進化を続ける、Amazonの広告サービス。同社は必要に応じてトレーニングを実施しているが、すべてのエージェンシーが一様に手厚い講習を受けられるわけではないため、重要事項は分け隔てなく説明すべきだとの指摘や、真の目的は別にあるのではと疑う声が上がっている。米DIGIDAYが複数のエージェンシー幹部を取材した。
9月末の爽やかなある日、トッド・ハリック氏率いる50人規模のコンサルタントチームが、Amazonのシアトル本社に招待され、4時間のトレーニングコース「eコマーストレーニングアカデミー」を受講した。そこで同氏らは、Amazon Advertising Platform(AAP)、Amazon Media Group(AMG)、Amazon Marketing Services(AMS)といったAmazonの主要広告プログラムの機能、広告の表示位置、エージェンシーが知っておくべきターゲティング機能とその変更点について学んだ。
ハリック氏らはトレーニング後のテストに合格し、Amazonの認定資格を得た。「トレーニングで大半のことはわかるようになるだろうと思っていたが、それは思い違いだった」と同氏は述べた。同氏は、WPP傘下のポッシブル(Possible)に今年買収されたリテールコンサルティング会社、マーケットプレイスイグニッション(Marketplace Ignition)のプロダクト責任者だ。「私が学んだことは、たとえば、AAPがマネージドサービスプログラムからセルフサービス型のツールに変わったこと、そしてAmazonはAAPのサービスをダイナミックプログラマティック広告にまで広げて、AMSでできることをAAPでもやっていることだ」。
親会社ポッシブルもまた、eコマーストレーニングアカデミーに加えて、Amazonが選んだエージェンシー向けに約2年前に開発したトレーニングプログラム「トラスティドクリエイティブパートナーズ」(Trusted Creative Partners)にも参加し、プラットフォーム上での広告クリエイティブについて学んだ。プログラムの参加企業の大半は、制作会社だという。
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トレーニングではなく、プロモーション?
Amazonは自社の広告事業を展開するなかで、サービス内容を絶えず更新している。だがハリック氏のチームのように、Amazonからトレーニングを受けることはまれだと思われる。米DIGIDAYはこの記事の執筆に際して複数のメディアおよび小売エージェンシーに取材したが、回答を得られた13社のうちでは5例しかなかった。トレーニングを受けたエージェンシーも、それぞれ異なる内容を経験していた。Amazonはこの件で取材に応じなかった。
「結局のところ、Amazonはトレーニングしているのではない。サービス提供会社にまずプロダクトを理解させ、次にその顧客を教育させているのだ」とAmazon関連のコンサルティングを手がける企業バイボックスエキスパーツ(Buy Box Experts)のパートナー、ジェームズ・トムソン氏は語った。同氏によると、同氏のエージェンシーはAmazonの営業担当者とよく電話でやりとりし、広告サービスについて尋ねているのだという。Amazonは基本的なトレーニングを新規セラーに提供しているが、しかし内容はたとえばアカウントの作成やプロダクトの一覧表示の方法などであって、とくに高度なものではないと同氏は話した。
「言ってしまえば、本の読み方を教えてくれる司書も教師もいない、本でいっぱいの図書館のようなものだ」と同氏は述べた。
簡単な「トレーニング」を受けた企業
トムソン氏のように、この記事のために取材したエージェンシー幹部のほとんどは、Amazonのトレーニングプログラムをよく知らなかった。それでも、Amazonのシアトル本社で開催された「トラスティドクリエイティブパートナーズ」などのトレーニングプログラムや特別ワークショップに招待された企業は、少数ながら存在する。
トレーニングプログラムにもワークショップにも招待されなかったあるエージェンシーの関係筋によると、Amazonは過去数カ月間にわたって数回そのエージェンシーを訪れ、サーチエンジンマーケティング(SEM)のトレーニングを実施したという。「定期に開催されたわけではなく、決まったカリキュラムはなかった。我々の側でプラットフォームについて尋ねたいことがあるとき、Amazonは必要に応じて我々のオフィスにやってきた」とその関係筋は語った。
