- エージェンシーは特定プラットフォームに依存しない、短尺動画制作に急速にシフト。予算とリソースの制約から、複数のプラットフォームで利用できるコンテンツ制作が不可欠なため。
- 短尺動画はプラットフォーム横断的に拡散しやすいため、一つの優れたコンテンツを複数のプラットフォームで共有することで効果的なマーケティングが可能になる。
- とはいえ、各プラットフォームの個性や強みを理解し、それに合わせた短尺動画制作が必要。常に新しいコンテンツを制作し、プラットフォームのアップデートに合わせて進化することが求められる。
動画への軸足移動が本格化している。最近の動画シフトが過去のそれと異なるのは、エージェンシーが特定のプラットフォームに特化したコンテンツではなく、短尺動画の制作技術習得を迫られている点だ。
もちろん、エージェンシーにはもはやプラットフォームに関する専門知識が不要だというわけではない。アプリにはそれぞれ独自の主張、傾向、文化がある。
しかし、厳しい予算と限られたリソースという制約がある以上、ひとつのプラットフォームの動画コンテンツをほかのものより優遇する余裕はどのエージェンシーにもない。より戦略的なアプローチを採用し、いくつものプラットフォームでクライアントの多様な要求に答えられるコンテンツを作成しなければならない。興味深いことに、今日のほとんどのプラットフォームには、TikTokのおかげで「短尺動画」という共通項が存在している。たとえば、YouTubeショート、メタのリール、Snapchatの「スポットライト(Spotlight)」など、各プラットフォームが独自の短尺動画投稿機能を携えて、火付け役のTikTokに続いている。
世界的な経営コンサルティング企業のエリクサー(Elixirr)でパートナーの肩書きを持つイリヤ・リブチン氏は、「ナレッジの空白があるのは、プラットフォームそのものについてではなく、むしろ包括的なマーケティングプランをプラットフォーム横断的に展開するノウハウだ」と指摘する。
だからこそエージェンシーは、マーケティング投資を複数のプラットフォームに分散させ、かつコストを上回る利益を上げるための手立てとして、短尺動画特有の知識や技術を求めている。
短尺動画の知識や技術をどう調達するか
ザ・ソーシャルスタンダード(The Social Standard)の創業者で最高経営責任者(CEO)のジェス・フィリップス氏は、すでにアドビ(Adobe)、ゼンデスク(Zendesk)、ロスプルーフ(LossProof)などのブランドにクリエイターを派遣している。いずれもプラットフォーム横断的な短尺動画の制作を得意とする人材だ。また、エージェンシーのマッキャン(McCann)とコンステレーションブランズ(Constellation Brands)は、この種のノウハウに対する需要の高まりに対応するため、それぞれ自社運営のコンテンツスタジオを新設した。
グッドピープス(Good Peeps)の創業者でCEOのシュレイ・ジョシ氏はこう話す。「短尺動画のチャネル(TikTok、インスタグラムリール、YouTubeショートなど)が大成功しているのは、我々がプラットフォーム別に対応するモデルから移行しているからだ。このモデルでは、インスタグラムやYouTubeなど、各種のプラットフォームに参入するだけで先行者利益を得ることができたが、いまでは何かしらの差別化要因が不可欠だ」。
従来メディア(たとえば、テレビ、OOH、デジタル広告など)では、それぞれのフォーマットを相互に適用するのは難しく、マーケターは業界のベストプラクティスを頼りにキャンペーンの成功をめざした。一方、短尺動画はいまやほとんどのプラットフォームで再現できるため、こうした古いやり方はもはや通用しない。たとえば、TikTokである動画を見たとする。十中八九、その1週間後にはインスタグラムリールやYouTubeショートで同じ動画を目にしていることだろう。[続きを読む]
- エージェンシーは特定プラットフォームに依存しない、短尺動画制作に急速にシフト。予算とリソースの制約から、複数のプラットフォームで利用できるコンテンツ制作が不可欠なため。
- 短尺動画はプラットフォーム横断的に拡散しやすいため、一つの優れたコンテンツを複数のプラットフォームで共有することで効果的なマーケティングが可能になる。
