最近のコロナウイルスの急増に加えて、風邪とインフルエンザの季節がやってきた。しかし、今日のリモートワーク文化の強化とプレゼンティズム(本来は休みをとるべき心身の状態でも就業すること:疾病就業)の高まりにより、一部のエージェンシー幹部は、病気休暇を取ることがもはや正当化されないと感じている。
最近のコロナウイルスの急増に加えて、風邪とインフルエンザの季節がやってきた。しかし、今日のリモートワーク文化の強化とプレゼンティズム(本来は休みをとるべき心身の状態でも就業すること:疾病就業)の高まりにより、一部のエージェンシー幹部は、病気休暇を取ることがもはや正当化されないと感じている。結局のところ、理論上は誰にも気づかれることなくベッドからでも仕事ができるようになった今、体調が就業に十分かどうかの明確な境界線を引くことは、はるかに難しくなっている。
この9カ月間で強調されてきた、上司・同僚・顧客などから常に見える状態でなければならないというプレッシャーが、一部の企業に不健全な文化を生み出している。多くのメディアやテクノロジー企業は、自社の社員をどれだけ大切にしているかを高々と謳っているが、リストラの可能性が目に見えているあいだは、そのメッセージは空虚に響くことが多い。
一部のクリエイティブエージェンシーの若手スタッフにとって、過剰な働きを求めるプレッシャーはかつてないほど高まっている。あるクリエイティブ広告会社のアートディレクターは、「経験の浅い私たちは、あらゆるプロジェクトや会話のなかで、自分が生産的であること、自分の存在が目に見えていることを競い合っているように感じる」と話した。「たとえ私が半死半生であったとしても、私は今病気で休暇を取る勇気はない。もし何か起きて、私が解雇されて『ニュー・ノーマル(新しい常態)』に放り出されたら、クリエイティブ職の求人は多くは見つけられないだろう」。
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「病気休暇を非常に取得し辛い」
ほかのエージェンシーでは、病気のために会議を欠席したり、病気で休んだりすることを正当化するために、幹部たちがSlack上で自分の症状を誇張して書き込んだり、どれだけ苦しんでいるかを説明したりしている。それがチームの士気に悪影響を及ぼすことは避けられない。「人々はSlackのチャンネルで自分がいかに苦しんでいるかを自慢しているようだ」と、報復を恐れ匿名を希望したイギリスのPR会社幹部は語った。「報告書を書いたり、ビデオ通話をしたりすることができない理由を説明するために、人々は自分の症状を生々しく語ったりする。私も今、病気休暇を非常に取得し辛い」と、彼女は付け加えた。
以前であれば上司に個人的に電話をして体調不良であることを説明し、病気休暇を取得していたはずが、デジタル・プレゼンティズムとほかの人々に見えるチャンネルでの自己正当化が、それに取って代わってしまった。職場の文化でこのような不健全な変化が起きていると、PR会社幹部は語った。
クリエイティブエージェンシーのシックス・シングズ・インポッシブル(Six Things Impossible)の創設者であるエイミー・キーン氏は、就労者のあいだでパフォーマンスと可視化への圧力が高まっている原因は広告業界のハッスル文化(限界まで無理を押す文化)にあると考えている。その結果、職場に不健全なレベルの罪悪感が生まれる。「人々は、午前8時59分ちょうどにログインしなかったこと、出席する会議の数が足りないこと、送った電子メールの数が少ないこと、金曜午後7時に招待されていた、楽しくもなく儀礼的でしかなくなっている『同僚と一緒にパスタ料理を作ろう』イベントに出席しなかったことに罪悪感を感じている」と、彼女は述べた。
「常に罪悪感を感じているということは、1日中自分の姿を見せるように常にプレッシャーをかけているということだ」と、キーン氏は付け加えた。
経営者たちはさらなる努力が必要
当然のことながら、自宅で昼寝をしてからベッドにラップトップを持ち込み、のちほど集中力がある状態でコミュニケーションを取るという判断と比べると、寒くて混雑した通勤に耐えられないほど体調が悪いと判断するのは、勤務日丸々1日に影響を与える大きな違いがある。しかし、病気休暇取得に伴うこの新たな不安感は、企業が自社のウェブサイトに誇らしげに掲げるような企業価値観と矛盾しているように思われる。
すべての企業で従業員が劣悪な体験をしているわけではない。一部の企業では、従業員が体調不良時には適切にログオフし、回復に時間をかけるよう奨励している。別のエージェンシー情報筋によると、一時解雇されている労働者であっても、該当する場合には、一時解雇手当額ではなく、全額給与の病欠手当を請求するよう奨励されている。
それにもかかわらず、強制的なリモートワークの結果として生じた種々の困難は、経営者たちがさらなる努力をすることを必要としている。「企業文化に関するメッセージは、(貧困者への)無料食堂における恒例ボランディア事業の写真が載ったウェブサイトやパワーポイントのスライドと合わせて掲載することで見栄えを良くしてくれる。しかし、職場で実際に従業員がどのように感じているのかを定期的に調べない限りは『皆で一緒に乗り切ろう』なんてことはできない」とキーン氏は言う。
「私はこれまで、何千人もの従業員を抱える企業が『満足度調査』を従業員たちに送信し、それをもとに取締役会に対して満足度が上がったか下がったかを報告するだけ、という光景を見てきた。今の新しい労働条件にはそれ以上の取り組みが必要だ」と彼女は付け加えた。
[原文:‘An unhealthy level of guilt’: Culture of presentism is making it harder to justify taking sick days]
MAYA MIDDLEMISS(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU