新型コロナウイルスのパンデミックのなかで人材採用はほぼオンラインへと移行し、採用の審査や決定を補助するために人口知能(AI)を採り入れる企業が増えている。だがそれは、近いうちにロボットが面接を行うようになる、という意味ではない。
新型コロナウイルスのパンデミックのなかで人材採用はほぼオンラインへと移行し、採用の審査や決定を補助するために人口知能(AI)を採り入れる企業が増えている。
セージ・グループ(The Sage Group)が先頃出した調査報告書によると、企業の24%は、人材採用のためにAIを使い始めており、マネージャーの56%が今後1年のうちに自動化技術の導入を予定しているという。グローバルデータ(GlobalData)は、AIプラットフォーム市場が2019年の290億ドル(約30兆6500億円)から増加し、2024年までに520億ドル(約54兆9600億円)に達すると予測している。
だがそれは、近いうちにロボットが面接を行うようになる、という意味ではない。
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採用プロセスをより効率的に
イスラエルのテルアビブに本拠を置くバーチャル求人プラットフォーム、マイインタビュー(myInterview)の共同創設者で最高経営責任者(CEO)、ベンジュ・ギルマン氏は、採用に関するAIの側面は単に、人事担当者のために採用プロセスをより効率的にする方法だと話す。AIの目的は、人事担当者に取って代わることではなく、そのプロセスを合理化して、よりクリエイティブで専門性を要するタスクに時間を充てることにある。
「官公庁、小売、銀行、金融、それぞれに共通しているのは、インバウンドリクルーティングを行っていて、多くの問い合わせが寄せられているということだ。つまり、ヘッドハンティングではなく、ソフトウェアが活躍し始めているということだ」と、セールスフォース(Salesforce)からマクドナルド(McDonald’s)まで幅広い企業と取り引きをしているギルマン氏はいう。「これは日常の日々の大半への投資だ」。
マイインタビューのサービスの仕組みはこうだ。まずソフトウェアが、雇用主からの質問を求職者に尋ね、追加の経歴情報とともに求職者の動画を表示する。ソフトウェアはアルゴリズムを用いて、検索、キーワード、最良の結果などの原則を使用して、適切な求職者と適切な雇用主をマッチングさせる。こうした動画は社内で共有される。
AI技術が人材採用を変えた
人材採用プロセスにテクノロジーを採り入れているもうひとつの企業に、フロリダ州タンパを拠点とするビジネスプロセス・アウトソーシング企業のサイクス・エンタープライゼス(Sykes Enterprises)がある。同社は、メディアや金融、ヘルスケアなどのセクターにチームやシステム、テクノロジーを提供している。
サイクスの最高マーケティングおよび戦略責任者で、『インテリジェント・オートメーション:ハイパーオートメーションの世界へようこそ(Intelligent Automation: Welcome to the World of Hyperautomation)』の共同執筆者、イアン・バーキン氏は、AIは人材の特定と採用を変えたと話す。「我々の仕事は、地球上のあらゆる場所で人材を見つけ、その人材を評価して、クライアントが必要としているスキルにマッチした人材を育成し、教育し、維持することだ」と、バーキン氏はいう。サイクスはテクノロジーを用いて、将来の従業員の言語能力を評価したり、候補者の態度がクライアントに合っているかどうかを判断したりするなどの人事機能を実行している。
テクノロジーは単純に、かつて採用プロセスのアナログ機能であったものを効率化するだけだとバーキン氏は付け加える。「自動化は、車輪や蒸気機関であれ、コンピューティング技術やアルゴリズムであれ、常に我々がより多くのことできるようにしてきたツールだ」とバーキン氏は述べる。
「これは美しいイノベーション」
ニューヨークとテルアビブで、ウォルマート(Walmart)やコカコーラ(Coca-Cola)のようなブランドや、オグルヴィ(Ogilvy)やハバス(Havas)などのエージェンシー向けにインタラクティブな体験を制作しているエコ・スタジオ(Eko Studio)も、パンデミックのさなかにバーチャルな採用動画を使い始めた多くの企業のひとつだ。人事担当バイスプレジデントのナタリア・ハリス氏は、こうした採用動画を、全員がリモートで仕事をしていても、チームを成長させるための「欠かせないツール」と呼んでいる。
テクノロジーによって従業員は、エコについて、そのリーダーシップやチームについて、ミッションや価値について、誰とも直接会うことなく、快適でパーソナライズ化されていると感じる方法で学ぶことができる。さらに、新しい従業員への研修を大幅にスピードアップし、より効率的にできるとハリス氏はいう。動画の導入により、入社後30日の調査で、会社のことや仕事の中身の理解度が80%上昇したことがわかっている。マネージャーたちは、エンゲージメントや生産性が向上し、新人研修の時間が半分になったと報告している。
今回のパンデミックは、人事部門がすでに取り入れ始めていたプロセスを強化したに過ぎない。オラクル(Oracle)とフューチャー・ワークプレイス(Future Workplace)による2019年からの調査で、インタビューを受けた8000人の人事担当者の半数が、仕事でAIの何らかの側面を使用していると答えたことが明らかとなっており、この割合は前年比32%増となった。
「これは美しいイノベーションだ。美しいイノベーションは、想定外のときに生まれテストされることが多い。我々にとっては、『受け入れられている』『成功するために必要なリソースを与えられている』と従業員に感じさせることが重要だが、どうやってZoomでそれを実現するのか? 新型コロナウイルスの影響で我々はクリエイティブにならざるを得なかった」と、ハリス氏は語る。
バーチャル採用のデメリット
バンガード(Vanguard)やレイン・ブライアント(Lane Bryant)などをクライアントに持つニューヨークのメディアプランニング・バイイングエージェンシー、ザ・メディア・キッチン(The Media Kitchen)のCEO、バリー・ローエンタール氏は、パンデミックの影響で在宅ワークポリシーを導入して以来、同社は何人かの新しい「シェフ(同社のスタッフの呼称)」を迎え入れなければならなかったが、ZoomやGoogleハングアウト(Google Hangouts)などのコラボレーションテクノロジーがこのプロセスに役立ったと指摘している。
当然のことながら、バーチャル採用にはいくつかのデメリットがある。「最大の課題は、直接会えないときに候補者を知ることだ」と、ローエンタール氏はいう。
面接プロセスのいくつかの要素は、間違いなく、背景にヤシの木が映し出されるなど、テクノロジーによって作り出されている。
ローエンタール氏は、求職者をバーチャル背景で判断しないよう社員に促していると言い、同時に、そこからわかることもあると指摘している。「求職者が自分のバーチャルなプレゼンテーションについて考えることは重要だ」とローエンタール氏は述べ、「私たちが求職者をどう見るかということは、クライアントが求職者をどう見るかということであり、クライアントがどう考えるかということは、たとえ自宅で仕事をしていても重要なことだ」と付け加えた。
[原文:Covid ‘forced us to be creative’: How AI is being used to recruit and onboard talent]
TONY CASE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)