下のすべてのエージェンシーに展開するのは簡単ではないと続けた。
技術だけでは十分ではないという点に、ハーツ&サイエンスのパリューカ氏も同意した。「人、プロセス、それから技術だ」と同氏は語る。「業務のやり方の変更を進めている。いまはまだ、DCM(「DoubleClick Campaign Manager」)」や「プリズマ(Prisma)」のようなチャネルベースのプランニングという古い世界向けに作られたツールが使われている。プランナーの考え方を変える必要がある」。
Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)