解雇でなく「一時帰休」を検討する、米エージェンシーたち

コロナウイルスによる経済状況の悪化と不透明性が見込まれるなか、アメリカのエージェンシー各社は生き残りのための手段を模索しており、なかにはレイオフ(解雇)や一時帰休を検討するところも出てきている。

エージェンシーからすれば、社員を引きとどめつつ諸経費を削減してキャッシュを浮かせられる一時帰休のほうがいくぶんかマシなのだ。エージェンシーでは人材が極めて重要であり、人材を手放すことなくバランスシート上のリスクを回避するほうが、レイオフで人材を失うよりも良い選択になる。

あるエージェンシーのCEOは、匿名を条件に次のように述べた。「プロジェクトを中止ではなく延期するクライアントが多く、一時帰休であればエージェンシーも後で業務に復帰させることで対応しやすくなる。コロナウイルスの問題が終わったあとに、また社員が必要になるというのは各社とも考えているだろう」。

全員に当てはまる解決策は存在しない。米国における「一時帰休」の内容は州によって異なる。カリフォルニア州やニューヨーク州、ワシントン州などで別の労働法が運用されるためだ。だが一般的には、なんらかの形で欠勤することになる。たとえば有給休暇を消化するよう要請する企業もあれば、給料は支払わないが、医療系の社員福祉は受けられるようにする所もあるだろう。

一時帰休の運用方法はエージェンシーや州によって異なる。だが業界の専門家らは、エージェンシーとしては一時帰休のほうが、のちほどフルタイムの勤務に戻しやすいと指摘している。あるエージェンシー役員は、ほかのエージェンシー役員と話した際に、まったく同じ理由から一時帰休を検討しているという話になったという。

「社員を優先しようとしている」

4Aの元プレジデントでエージェンシーのシェルパ(Sherpa)を立ち上げたナンシー・ヒル氏は、「エージェンシーはなるべく社員を優先しようとしている」と語る。「いまの状況になる以前に、人材獲得のため激しい戦いを繰り広げてきた。せっかく雇用した優秀な人材を、戻ってくる見込みもなしに失うことだけはしたくない。現在の危機的状況にあっても、優れた人材を引き止めるためにできることは何でもやるだろう」。

今後の厳しい状況に対処するため、エージェンシー各社は有給休暇の使用要請や、労働日数の短縮(週休3日にして給料を8割にするなど)を検討している。特に有給休暇を検討しているエージェンシー各社は、コロナウイルスの危機が終息すれば非常に忙しくなり、有給の消費が難しくなることが予測されるため、この時期に休暇をとってもらう方がレイオフなどより理にかなっていると指摘している。各社が期待しているのは、一時帰休のような一時的措置を取り、今年後半にかけて通常の業務レベルに戻った際にも人材を維持することだ。

この「今年後半にかけて通常の状態に復帰する」可能性があるところは、今回の危機がこれまでの危機とは異なる点といえるだろう。国の対応にもよるが、感染拡大は2カ月ほどで終息に向かう可能性がある。実際、中国ではすでに国民が仕事に復帰しつつある。同様の経過をたどった場合、上記の措置であれば、社員を復帰させてすぐにクライアントとの業務に戻ることが可能だ。

一時休暇は一部社員にとっても良い選択肢といえる。いまや米国では失業者が増加しており、失業の恐怖が迫っている人も多い。米国労働省が3月26日に発表した失業数によれば、3月第3週で330万人の米国人が失業保険申請をしたという。もしレイオフされれば、エージェンシー各社が雇用を避け、フリーランスへの依頼を減らしている現状で職を探すのは容易ではないと専門家らは指摘する。一方、フォレスター・リサーチ(Forrester Research)の主席アナリスト、ジェイ・パティサル氏は、インハウスのエージェンシー業務は続いており、急にあふれた優秀な人材を獲得しようと狙っているブランドもあるだろうと語る。

レイオフを選択するエージェンシー

そんななかレイオフを行うエージェンシーは、業務がすぐに通常の状態に戻る可能性は低いと考えている。レイオフした社員が同じエージェンシーに復帰しないとも言い切れないが、一時帰休より難しいのは確かだ。なかにはレイオフの可能性が高いエージェンシーもある。「特に影響が大きい分野もある」と、ヒル氏は語る。「体験型分野のエージェンシーでは、すぐに仕事量が戻ることはないだろう」。たとえば体験型のサービスで知られるエージェンシーのジャイアント・スプーン(Giant Spoon)は、社員の2割をレイオフしたとアドエイジ(Ad Age)が報じている

厳しいのは体験型のエージェンシーだけではない。メディアやクリエイティブ系のエージェンシーは、クライアントの広告支出が減ったことに苦しんでいる。エージェンシーにとって、人材はもっとも重要な資産であるとともに、もっともコストがかかる存在でもある。アノマリー(Anomaly)は3月はじめにコロナウイルスを理由として22人の社員をレイオフし、一部社員の給与を減らした。IPGやピュブリシスグループ(Publicis Groupe)といったホールディング企業もコスト削減の方法を模索している。IPGの会長兼CEOを務めるマイケル・ロス氏はコロナウイルスの企業への影響について、「当社は、収益の変化に応じてコストを調整する方法を複数準備しており、経営陣は収益とコストの両面において適切なアプローチを実施している」と、同社の公式発表で述べている。ピュブリシスグループもまた公式発表で「運営コストの管理に精力的に取り組んでいる。現状を乗り切るため、いくつかの出費については繰延も検討している」としている。

一時帰休を選んだエージェンシーであっても、レイオフは避けられない見込みのところもある。「エージェンシーは不況に直面すると、減収の穴埋めとしてレイオフを行う傾向がある」と、パティサル氏は語る。「今回の景気悪化についても同様のことが見込まれる。エージェンシーは四半期ベースの財務状況を見て運営上の決断を下す傾向があるためだ」。またパティサル氏は、金融市場や社員の復帰時期が不透明な状況下で、一時帰休というのは難しい選択かもしれないと指摘している。

レイオフや一時帰休は避けたい

エージェンシー役員らは、人材の引き止めに全力を注ぎ、レイオフや一時帰休は避けたいと語っている。ストロベリーフロッグ(StrawberryFrog)の創業者兼CEOのスコット・グッドソン氏は「マーケティングコミュニケーション分野で働く人材にとって非常に厳しい時代だ。フルタイムの社員、マーケター、ブランドマネージャー、何千人といるフリーランス、誰にとっても同じだ。彼らの生活はこの業界にかかっている」と語る。「こういった人材や職を守るために、できることをしなければならない」。

「誰もが社員について非常に心配している」と、ヒル氏は語る。「こういった情勢下において、彼らは労働力や社員、文化を維持するため全力を注いでいる」。

KRISTINA MONLLOS(原文 / 訳:SI Japan)