消費者の関心を勝ち取るため、各ブランドは普通の人々をインフルエンサーに変えている。有名なインフルエンサーによるスポンサードが定着するにつれ、むしろ身近な友人や隣人からの情報の方がより重要で信頼できると考え、マイクロインフルエンサーをさらに掘り下げ、ハイパーローカルなレベルまで押し進めている取り組みもある。
何かを購入する、購読すると考えているとき、誰の意見を参考にするか? この質問に答えるために、各ブランドは普通の人々をインフルエンサーに変え、消費者を勝ち取ろうとしている。
イーマーケター(eMarketer)が2021年5月12日に出した報告書「インフルエンサー・マネタイゼーション2021(Influencer Monetization 2021)」によると、米国企業の68%がメディアプランの一部に(有料または無料の)インフルエンサーマーケティングの実施を計画しており、この割合は昨年の62%より増えている。2022年にはこの数が72%に増えると見込まれている。
インフルエンサーマーケティングが定着しているのは間違いないが、この分野が飽和状態に陥り、さらに薄れていくにつれ、より「新しい形式」が取られようとしている。それは特に、口コミという要素において顕著だ。有名なインフルエンサーやブランドの広告よりも、友人や隣人からの情報の方がより重要で信頼できると考え、ハイパーローカルなレベルまで掘り下げようとしている取り組みもある。
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DARPAの技術を応用
ニューヨークに本拠を置くピープル・ファースト・マーケティング(People First Marketing)は、自社について「P2Pの説得企業」と説明する。同社は2021年1月の創業以来、独立系メディアエージェンシーのクロスメディア(Crossmedia)と、姉妹企業であるメイン・ストリート・ワン(Main Street One)でパートナーシップを組んできた。3社とも、エージェンシーネットワークであるドーン(Dawn)のメンバーだ。
ピープル・ファーストの創業者でCEOのカーティス・ホーグランド氏は現在、一般の人々が自らのソーシャルリーチを通じて広めるコンテンツを、クライアントと協力して制作している。「実在の人物を使った場合、平均シェア率はブランドがおこなう場合の約6倍、記憶に残る確率は300%増になる」とホーグランド氏はいう。
ピープル・ファーストを支える技術は、基本的にオンラインリスニングエンジンであり、会話モデリングを用いてピープル・ファーストのクライアントが話題にしたいことや、ソーシャルな口コミで推奨されていることを特定する。このツールはもともと、ホーグランド氏が米政府の国防高等計画研究局(DARPA)と協力して、2016年の米大統領選挙に向けたロシアの誤報キャンペーンや、イスラム国(ISIL)などのテロ組織が利用しているソーシャルリクルート手法に対抗するために開発されたものだ。
つまり、ピープル・ファーストは、このテクノロジーを通じて特定された人々に報酬(平均300ドル[約3万2800円])を支払い、クライアントが事前承認した動画や投稿を通じて、クライアントを推奨している。ピープル・ファーストはクライアントと協力して、それぞれのマイクロ/ナノインフルエンサー、クリエイター(フォロワー数2000人~2万人)に、ひと月あたり約100本程度のデジタルストーリーを提供/配布している。
透明性があり自然なマーケティング
これらがスポンサードコンテンツであることは明記されている、とホーグランド氏はいう。「ブランドから資金提供を受けた投稿や動画は、各プラットフォームの規約に従って、#ad、#sponsoredbyと明記して目立つように表示されている。ほとんどのブランドには厳格なコンプライアンス部門があり、我々の信用はこの透明性を維持するかどうかにかかっている。これが本物で信頼されるためには、(スポンサードであることが)明確でなければならない」とホーグランド氏は話す。
クロスメディアのCSOであるアン・ボローニャ氏は、このコンセプトは実在する人々をインフルエンサーとして取り込めるだけでなく、この取り組みから得られる成果も魅力的だと述べる。「バックエンドには最適化された分析があり、メディアやマーケティングプログラムに挿入できる美しいループになっている」とボローニャ氏は語る。
このアプローチは、健康関連のクライアント、特にデリケートな話題を扱うクライアントに適しているようだ。
「ピープル・ファーストは400人以上の人々を対象に、クリーンな医療への要望を伝えるリアルなストーリーを募集した」と、ジェネクサ(Genexa)のCMO、ケリー・レーン氏は述べる。ジェネクサは、従来のブランドの薬から不要な成分を取り除いている企業だ。レーン氏は、「ピープル・ファーストは、口コミによる支持と教育の基盤を構築することで、ジェネクサの成長に重要な役割を果たしてきた。この信頼性は、現代のマーケティングにおいて非常に貴重だ」と語る。
プロバイオティクスメーカーであるカルチュレル(Culturelle)のマーケティングを担当しているアイヘルス(i-Health)で北米マーケティング担当シニアディレクターを務めるジェン・イラッカ氏は、「こうしたP2Pのインフルエンサーは、『過敏性腸症候群(IBS)』が自分の生活にどのような影響を与えているか、IBSをコントロールするためのヒントやコツ、IBSの症状が出ない日が増えれば生活がどのように変わるかなどを率直に語ってくれた」と付け加える。
よりローカルで親密なレベルに
前述のイーマーケターの調査によると、インフルエンサーは新しいソーシャルプラットフォームやそこでのブランド活動を促進する大きな存在となっている。その波は、ピープル・ファーストが取り組もうとしている、よりローカルで親密なレベルにまで及ぶ可能性を秘めている。調査報告書では、インフルエンサーマーケティングプラットフォームであるリンキア(Linqia)の調査を引用し、2020年2月から2021年3月までの主要なソーシャルプラットフォームにおけるインフルエンサーの利用状況の上昇・下降の軌跡を指摘している。
予想通り、もっとも大きく伸びたのはTikTokで、2020年の16%から2021年は68%になった。Snapchatは16%から26%に、Twitch(ツイッチ)は5%から13%に、それぞれ増加している。一方報告書によると、インフルエンサーのトッププラットフォームであるFacebookは97%から93%になり優位性を少し失い、インスタグラムのストーリーズ(Stories)は83%で安定を維持、米国で2020年8月に開始されたリール(Reels)は2021年3月には36%になっている。
インフルエンサー向けの新チャネルが次々と台頭しているなか、ピープル・ファーストのホーグランド氏は、自分たちの取り組みが友人や家族からのスパムの発信源になることを防ぎたいと語っている。「我々がおこなうことはすべて、そのブランドが誰なのか、誰が出資しているのかを100%透明にしている」と同氏はいう。「詐欺やボット、偽装工作などは一切ない。ダークな部分は何もない状態にしたい」。
[原文:As influencer marketing grows, one agency startup targets your friends and neighbors to win you over]
MICHAEL BÜRGI(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島 翔平)