- マーケティング分野におけるジェネレーティブAIツールは、驚くほど迅速な進化を遂げており、企業は主に予算自体を増やしているというよりは、ジェネレーティブAIプロジェクトのために資金をほかから再配分しているようだ。
- ChatGPTのような使いやすいジェネレーティブAIツールは、テクノロジーに詳しくない従業員による活用を加速させている。
- 一方で、AIベンダーの選択や著作権、データプライバシーなどの未解決の問題が混乱を招いている。AIでのコンテンツ作成に懸念を持つ企業も。
ディスプレイ広告業界の複雑さを表すカオスマップとして話題になった「Lumascape」を覚えている人は多いかもしれない。今、マーケティング関連のジェネレーティブAIツールの世界はそれに匹敵するほどの複雑さを見せている。
その一方で、一部のマーケターにとっては、その急速な進歩ゆえにAIベンダーの選定時に混乱を招いている。これは、著作権やデータプライバシー関連の未解決の問題によってさらに頭痛の種となっている。
「ジェネレーティブAIがあらゆる場面で使われるようになったことで、大規模言語モデル(LLMs)の多目的性と幅広い移植性を理解することがマーケターたちにとって非常に重要になっている」と、この技術に構築、購入、または研究の分野で関わっているマーケティング専門家たちは言う。しかしながら、この技術をめぐる競争も熾烈になってきていることで、競争優位を得たいと考える企業に新しい課題を生み出している。
ジェネレーティブAIのために資金が再配分される
ジェネレーティブAIの急速な発展と普及は、これまでの新技術をめぐる「ハイプサイクル(話題として盛り上がり、普及するサイクル)」をスキップする速さで、多くの人々を驚かせた。クレデラ(Credera)の最高データ責任者であるヴィンセント・イェイツ氏によれば、企業は主に予算自体を増やしているというよりは、ジェネレーティブAIプロジェクトのために資金をほかから再配分しているようだ。
「クライアントの大部分はいまだにジェネレーティブAIをどう使えばよいか、仕事にどのような影響が出るのか、といった基本的な質問を尋ねる段階であるものの、クラウドベースのAIモデルやオープンソースのLLMsの利点といった、適切な技術関連の質問をする先進的なクライアントが増えている」と、イェイツ氏は言う。
また、イェイツ氏はこう続ける。「(大規模言語)モデルは、(人間で言うと)十代の(子供程度の)正確さしか持っておらず、具体的な価値はないものの珍しさが話題になっているレベルから、2カ月も経たないうちに専門家の人間に匹敵する正確さを持つ、即座に使える変革的な技術に変わった。この(早さで)機能が変化したことで、『こうなったらどうだろう』と人々が妄想をして楽しむ時間を持つ前に、中学生でも直感的に使用できる大幅に破壊的な技術として、突如人々を驚かせた」。
今は技術をブランド化しようとする時期ではない
ガートナー(Gartner)のアナリストであるニコール・グリーン氏は、マーケターがジェネレーティブAIにまつわるノイズに圧倒されている、と話す。新しい技術はどれも一定のハイプサイクルを通過して普及されるものだが、ジェネレーティブAIの場合はマーテック(マーケティングテクノロジー)企業や企業相手のビジネスにフォーカスする企業ではすでに導入し始めており、サイクルはさらに短いものになるかもしれない。
「しかし、各AIモデルの仕組み、ベンダーが使用するデータの種類、データのセキュリティ方法およびベンダーのツールが供給できる業界固有の使用方法をマーケターが知るべきだ」と、グリーン氏は述べる。(ガートナーのリサーチによると、テックサービス・プロバイダーの80%以上が2023年末までにジェネレーティブAIの活用を検討している)。
「市場には非常に多くの混乱が生まれており、意思決定者や購買グループに組織全体で共有できる一貫した用語を与えることで、技術の採用を促進することが重要だ。今は技術をブランド化しようとする時期ではない。ジェネレーティブAIと関連ツールを使用して、エンドユーザーのためにプラットフォームの生産性を向上させる方法を決定する時期だ」[続きを読む]
- マーケティング分野におけるジェネレーティブAIツールは、驚くほど迅速な進化を遂げており、企業は主に予算自体を増やしているというよりは、ジェネレーティブAIプロジェクトのために資金をほかから再配分しているようだ。