エージェンシーであるアイクロッシング(iCrossing)も似たような経験をしているようだ。同社SEM部門責任者のジェイコブ・デイビス氏は、「eコマーストレーニングアカデミー」や「トラスティドクリエイティブパートナーズ」についてはよく知らないと述べた一方で、Amazonがアイクロッシングのオフィスでトレーニングを実施しており、また同氏のチームがしばしばAmazonのニューヨーク支社を訪れているおかげで、互いの営業プロセスとAmazonの広告プロダクトを理解できていると語った。「Amazonによるトレーニングの内容が、我々とほかのエージェンシーで違っているかどうかはわからない」と同氏は述べた。
認定を得ることで、最新情報を入手
他方、「トラスティドクリエイティブパートナー」のエージェンシー、カタパルトマーケティング(Catapult Marketing)でマーケティングおよびクライアントサービスの責任者を務めるアンジェラ・エドワーズ氏は、トレーニングプログラムを通じて、Amazonが四半期ごとに加えているプロダクト仕様の変更やサービスのアップデートに関する最新情報を得ていると話した。エドワーズ氏のチームは2年前、自社オフィスでAmazon幹部2人から最初で最後の個人トレーニングを受けた。それ以来、質問や相談事について、Amazonとオンラインでやりとりしているのだという。
「Amazonは絶えず変わっていくので、最新情報を得ることは重要だ」と同氏は述べた。「Amazonに丁寧に相談に乗ってもらえる機会はなかなかない。『トラスティドクリエイティブパートナー』のエージェンシーなら、より優先的に対応してもらえる」。
トラスティドクリエイティブパートナーの1社、VML傘下のロックフィッシュ(Rockfish)でコンテンツ戦略部門シニアディレクターを務めるケイラ・ボンド氏は、さらに深いトレーニングを受けているようだ。同氏によると、半年ごとにAmazon幹部およそ8人がオフィスにやってきて、1日集中トレーニングを実施するのだという。
「トレーニングの内容は、広告クリエイティブと、Amazonの広告プログラムの利用方法について少々触れるものだ。大半はAMGとAMSについてだ」とボンド氏は説明した。「だがAlexa(アレクサ)、Kindle(キンドル)、ブランドストアなどに追加で広告を出稿する可能性についても話し合っている」。
ボンド氏は「eコマーストレーニングアカデミー」については聞いたことがあるものの、自分たちはそのプログラムや受講のメリットについて一切知らされていないと語った。同氏によるとロックフィッシュは、AMGがシアトル本社でエージェンシー向けに開催している招待者限定トレーニングセッションに招待された。セッションは毎回1日中にわたり、内容はAmazon Mediaエコシステムの活用法をめぐるものだったという。「セッションは1回ごとに異なる。さまざまな分野にまたがるAmazonのチームメンバーを1カ所に集めて、複数のデバイス、AMG、AMS、特別プログラムに関する彼らの見解とベストプラクティスを提示してもらうというものだ」と同氏は語った。
重要事項は分け隔てなく説明を
トムソン氏は、Amazonの広告サービスはより高度になってきているため、Amazonは広告プログラムの入札戦略など、さまざまなことをすべてのエージェンシーにはっきり説明すべきだと考えている。たとえば、Amazonの検索結果の直下に表示されるヘッドライン広告について、メディアバイヤーが複数のキーワードを同一の広告キャンペーンに使っている場合、Amazonは最高入札価格を維持するのではなく、むしろ入札レベルの平均をとるらしい。そのことがわかるまで、トムソン氏のチームは何カ月もかかったのだという。
「これはかなりテクニカルな話ではあるが、実際とても重要なことだ。明確な説明がある資料は提供されておらず、このことがわかるまでにクライアントの貴重な時間と資金がかなり無駄になった」とトムソン氏は話した。
Amazonによる広告トレーニングを通じて一部エージェンシーが新しい広告機能に関する情報を得ているといっても、それは基本事項に限られているようだ。「eコマーストレーニングアカデミーを受講しなくても、Amazonの広告プラットフォームはすぐに高水準で運用できる。そうしたことを日々学び、マスターしていくかどうかは、人それぞれだ」とハリック氏は語った。「Amazonの狙いは、自社の広告ツールについてエージェンシーに教えることのほかにあるのではないか」。
Yuyu Chen(原文 / 訳:原口 昇平)