カレッジスタイルの交換研修プログラムは、グローバルなエージェンシーの世界でちょっとしたブームになっている。こうしたプログラムはエージェンシースタッフにグローバル産業における国際経験を積ませることを建前としているが、同時に、スタッフの離職を防ぐための新たな手段としての役割も果たしているのだ。
2017年1月、マシュー・ウィット氏はエージェンシーのマクサス(Maxus)が中国広州に構えるオフィスで2週間を過ごした。28歳のアソシエートメディアディレクターであるウィット氏は、同オフィスでコンテンツ、サーチ、ソーシャル、そしてクライアントの各部門を担当するチームと話をしながら午後の時間を過ごし、中国市場に対する彼らのアプローチ法を学んだ。またウィット氏は、中国最大級のスマホメーカー、ファーウェイ(Huawei)のマーケティング担当幹部らとも会合をもち、モバイルアプリ「WeChat(微信)」についても学んだ。
すべてはマクサスが、自社オフィスのあるアメリカやイギリス、ドイツ、中国などの国々で行っている交換研修プログラムのおかげだ。
「この交換研修プログラムは、マクサスのグローバル環境が見られる最高の機会だ」とウィット氏は語る。「世界市場について考える力を与えてくれるプログラムだ。若いうちに世界市場を見られたおかげで、我々のビジネスの規模や、経営判断がいかに大きなものになりえるのかを理解できた」。
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ちょっとしたブーム
こうしたカレッジスタイルの交換研修プログラムは、エージェンシーの世界でちょっとしたブームになっている。BBDOは昨年、同ネットワーク傘下にある、シカゴのエナジーBBDO(Energy BBDO)、BBDOメキシコ(BBDO Mexico)、ロンドンのAMV BBDO、そしてBBDO上海(BBDO Shanghai)の4社で、13週間の海外勤務プログラムを導入した。
ピュブリシスメディアはメディアベスト|スパーク(Mediavest | Spark)とブルー449(Blue 449)、スターコム(Starcom)、ゼニス(Zenith)、パフォーミクス(Performics)の従業員に、同ネットワークがオフィスを構える国々での2~12週間の海外勤務を認めている。ハバス(Havas)も従業員交流プログラム「ハバスロフト(Havas Lofts)」を2014年から行ってきた。ハバスによると、これまでに同プログラムには、ロンドン、パリ、マドリード、デュッセルドルフ、フランクフルトなど14都市、49社のエージェンシーから110人が参加してきたという。
こうしたプログラムはエージェンシースタッフにグローバル産業における国際経験を積ませることを建前としているが、同時に、スタッフの離職を防ぐための新たな手段としての役割も果たしている。エージェンシーで働くということには、長時間労働やテック企業のような作業環境における低賃金など、否定的な側面がいくつかある。したがって、一時的にでも海外に転勤できるということは、スタッフにとってはうれしい特典なのだ。
身についた国際感覚
BBDOメキシコでアカウントディレクターを務めるアンドレス・カストロ氏は昨年夏、BBDOの「エナジー・エクスチェンジ・プログラム(Energy Exchange Program)」に参加し、3カ月間を同エージェンシーの上海オフィスで過ごした。「自分の仕事を違った目で見られるようになった」とカストロ氏は語る。「いまの私は、エージェンシーとクライアントのパートナーエージェンシーのあいだにあるコラボレーション感覚をさらに重視するようになった」。
マクサスでナショナルビデオインベストメント部門のネゴシエーターを務めるサラ・ソージアン氏も同じ意見だ。「日々クライアントの締め切りに追われて仕事をしていると、自分たちはグローバルエージェンシーであるという事実を見落としてしまいがちだ」と同氏は語る。
ソージアン氏は昨年の9月、マクサスの交換研修プログラムに参加して同社のデュッセルドルフオフィスで2週間を過ごし、ドイツのメディア状況は米国市場よりも保守的であることを学んだ。たとえばドイツでは、依然として紙媒体が力を持っている。テレビのチャンネルも少なく、その大半はニュース志向だ。そして、おそらくもっとも重要なのが、ドイツ人は超の字がつくほど時間を厳守するという点だ。
「たしか、私が現地ではじめて出席したミーティングの開始時刻は午後2時だった。全員が1時56分には集まっていたが、私が会議室に入っていったのは2時1分だった」とソージアン氏。「ドイツ人の基準では、立派な遅刻だった」。
文化の理解は難しい
海外勤務は必ずしもスムーズにいくものではない。とりわけ非英語圏への赴任を命じられた場合には、言葉の壁が障害になることもある。ソージアン氏はドイツ語学習の難しさを実感した。カストロ氏も、中国語が話せなければ現地の文化の理解は難しいということを上海への出張から学んだ。
「言葉や概念に最良の翻訳や通訳を求めても、それらが自分の想像と完全に一致することはない」と、カストロ氏は言っている。
Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)
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