- ChatGPTのような使いやすいジェネレーティブAIツールは、テクノロジーに詳しくない従業員による活用を加速させている。
- 一方で、AIベンダーの選択や著作権、データプライバシーなどの未解決の問題が混乱を招いている。AIでのコンテンツ作成に懸念を持つ企業も。
ディスプレイ広告業界の複雑さを表すカオスマップとして話題になった「Lumascape」を覚えている人は多いかもしれない。今、マーケティング関連のジェネレーティブAIツールの世界はそれに匹敵するほどの複雑さを見せている。
その一方で、一部のマーケターにとっては、その急速な進歩ゆえにAIベンダーの選定時に混乱を招いている。これは、著作権やデータプライバシー関連の未解決の問題によってさらに頭痛の種となっている。
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「ジェネレーティブAIがあらゆる場面で使われるようになったことで、大規模言語モデル(LLMs)の多目的性と幅広い移植性を理解することがマーケターたちにとって非常に重要になっている」と、この技術に構築、購入、または研究の分野で関わっているマーケティング専門家たちは言う。しかしながら、この技術をめぐる競争も熾烈になってきていることで、競争優位を得たいと考える企業に新しい課題を生み出している。
ジェネレーティブAIのために資金が再配分される
ジェネレーティブAIの急速な発展と普及は、これまでの新技術をめぐる「ハイプサイクル(話題として盛り上がり、普及するサイクル)」をスキップする速さで、多くの人々を驚かせた。クレデラ(Credera)の最高データ責任者であるヴィンセント・イェイツ氏によれば、企業は主に予算自体を増やしているというよりは、ジェネレーティブAIプロジェクトのために資金をほかから再配分しているようだ。
「クライアントの大部分はいまだにジェネレーティブAIをどう使えばよいか、仕事にどのような影響が出るのか、といった基本的な質問を尋ねる段階であるものの、クラウドベースのAIモデルやオープンソースのLLMsの利点といった、適切な技術関連の質問をする先進的なクライアントが増えている」と、イェイツ氏は言う。
また、イェイツ氏はこう続ける。「(大規模言語)モデルは、(人間で言うと)十代の(子供程度の)正確さしか持っておらず、具体的な価値はないものの珍しさが話題になっているレベルから、2カ月も経たないうちに専門家の人間に匹敵する正確さを持つ、即座に使える変革的な技術に変わった。この(早さで)機能が変化したことで、『こうなったらどうだろう』と人々が妄想をして楽しむ時間を持つ前に、中学生でも直感的に使用できる大幅に破壊的な技術として、突如人々を驚かせた」。
今は技術をブランド化しようとする時期ではない
ガートナー(Gartner)のアナリストであるニコール・グリーン氏は、マーケターがジェネレーティブAIにまつわるノイズに圧倒されている、と話す。新しい技術はどれも一定のハイプサイクルを通過して普及されるものだが、ジェネレーティブAIの場合はマーテック(マーケティングテクノロジー)企業や企業相手のビジネスにフォーカスする企業ではすでに導入し始めており、サイクルはさらに短いものになるかもしれない。
「しかし、各AIモデルの仕組み、ベンダーが使用するデータの種類、データのセキュリティ方法およびベンダーのツールが供給できる業界固有の使用方法をマーケターが知るべきだ」と、グリーン氏は述べる。(ガートナーのリサーチによると、テックサービス・プロバイダーの80%以上が2023年末までにジェネレーティブAIの活用を検討している)。
「市場には非常に多くの混乱が生まれており、意思決定者や購買グループに組織全体で共有できる一貫した用語を与えることで、技術の採用を促進することが重要だ。今は技術をブランド化しようとする時期ではない。ジェネレーティブAIと関連ツールを使用して、エンドユーザーのためにプラットフォームの生産性を向上させる方法を決定する時期だ」と、グリーン氏は言う。
シンプルなシステムと複雑なシステム
