D2C 競争激化で、ブランディング代理店が進化を強いられる

食器製品のスタートアップ、グレート・ジョーンズ(Great Jones)の共同創業者シエラ・ティシュガート氏は、エージェンシーのペンタグラム(Pentagram)にかつて会社のロゴやウェブサイト、パッケージの設計を依頼した。同氏ともうひとりの共同創業者マディー・モーリス氏はそれ以降、ペンタグラムに営業資料やパンフレット作成までさまざまな業務を委託するようになった。

スタートアップにとってのエージェンシーの役割は拡大を続けている。たとえばレッド・アントラー(Red Antler)はキャスパー(Casper)とオールバーズ(Allbirds)のブランディングを担当するとともに、11月にはパフォーマンスマーケティングチームのグッド・ムース(Good Moose)を立ち上げている。レッド・アントラーの共同創業者でありCEOを務めるJB・オズボーン氏は、ブランディングを担当するクライアントから「パフォーマンスマーケティング用の良いエージェンシーがなかなか見つからない」と相談されるという。

D2C業界の競争が激化するなか、D2Cスタートアップが競争力を求めて実店舗での販売やテレビへの進出を早めるケースが増えている。たとえばエバーレーン(Everlane)が実店舗をオープンさせたのは創業から6年だったのに対し、アウェイ(Away)はたったの2年となっている。スタートアップが増えるなか、生き残りのための変化が試みられているのだ。進化するD2Cブランドに合わせ、ブランドにサービスを提供するエージェンシーもまた変わることを求められている。

たとえばハイブリッドエージェンシーであり投資企業のブリッシュ(Bullish)は昨年からデザイン担当部門を立ち上げ、ハリーズ(Harry’s)やキャスパーといったスタートアップに対し、株式を報酬としてデザイン面でも協力するようになっている。同社が最初に担当したD2C企業のひとつ、ペットフードブランドのノムノムナウ(NomNomNow)は、ブリッシュの協力でリブランディングを行い、3月にローンチする予定だ。

ジン・レーン(Gin Lane)は、ハリーズやヒムズ(Hims)への提携を通じ、アーリーステージのスタートアップにとって頼れるブランディングエージェンシーとしての立場を確立した。だが、同社がエージェンシー業務を打ち切って、自社ブランドをローンチしたことで、別のエージェンシーが参入する余地が生まれている。

いま直面している課題

D2Cスタートアップの競争が激しくなるなか、エージェンシーにとっての課題も増えている。それが競合他社とかぶらないようなデザインのウェブサイトの構築だ。キャスパーがローンチした2014年の時点では、同社が唯一のベッド販売を行うD2Cスタートアップだった。同社のマットレスが入った、ブランドロゴの書かれたカラフルなボックスは、ユニークなものだったのだ。ところが現在では、マットレスのD2Cスタートアップは175社にものぼり、もはや独自性はなくなってしまった。

次に、スタートアップは新たなチャネルへの拡大をかつてないほど迅速に行う必要が出てきた。他社に先駆けてメッセージを打ち出すためだ。これにともない、メッセージやデザインの統一性を持たせるための原則をあらかじめ用意しておくことの重要性が増したのだ。この原則のためのベストプラクティスを提供する存在として、エージェンシーが求められている。

レッド・アントラーのオズボーン氏は「数億円の資金を調達した段階のスタートアップが、今後数年間のテレビCMについて想定していることは少ない」と指摘する。「だが、いまや立ち上げから4カ月や半年の企業でも好調であれば、テレビCMやOTTを試すケースが増えている。ブランドにとって、以前よりも柔軟な戦略と拡大のための準備が必要となっている」。

ペンタグラムのニューヨークオフィスの共同経営者、エミリー・オーバーマン氏は「スタートアップは資金調達のためのシードラウンドを必要としていて、こういったアイデアを早い段階からしっかりと練っておかねばならないというプレッシャーがある」と語る。

ファネル全体へ訴える

エージェンシーの業務として、ロゴのデザインやマーケティングキャンペーンは一般的なものだ。だが、これまでもほかの業務に携わることは珍しくなかった。たとえばレッド・アントラーは、キャスパーが実店舗をオープンする前に店舗のデザインで協力している。ブランディングエージェンシーには、スタートアップの企業としての価値やメッセージを打ち出すのに協力するところも多い。

オズボーン氏は、レッド・アントラーがパフォーマンスマーケティングの専門チームであるグッド・ムースの立ち上げを決めた理由のひとつとして、クリエイティブコンテンツを提供した企業から、Facebookやインスタグラムなどのチャネルで最高のパフォーマンスを生み出しているという話を聞いたためだとしている。グッド・ムースは11月のローンチ以降、25社のクライアントを抱えている。

グッド・ムースは独立したエージェンシーとして運営されているが、それは「機会損失」だとオズボーン氏は考えている。クライアントのためにパフォーマンスマーケティング業務を行わず、レッド・アントラーをサポートするため「消費者のファネル全体に対し、ブランドのストーリーを最適化するのがスマートなやり方だ」と語る。

資金調達前からサポートも

一方、ブリッシュはレッド・アントラーとはある意味で真逆の手法をとっている。ブリッシュの共同創業者でありマネージングパートナーのブレント・バータン氏は、最初からデザイン面でスタートアップをサポートしていなかったことを後悔しているという。

「デザインは人と物を結びつける」とバータン氏は語る。「もしもっと早い段階から取り組んでいれば、持続可能性や利益面でメリットが大きかっただろう」。

ブリッシュやレッド・アントラー、ペンタグラムのようなエージェンシーは、クライアントのスタートアップから株式の形で報酬を受け取っている場合も多く、クライアントが確固たるブランドを確立して利益に結びつけることは重要だ。オズボーン氏はレッド・アントラーが資金調達前からスタートアップと提携するようになっており、適切なベンチャーパートナー探しの面でも協力しているという。

大手ブランドの追随が懸念

だが、クライアントの注目を集めるというタスクは難しくなる一方だ。スタートアップが増え続けているだけでなく、大手ブランドもD2Cブランドと競合する商品を発売するようになっている。たとえばターゲット(Target)は2月初旬、アウェイを彷彿とさせるラゲージ商品を発売した。

「消費者向けブランドは基本的に非常に動くのが遅いものだが、いまや追いつきつつある。D2Cモデルを真似するだけにとどまらず、商品の外観も似たものを発売するようになったのだ」と、オズボーン氏は語り、次のように述べた。「もはやスタートアップのトレンドを追っているというレベルではない。D2Cにとって由々しき問題だ」。

Anna Hensel(原文 / 訳:SI Japan)