米国の広告エージェンシーは、長期期間に渡って、従業員たちをリモート勤務させる最終判断を下す前に、自宅勤務における問題を見極めようとしている。ホライゾン(Horizon)、ハバス(Havas)、ドーナー(Doner)、グループエム(GroupM)といったエージェンシーの動向を追った。
ホライゾン(Horizon)が抱える300人のダイレクト・マーケティング部門、ホライゾン・ネクスト(Horizon Next)は、COVID-19の世界規模での大規模感染を受けて、2日間の自宅勤務を試験的に行おうとしている。
「しばらくのあいだ、世界中で企業はリモート勤務を増やし、(コロナウイルスの)拡大を阻止する助けとなるために、オフィス内の人口密度を減らそうとするだろう」と、eメールで語ったのはホライズンの最高マーケティング責任者であるスティーブン・ホール氏だ。ホライズンは、Microsoft Teams(マイクロソフト・チームズ)やZoom(ズーム)といったデジタルプロダクトを利用して従業員やクライアントと遠隔で連絡を取っている。ホール氏は「今回の体験を分析して、必要に応じて再評価と修正を行う」と、自宅勤務の試験運用について語った。
長期期間に渡って、従業員たちをリモート勤務させる最終判断を下す前に、自宅勤務における問題を見極めようとしている広告エージェンシーはホライズンだけではない。ハバス(Havas)、ドーナー(Doner)、グループエム(GroupM)といったほかのエージェンシーたちも同様のテストを行っている。ハバスは北米従業員約4000人全員に対して週のうち1日を使ってリモートでの勤務を義務付けた(どの日かは明かされなかった)。ドーナーは従業員375人全員に対し、月曜日にリモート勤務を命じた。グループエムも木曜日に試験的に遠隔勤務を行う。
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まずはテストで様子見
テストであっても、遠隔勤務体制に移るにあたり、エージェンシーたちは従業員たちに以下の準備が整っている状態を確保しようとしている。VPNにログオンすることでエージェンシーのネットワークへの接続。従業員たちの適切なビデオソフトウェアのダウンロード。チャットサービスが使える状態(Slack[スラック]を使うところもあれば、Microsoft Teams、G Chat[ジーチャット]を使うところもある)。ファイルのシェアを簡単にできる状態。オフィスの外でも完全に勤務ができる一般的な状態、だ。エージェンシーの同僚もしくはクライアントとのバーチャルミーティングはZoomを使って計画されている。通常の業務にリモート体制がどのような影響を与えるかはいまだ不明瞭だ。完全にリモート勤務に移行する前にテストとして運用しているエージェンシーがいるのはそのためだ。
「ビジネスの一貫性、そして我々のシステムとツールが社員の遠隔勤務においてどのような性能を見せるか、に関するテストを通して、詳細を決めて行くことができるだろう。ほとんどの企業が自分たちのビジネスにとっての最適なモデルは何かを週単位で評価している。状況が変わるペースが早いので、綿密にモニタリングする必要がある。地域、国、そして世界規模での逆境に対応するにおいて、企業は非常に素早くある必要がある」と、ハバス・ヘルス・アンド・ユー(Havas Health & You)の最高マーケティング責任者であるメーガン・ロコシュ氏は、eメールで回答した。
すぐに遠隔勤務に移行するのではなく、テストをまず行うことで、従業員のあいだでのパニックを避けようとしていると、ドーナーのプレジデントであるクレイグ・コンラッド氏は述べる。「我々全員にとって、これは未開の地であり、前例のない状況となっていることは明らかだ」と、コンラッド氏は言う。月曜日に対面で予定されていたミーティングはZoomのリンクを使ってスケジュールが再設定されたと、彼は言う。
完全リモートへ移行した場合
なかにはテストを行わずに遠隔勤務に移行するエージェンシーたちもいる。ブルックリンを拠点とするクリティブ・エージェンシーのマスタシュ(Mustache)はすぐに2週間の遠隔勤務へと80人の従業員全員を移行させた一例だ。マシュタシュのCEOであるジョン・リモット氏は、遠隔勤務における従業員の成果をモニタリングすることに関しては心配はしていないようだ。それぞれのプロジェクトに関して、バーチャルでのミーティングをそれぞれの部門やチームと計画している。しかし、もしもこの状態が長期に延長された場合、スタッフたちが切り離された感覚を持つことによる従業員の士気への影響がひとつの懸念として上がるだろうと、リモット氏は言う。それが現実となった場合、対抗策を考え、社内のカルチャーを遠隔でも感じられるように試みるだろう。その状態で何をするのかはまだ明確ではない。
エージェンシーたちが完全にリモート勤務状態に移行するのか、するとしたらいつなのか、は不明確だ。その決断はエージェンシーやホールディング企業によって異なるだろう。すでにリモートへと移行しているかどうかに関係なく、コロナウイルスの拡散を防ぐためのリモート体制を通じて、エージェンシーのリモート勤務の準備が整うはずだと、エグゼクティブたちは考えている。エージェンシーは最終的にはリモート勤務により寛大になるだろうという者たちもいる。また今回の遠隔勤務の最終的な影響がどうなるかを判断するのは、時期尚早だと考える者もいる。
「この事態は今後のエージェンシーの勤務形態を変えるだろう。(リモート勤務は)CO2排出量も少ない。生産性を我々は分析するだろう。私はよりフレキシブルかつ生産性のあるモデルを、今後のモデルとして捉えている」と、ホール氏は言う。
ロコシュ氏は、「コロナウイルスが長期的に勤務形態に与える影響はまだ判断できない。しかし、これまでリモート勤務に加えて、ビデオ会議や大量の遠隔ファイルアクセス、バーチャルミーティング、そしてプロジェクトコラボレーションツールの導入を検討していなかった企業はいま、必要に迫られて導入していることはほぼ確実だ。前例のないこの状況が生み出す多くの変化のひとつとなるだろう」と語った。
「巨大な社会実験のようだ」
リモート形態を管理するなかで、主に技術的な面での悩みの種が生まれ、それに対処することをエージェンシーのリーダーたちは予期している。フォートナイトコレクティブ(Fortnight Collective)のファウンダーであるアンディ・ネイサン氏は、本格的なリモート体制に移行した場合、クライアントへの売り込みプレゼンテーションや通常業務を技術面の故障が中断してしまうという状況を想定している。「対面の方があらゆる点で優れている。テーブルの向こうに座っているクライアントの顔を眺めて、彼らがワクワクしているのが何で、何が懸念なのかを観察する(ことは役にたつ)」。とは言っても、リモート勤務に問題があったとしても、フォートナイト・コレクティブは従業員とクライアントの安全のためにリモートへと移行する準備ができているようだ。
3QのCEOであるデーヴィッド・ロッドニッツキー氏は「自宅での勤務は、巨大な社会実験のようだ」と述べる。「人々が効率的でいられるかどうかを我々は知ることができるだろう」。自宅勤務には向いていない人もいる、とロッドニッツキー氏は警告する。「内向的な人々にとっては静かな場所でひとりで仕事ができ、邪魔が入らないことは非常にポジティブだ。リアルタイムで人々と会話をしたいコラボレーション的な人々にとっては悪影響がある」。
Kristina Monllos(原文 / 訳:塚本 紺)