既存のプラットフォームに新しくAI機能を統合する例は数多く出されているが、そのひとつがアドビ(Adobe)だ。ソフトウェア業界における大企業であるアドビはこのほど、アドビ・エスクプレス(Adobe Express)の新バージョンをデビューさせた。アドビ・ファイヤーフライ(Adobe Firefly)という名前の同社のジェネレーティブAIエンジンを使用することで、クリエーターはテキスト、画像、ビデオ、オーディオコンテンツにおける新しいAIツールを使うことができる。
AIに関連してノイズが多く存在するなかでAIをどのようにマーケティングするつもりかという質問に対し、アドビ・エクスプレスの製品責任者であるイアン・ワン氏は、「ユーザーベースがアドビの高度な製品をより詳しく知らない場合でも、これらの機能はAIを駆使したコンテンツ作成を多くの人が使える状態にできる」と述べた。
また、「アドビには、私たちが持っているすべてのアプリを横断して、さまざまな文脈で多くのユーザーがいる。彼らの多くは、私たちのエコシステム内で深く作業しており、それを行うためのシームレスで摩擦の無い方法を求めている」とも話す。
ブロックチェーンや暗号資産といった技術が持つ複雑さがないため、ChatGPTのような使いやすいジェネレーティブAIツールは、テクノロジーに詳しくない従業員による活用を加速させていると、マーケターたちは言う。
AI機能の統合は注意が必要
しかし、注意は必要だ。たとえば、マスターカード(Mastercard)では、ジェネレーティブAIでコンテンツを作成することは(今のところ)焦点ではない。マスターカードの最高マーケティング・コミュニケーション責任者であるラージャ・ラージャマナー氏は、「センシティブなデータを保護し、著作権に関連する問題を回避して偏見のある(AIによる)発言につながる可能性のあるユーザーデータを持たないようにするために、ツールを自社で作成することに焦点を当てている」と述べた。
ラージャマナー氏は、「私たちはB2BのセールスのためにジェネレーティブAIを使用してきた。新しいRFP(事業提案)エンジンをマスターカードが持つデータセットでトレーニングさせることで、自社は(それまでの)数週間ではなく1日未満で最初の(事業提案書の)ドラフトを作成することができるようになった」と語り、「ブランドがエージェンシーと仕事をする際にAIを使うことで、より明確な説明を提供することができるかもしれない」と述べた。
また、「まだマスターカードでは実際には行っていないものの、言葉だけでは十分ではない場合、エージェンシーにアイデアを説明するための視覚的な資料を作成するのに役立つかもしれない」とし、「エージェンシーへのブリーフィングをする際、多くの場合、クライアントとエージェンシーのあいだがしっかりと分かり合えるブリーフィングをするのは難しい。クライアントは頭のなかに何らかのコンセプトを持っていて、彼らが行うブリーフィングがそれを正確に説明していると思っているかもしれない。しかし、(ブリーフィングが的確)でない場合、見ているエージェンシー側の人は、クライアントが求めていることとして、全く異なる情報を理解するかもしれない。また、多くの場合、口頭でのブリーフィングには限界がある」と付け加えた。
時間と仕事を節約する
一方、スノーフレイク(Snowflake)は最近、検索スタートアップのニーヴァ(Neeva)およびそのジェンAI(GenAI)技術を買収したが、既にジェネレーティブAIツールを独自のマーケティングおよび営業業務に統合している。
スノーフレイクの最高マーケティング責任者であるデニース・パーソン氏によると、以前はキャンペーンデータを分析するのに数週間かかることがあったが、現在は、リアルタイムで利用できる情報が増えており、それはパイプラインの予測や解約率の削減のようなタスクをこなす助けとなっているという。ただしこのことは、ただ出来合いのツールを購入するのではなく、社内での「サイロ」化されたデータの分断を解消し、基盤を整える必要があることを意味している。
パーソン氏は、「AIはマーケターの仕事を奪うのではなく、救うだろう。(中略)時間は私たちの最大のコストだ」と言い添えた。
[原文: Amidst all the generative AI hype, marketers navigate the noise to build and test new tools ]
Marty Swant(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)