有名映画プロデューサー、ハーべイ・ワインスタイン氏が、長年にわたり女性たちにハラスメントと性的暴行を計画的に行っていたというセンセーショナルな暴露を受けて、珍しくエンターテインメント業界を超えて影響が広がっている。エージェンシー業界にも、そんなハーべイ・ワインスタイン氏のような人間が、たくさん存在するようだ。
大手エージェンシー持株会社が最近開催した社内ディスカッションでのことだ。業界のダイバーシティに関するこの話し合いの最初で、女性たちは、仕事中に自分が受けたセクシャルハラスメントについて打ち明けることを決心した。ひとりまたひとりと、「私も(me too)」と発言していった。すると、部屋にいた幹部のひとりが立ち上がり、「打ち明けてくれてありがとう。どれも、我々が許容できるものではないことを完全に明確にしておきたい」と語った。
「本当に信じられなかった」と、出席していた女性は語った。「女性たちが名乗りを上げて、ずっと以前からみんなが経験していたことを語る。そして、経営陣がそうした告発を求め、これは問題だと明言する。こうしたことは前代未聞なのではないかという思いだった」。
これは、ハーべイ・ワインスタイン効果と呼べるかもしれない。
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ハーべイ・ワインスタイン効果
有名な映画プロデューサーであるワインスタイン氏が、長年にわたり女性たちにハラスメントと性的暴行を計画的に行っていたというセンセーショナルな暴露を受けて、珍しくエンターテインメント業界を超えて影響が広がっている。メディアからホスピタリティまで、さまざまな業界で人々が名乗り出て、それぞれの体験を語っており、一部では、加害者が解雇されるケースも出てきている。
GQは先日、ライターのルーパート・マイヤーズ氏を解雇した。Twitterでセクシャルハラスメントを告発されたのを受けてのことだ。その何日か前には、「Shitty Media Men(メディアのゲスな男たち)」というリストがメディア界隈に流布した。アニメ業界では、女性200人が声を上げて自らの体験を語った。
そして、エージェンシー業界にも、そんなハーべイ・ワインスタイン氏のような人間が、たくさん存在するようだ。
エージェンシー業界への影響
「この1週間ほど、私のFacebookは爆発している」と、別の女性幹部は語る。「これまでの職場にハラスメントがあった、あるいは自分も体験したということに、広告業界内の人々が同意している。誰のことなのかは、それらのエージェンシーで働いた人なら誰もが知っている」と、この幹部は語った。
米DIGIDAYがこの記事のために複数の女性に話を聞いたところ、女性たちは長年にわたり、それぞれのやり方でハラスメントの加害者を「暴露」してきたと語った。業界のある女性幹部は、「同僚や友人と話をするので、エージェンシー内部やその周辺の話は聞いている」と語る。「最低な場面をパーティーで目にすれば、『ちょっと、彼は既婚で、彼女はインターンでしょ?』となる」と、この幹部は語る。そんなことがあれば、この人物を避けるように、友人たちに警告するという。
「ソーシャルメディアが私たちの声を増幅した」と、別の幹部は語る。「いま、私たちはメガホンを手にしている。ハラスメントをしたことがある男性は、はるかに危険なことになっている。だって、これまでもパーティーではささやかれていて、声を大にして言われていなかっただけなのだから」。
告発する女性たちの葛藤
より公然と語っている人たちもいる。ザ・マーケティング・グループ(The Marketing Group)でパフォーマンスメディアのグローバル最高責任者を務めるメアリー・キーン=ドーソン氏は、業界内でのセクシャルハラスメント体験を「ドラム(The Drum)」に書いている。また、クリエイティブ畑のレズリー・シンガー氏は、上司との過去の体験の詳細をLinkedIn(リンクトイン)に綴っている。
エージェンシーで働く複数の従業員は、上司や経営陣から、ハラスメントがあったら言ってくるように、公然と呼びかけられていると語ってくれた。エージェンシーは、解決しなければならない問題だということはわかっており、Facebookで暴露されるというリスクを冒すわけにはいかないのだ。前述のエージェンシーのイベントに出席していた女性は、「どの持株会社やエージェンシーのCEOであれ、事実かどうかに関係なく、たとえ気配であっても、その人を雇っておく余裕はない」と語った。
ただし、業界が長いある女性は、ハーベイ・ワインスタイン効果が大きな変化につながるとは思わないと語った。「ひどい目に遭った人や、暴力を受けた人が、公表してみんなに話したいという部分は必ずあると思う。でも、『人の結婚、キャリア、子供、生活を、私は台無しにしたいのだろうか』という罪悪感や、『この街でもう一度働きたいと、いつかは思うのではないだろうか』という恐怖が潜在的にあり、行動を起こそうという考えが押し込められることが多い」と、この女性は語った。
業界の活動家であるシンディ・ギャロップ氏は、業界の女性たちに対して、セクハラ加害者や、見て見ぬふりをしたエージェンシーの名前を挙げて思い知らせるように呼びかけている。たくさんのメールが届いているとギャロップ氏は言う。同氏は、Facebookの公開投稿で以下のように訴えている。「私の受信箱から明らかなのは、白人男性が働く広告業界と、そうではない我々が働く広告業界とが存在するということだ。それはまるで昼と夜だ。白人男性の広告業界が昼で、その他のみんなの広告業界が夜。奈落のように暗い夜だ。どうか、公に声を上げて、今回限りで終わりにしてほしい。cindy@ifwerantheworld.comまでメールしてほしい」。しかし、声を上げようという人はわずかしかいないという。
「ハリウッドほどひどくはない」
長年にわたって元同僚からハラスメントを受けて退社したと主張するある従業員は、「実際には、公表すればいまも、余計なことを、と見られることになる」と語る。「いちばんの解決策は、人事課やCEOに訴えて、きちんとした対処を期待することだ。Facebookや『Shitty Media Men』のようなリストに書いても効果はないし、そもそも正しいことではない」とこの人物は語った。
業界のあるベテランは、「私たちはいままで、広告業界の脂ぎった者たちに長いこと服従しきってきた」と語る。「たくさんの業界を長いあいだにわたって見渡しても、これまでに本当に名乗り出て話をした人はほとんどいない。今回のような大騒ぎは、何年もさかのぼってもひと握りしかない。我々の業界に限れば、1件か2件だろう」。
別の女性幹部は、ワインスタイン氏の暴露と、その後の、女性たちが自分のセクシャルハラスメント体験を告白するソーシャルメディアの「#metoo」キャンペーンによって、記憶が蘇り、元上司にわいせつなコメントをされていたと思い当たったと語る。「議論が高まったことで、これはあのときのことなのだと、あれはハラスメントだったのだと気がついた。当時は、あまりに世間知らずで、そのように理解することができなかった」と、この幹部は語った。
「今回の一件は今後、間違いなく影響力をもつ」と、ある業界大手のCEOは語った。エージェンシーの人間、あるいは、少数だがクライアントの人間にセクシャルハラスメントを受けているという情報が、従業員から入ってきているという。「ただ、事実として、この業界はハリウッドほどひどくはない」とも、このCEOは語った。
男性の参加が今後のカギ
一部の女性たちは、広く知れわたったグスタボ・マルティネス氏(ジェイ・ウォルター・トンプソン[JWT]の元グローバルCEO)の件を指摘した。マルティネス氏は2016年にセクシャルハラスメントを告発され、その地位を追われた。ただ、仕事は続けており、この件は裁判になる予定だ。
「あの一件が理由となって、どの業界も内側に目を向けていた」と、あるエージェンシーの女性幹部は語った。この幹部によると、これまで起きていたことに気付いて「憤慨」している男性が増えており、「そのような人たちが変化に加わっていくだろう」という。「業界が変化を求めているところに、今回の一件があった。結果として、人々は名乗り出るようになり、エージェンシーに隠し立てをさせないだろう」。
Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)