近年、米国を中心に急速に存在感を増してきているAmazon広告だが、国内のブランド企業の多くはなかなか活用に踏み切れていない。だがこうした状況に、変化の兆しが見えている。エージェンシーの5(ファイブ)のCEO、若松武志氏に話を聞いた。
ブランディングはオンライン、オフラインどちらが適切か。そんな議論はもう必要ないのかもしれない。
近年、米国を中心に急速に存在感を増してきているAmazon広告だが、国内のブランド企業の多くはなかなか活用に踏み切れていない。だがこうした状況に、変化の兆しが見えている。2018年10月に開催されたアドテック東京2018では、スキンケアやヘルスケア商品の販売を行うネイチャーラボと、アサヒビールのAmazon広告を活用した事例が紹介され、注目を集めた。
「ここ数カ月で、CM予算をAmazon広告にアロケーションするブランド企業が少しずつ増えてきている。Amazonは、単なるECサイトだけでなく、認知のための広告媒体として認識されはじめている」。こう語るのは、Amazon Advertisingの広告プロダクトの販売に日本でいち早く取り組んできた広告代理店、5(ファイブ)のCEO、若松武志氏だ。
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広告主の認識に変化
「Amazon.co.jpのユーザーに向け、認知から購買までのファネルを、一貫してカバーできる点がAmazon広告の大きな強みだ」と若松氏は続ける。Amazon広告には、パートナーパブリッシャーやサードパーティのアドエクスチェンジを通じて、Amazon.co.jp 内以外にも広告を掲載できる運用型広告「Amazon DSP(旧称:AAP)」や、Amazon.co.jp 内部で、検索結果や商品ページに表示されるクリック課金型広告「スポンサー広告(旧称:AMS)」などがある。
広く潜在顧客にリーチしたいときは、Amazon DSPを、すでにAmazonサイトに訪れている顕在顧客にはスポンサー広告を、といった具合に、それぞれのプロダクトを組み合わせて活用すれば、フルファネルマーケティングが可能というわけだ。一方で、日本では、Amazonサイト内での購買を目的とした、少額予算での実施事例はいくつか見られるものの、ブランディングを視野に入れた事例はまだ少ない。
5では、Amazon広告の強みやノウハウを伝えるためのセミナーや、ユーザー会を定期的に開催している。セミナーでは運用に関するナレッジや事例のほか、予算を獲得するための効果的な社内説得の手段などのノウハウを提供。若松氏は「少しずつではあるが、参加している広告主のあいだで、Amazon広告はブランド認知や顧客創造にも有効だという認識が広がってきている」と語る。
国内企業の成功事例
こうした変化の兆しを象徴するのが、前述したネイチャーラボとアサヒビールの事例だ。ネイチャーラボの取り組みは、Amazon内に掲載されるスポンサー広告による購買促進だけでなく、Amazon DSPを活用して全ブランドの広告を実施。潜在顧客の顕在化に成功し、売上は18カ月で300%も成長したという。
また、アサヒビールの事例では、同社の商品「クリアアサヒ」のリローンチキャンペーンを通じて、Amazon広告が実店舗などオフラインでの購買にどれだけ貢献しているかをリサーチ。調査の結果、Amazon広告に接触した顧客の方が、非接触者よりも購入率が6.7%高く、Amazon広告が顧客の態度変容に影響していることがわかった。
これらの成果に大きく寄与しているのは、Amazonが持つ膨大な量の購買データだ。Amazon DSPのターゲティングセグメントは、ユーザーの閲覧や購入履歴といったデータに基づいて作成されるため、ユーザーにとって親和性の高い広告を表示することが可能なのだという。また、ターゲティングの精度が高いため、当然ほかのプラットフォームよりも、投資効率が良い。事実アサヒビールのキャンペーンでは、Amazon広告費に対して発生した売上は、その10倍にも及んだ。
改善は不十分という見方も
このように、国内でも目覚ましい成果が見られはじめている一方、前述したプロダクトの複雑性に関しては課題が残る。Amazonは、10月に、広告プロダクトを単一のブランド「Amazon Advertising」に統一し、簡略化を図った。
しかし米DIGIDAYによると、広告主やエージェンシーのあいだでは、改善はまだ不十分という見方も多いようだ。一方、国内では「プロダクトの名称変更に戸惑っている広告主やエージェンシーは少なくないが、当社のメディアレップ事業部と契約しているパートナーエージェンシーに限っては、体系的なトレーニングや業務効率化により入札やレポート業務を改善している」と若松氏は語る。
「元Googleの有馬誠氏(現:楽天株式会社 副社長執行役員CRO)が、『購買データに基づかない全てのマーケティングは無駄である』と主張するように、やはりターゲティングに購買データを活用しているため、従来のデモグラ配信に比べると精度がまるで違う。Amazon広告、なかでもAmazon DSPは今後確実にスケールするだろう」。
Written by Kan Murakami