男女間の賃金格差は現実に存在し、広告業界ではさらに顕著だ。エージェンシー各社はそれを是正するため、米国では今年4月4日の「イコール・ペイ・デイ」に合わせて、さまざまな取り組みを実施している。
男女間の賃金格差は現実に存在し、広告業界ではさらに顕著だ。
エージェンシー各社はそれを是正するため、米国では今年4月4日の「イコール・ペイ・デイ」に合わせて、さまざまな取り組みを実施。イコール・ペイ・デイとは、「男性の1年より余計に働いて、女性が男性1年分の賃金と同額を手にする日」を示す、国際的な啓発キャンペーンだ。
多角的な賃金監査
エージェンシーのドナー(Doner)は、社内の賃金監査を開始した。4月4日には、デトロイト、クリーブランド、ロサンゼルス、ロンドンの各支社で、全従業員の一斉退社を実施。現地時間午後3時24分に、従業員約500人全員がそれぞれのオフィスを去った。
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午後3時24分という時間には、特別な意味が込められている。9時から5時までの労働時間のうち、始業から80%に達する時間がちょうど午後3時24分なのだ。ドナーの意図は、女性の報酬は男性の報酬の80%であり、ほとんどの女性が正当な報酬を得ていないので、この時間に退社して当然、というものだ。
ドナーはまた、賃金監査を実施するための情報とリソースを公開するマイクロサイト「www.Exit324.com」も開設した。Exit324の公共広告やソーシャルコンテンツもあり、これらはドナーの各ソーシャルチャンネルで発信される。
広告業界は以前よりも多様性へのリップサービスを増やしているが、エージェンシーで実際に働く女性の現実は、相変わらず厳しい。たとえば、調査会社フォーサイト・ファクトリー(Foresight Factory)が2016年に実施した調査では、メディア、広告、クリエイティブに携わる女性のうち、自分の報酬が同僚の男性と同じだと考える女性はわずか23%。一方、これらの業種の男性で、報酬が女性の同僚と等しくないと考える割合はたったの12%だった。
著名人のボット作成
業界最大手インターパブリック・グループ(Inter Public Group)傘下のクリエィティブエージェンシーR/GAは、企業やブランドと提携して、カリスマ女性起業家シンディ・ギャロップ氏のFacebookメッセンジャー用ボットを開発した。提携先は、キャリアサイト「ザ・ミューズ(The Muse)」、キャリアウーマンのコミュニティ「レイディーズ・ゲット・ペイド(Ladies Get Paid)」、チャットボット開発者グループ「reply.ai(リプライ)」、給与調査会社ペイスケール(PayScale)。このボットの目的は、女性がギャロップ氏のボットを相手に交渉を練習できるようにすることで、交渉力の格差を減らすことだ。
このボットを使いたい場合は、Facebookにログインして、「Ask Cindy Gallop(シンディ・ギャロップ氏に質問する)」のフレーズで検索。メッセンジャーで最初に質問されるユーザーの基本情報(役職、勤務年数、勤務地など)を答えると、ボットが返信し、その分野の平均報酬を上回っているか、下回っているかを教えてくれる。
それが済んだら、ボットと交渉術の練習もできる。ギャロップ氏のボットはさらに、励ます言葉もかけてくれる。たとえば、「ストレートの白人男性がやりそうなことを実行しなさい」や、「私ならどうするか先刻承知でしょう。しっかり準備し、自分の存在理由を示して、報酬を得る。しかもたくさん」といった内容だ。
このボットは「40%が事実、60%が確信、そして100%が凄腕のギャロップ氏だ」と、R/GAのブラッド・ジェイコブソン氏は語る、同氏は上級エクスペリエンス・ストラテジストで、このボットの開発者でもある。
「我々が非常に重要だと感じたのは、性別による賃金格差に取り組むこと。それも、問題を認識するだけでなく、認識に基づいて行動を起こすのに本当に役立つものを作り出すことだ」と、R/GAのシニア・コピーライター、ケイト・カーター氏は語る。4月4日にローンチされたボットは、3週間がかりで開発され、ギャロップ氏のツイートやトーク、カーター氏との電話越しに行った会話に基づいている。
風刺動画を展開
米国以外の国では、欧州の独立系エージェンシー、モーティアーブリゲード(mortierbrigade)も、イコール・ペイ・デイに合わせ、「イコール・ペイ・デイ・ヨーロッパ(Equal Pay Day Europe)」と提携して動画を制作している。内容は、9歳の少女が、報道対策アドバイザーとしてドナルド・トランプ米大統領のスピーチに協力するというものだ。
この動画は、トランプ大統領のスピーチの文法が「小学6年生レベルをやや下回る」という調査結果にヒントを得ている。賃金格差の問題に取り組むこの動画はまた、まさに9歳という年齢が、女性が生涯を通じて男性並みの収入を得るために努力を開始すべき時期であることも示唆している。
Tanya Dua(原文 / 訳:ガリレオ)