- とはいえ、各プラットフォームの個性や強みを理解し、それに合わせた短尺動画制作が必要。常に新しいコンテンツを制作し、プラットフォームのアップデートに合わせて進化することが求められる。
動画への軸足移動が本格化している。最近の動画シフトが過去のそれと異なるのは、エージェンシーが特定のプラットフォームに特化したコンテンツではなく、短尺動画の制作技術習得を迫られている点だ。
もちろん、エージェンシーにはもはやプラットフォームに関する専門知識が不要だというわけではない。アプリにはそれぞれ独自の主張、傾向、文化がある。
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しかし、厳しい予算と限られたリソースという制約がある以上、ひとつのプラットフォームの動画コンテンツをほかのものより優遇する余裕はどのエージェンシーにもない。より戦略的なアプローチを採用し、いくつものプラットフォームでクライアントの多様な要求に答えられるコンテンツを作成しなければならない。興味深いことに、今日のほとんどのプラットフォームには、TikTokのおかげで「短尺動画」という共通項が存在している。たとえば、YouTubeショート、メタのリール、Snapchatの「スポットライト(Spotlight)」など、各プラットフォームが独自の短尺動画投稿機能を携えて、火付け役のTikTokに続いている。
世界的な経営コンサルティング企業のエリクサー(Elixirr)でパートナーの肩書きを持つイリヤ・リブチン氏は、「ナレッジの空白があるのは、プラットフォームそのものについてではなく、むしろ包括的なマーケティングプランをプラットフォーム横断的に展開するノウハウだ」と指摘する。
だからこそエージェンシーは、マーケティング投資を複数のプラットフォームに分散させ、かつコストを上回る利益を上げるための手立てとして、短尺動画特有の知識や技術を求めている。
短尺動画の知識や技術をどう調達するか
ザ・ソーシャルスタンダード(The Social Standard)の創業者で最高経営責任者(CEO)のジェス・フィリップス氏は、すでにアドビ(Adobe)、ゼンデスク(Zendesk)、ロスプルーフ(LossProof)などのブランドにクリエイターを派遣している。いずれもプラットフォーム横断的な短尺動画の制作を得意とする人材だ。また、エージェンシーのマッキャン(McCann)とコンステレーションブランズ(Constellation Brands)は、この種のノウハウに対する需要の高まりに対応するため、それぞれ自社運営のコンテンツスタジオを新設した。
グッドピープス(Good Peeps)の創業者でCEOのシュレイ・ジョシ氏はこう話す。「短尺動画のチャネル(TikTok、インスタグラムリール、YouTubeショートなど)が大成功しているのは、我々がプラットフォーム別に対応するモデルから移行しているからだ。このモデルでは、インスタグラムやYouTubeなど、各種のプラットフォームに参入するだけで先行者利益を得ることができたが、いまでは何かしらの差別化要因が不可欠だ」。
従来メディア(たとえば、テレビ、OOH、デジタル広告など)では、それぞれのフォーマットを相互に適用するのは難しく、マーケターは業界のベストプラクティスを頼りにキャンペーンの成功をめざした。一方、短尺動画はいまやほとんどのプラットフォームで再現できるため、こうした古いやり方はもはや通用しない。たとえば、TikTokである動画を見たとする。十中八九、その1週間後にはインスタグラムリールやYouTubeショートで同じ動画を目にしていることだろう。
「優良なコンテンツは自然に拡散する」とジョシ氏は話す。「多くのマーケターは、TikTokやYouTubeショートやインスタグラムリールのアルゴリズムを解明できるかのように振る舞いたがる。しかし、コンテンツの拡散に成功しているブランドやクリエイターは、TikTokとショートとリールのコンテンツを個別に作成しているわけではない。短尺動画というひとつのカテゴリーに絞り、その規模を3倍にして、後は自然な拡散に任せるだけだ」。
プラットフォームごとに異なる個性や強み
結局、マーケターは「物語を語る」というその本分に回帰する。これまでと違うのは、各プラットフォームが互いに共鳴しあうようなやり方で動画を編集する必要があることだ。しかし、各プラットフォームの個性や強みを活かしながらこれを行うことは容易でなく、ブランドはこの作業でしばしば困難に直面する。
たとえばTikTokは、人を夢中にさせる、短尺(多くは10秒から30秒)かつクリエイティブな動画で知られ、そのときもっとも人気のあるサウンド、スタイル、テーマなどをふんだんに使っている。TikTokの醍醐味は、フルスクリーンでサウンド付きの没入感に溢れるエクスペリエンスにほかならない。一方、YouTubeショートには、情報提供を目的とする動画やチュートリアル形式の動画が多い。これはおそらく、長尺動画につながる「紹介版」としての視聴を想定しているからだろう。また、スプリットスクリーンを多用し、尺の長さは最長60秒だ。エレヴェイトニューメディア(Elev8 New Media)でソーシャルメディアとコンテンツの責任者を務めるアンバー・ヴァーテテー氏は、「比較的長めのショット、ゆっくりめのペースを用いて、明確に伝わることを優先している」と説明する。対照的に、インスタグラムリールは長さにして30秒未満、インスタグラムに特徴的な美的センスを活かして、人々の注目を集めている。
R/GAのアソシエイトストラテジーディレクターであるアレクシス・デブルナー氏は、「常時稼働という動画コンテンツ戦略を取ることは、一部のブランドにとっては大きな負担となる」と指摘し、こう続けた。「特にTikTokの台頭以降、投稿前に大規模な撮影やキャンペーンを計画せずとも、その場で臨機応変にコンテンツを作成できる人材を社内のソーシャル部門に常駐させることで、SNSのリーチをもっとも有機的に伸ばせるようになった」。結局のところ、持てるリソースを無駄なく、最大限有効に活用するという考え方に立ち戻る。
要するに、写真にキャプションとハッシュタグをいくつか付けて投稿すれば、それで販売件数がいくつか増えるという時代は終わったということだ。消費者はもはやそのような戦略に乗っては来ない。むしろ、マーケターは動画(この場合は短尺動画)でブランドストーリーを語る技術の学び直しを余儀なくされている。しかも、人々の注目を鷲づかみにしつつ、「いかにも広告」とは見えない表現でなければ、プラットフォームからの「退場」を迫られかねない。
既成概念にとらわれない思考を
「残響室のようなSNS空間で製品名やメッセージを叫び、あとはアルゴリズムやターゲット広告が何とかしてくれるだろうと期待しても無駄だ」と、デブルナー氏は話す。「訴求対象の消費者やコミュニティに真の価値を力強く提案するには、従来の戦略やノウハウの練り直しが必要となる」。
デブルナー氏の論点は、短尺動画の台頭で、エージェンシーやブランドは既成概念にとらわれない思考を迫られているということだ。いみじくも、「広告ではなく、TikTok動画を作ろう」というTikTokのキャッチフレーズがこの点をよく表現している。手短に言うなら、プラットフォームにネイティブな動画コンテンツを作れということだ。消費者は広告を見せられることにうんざりしている。
メカニズム(Mekanism)のパートナーでチーフソーシャルオフィサーのブレンダン・ガーン氏は、「iPhoneで撮影されるコンテンツはかつてないほど増えている」と述べている。「より親しみやすく、作り込みすぎず、スピード重視。親指が止まるようなコンテンツが勝者だ。さらに、クリエイターやコンテンツ寄稿者も歓迎される。すでにブランドやエージェンシーはクリエイターと継続的に協力しているし、『最高TikTok責任者』といった肩書きやコラボレーションも目にする。TikTokネイティブの優秀なクリエイターを加えた布陣は、もはや単なるインフルエンサーマーケティングではない」。
[原文:Agencies move on from creating content for specific platforms to focus on short-form video]
Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)