広告に関する一大イベント「アドバタイジングウィークアジア」は、5月30日に開幕した。2004年に米国で開始された、このマーケティング業界の祭典は、今回の東京開催が、アジアで初の開催になる。DIGIDAY[日本版]は、30〜1日のイベントのダイジェストをお伝えする。31日のキーノートには内外に拠点を置くグローバルブランドの幹部が登壇した。
広告に関する一大イベント「アドバタイジングウィークアジア」は、5月30日に開幕した。2004年に米国で開始された、このマーケティング業界の祭典は、今回の東京開催が、アジアで初の開催になる。DIGIDAY[日本版]は、30〜1日のイベントのダイジェストをお伝えする。31日のキーノートには内外に拠点を置くグローバルブランドの幹部が登壇した。
キャンベルのソーシャル戦略
キャンベル・ソーシャル・デジタルマーケティング・グローバルディレクターのウマング・シャー氏は、顧客と関連性(レリバンシー)を保ち続ける重要性を訴えた。
かつて市場シェア5割に迫ったスマートフォンブランドが、iPhoneの登場によりユーザーの移動が始まると、閉鎖的なプラットフォームを築いたことが自らの首を締め、パニックに陥りさまざまなプロダクトを乱発。2%程度までシェアを落としたことを例に挙げた。
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利用者からの反応がさまざまなメディアを通じて届けられるようになった時代には、怖気づいてはいけない、とシャー氏は説く。ウォルマートのソーシャル担当を務めていたシャー氏は、有名誌を介したカスタマーとの議論で、ナチュラルな対応を心がけ、そのやり取りが多くのメディア騒がし、広報に役立ったと話している。
デジタル上の施策には失敗はつきもので、進んで失敗するべきとも説いた。人々はブランドをめぐるコミュニティを独自形成するようになっており、コントロールすることは難しい。オーディエンスがすべての中心になったと語った。
ヒット作を出し続ける秘訣:ディズニー
ウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオ・プレジデントのアンドリュー・ミルスタイン氏は1923年の創業から、アニメーションを牽引し、ヒット作を連発するための環境づくりを明かした。ミルスタイン氏はスタジオの運営は制作を優先するクリエイティブ・ドリブンで行われていると説明。社内には「ストーリートラスト」という異なる制作プロジェクトを横断し、作品に関する議論をする仕組みがあり、『アナと雪の女王』などヒット作の基盤になっていると語った。チームがリサーチから作品を完成させるまで4〜5年の期間がかかるという。
ディズニーは80年代に「暗黒期」と呼ばれる不作期を経験したが、89年の『リトル・マーメイド』を皮切りに90年代は『美女と野獣』『アラジン』『ライオン・キング』などヒットが相次いだ。しかし、2000年代にはCGアニメの隆盛で業界が多様化。ここでCGアニメで最先端を走るピクサーを巨額買収に踏み切った。「もちろん合併で文化が変化する部分もあったが、素晴らしいアニメーションを制作しようという意思は共通していた」。米国で11月公開予定の『モアナ(Moana)』の制作風景なども紹介し、第二の『アナ雪』を目指している。
中国の超巨大プラットフォーム:テンセント
「Wechat(微信)」や「QQ」などを運営する、テンセントのコーポレート・バイスプレジデント、デイヴィス・リン氏(TOP画像)も登壇。テンセントは1998年設立し、現在は時価総額1.6兆元(27兆円)まで膨らんでいる。サービスは「Wechat(微信)」「QQ」を基点にしながらも、とても包括的であり、ニュース配信、スマホ決済、送金、金融機関、ソーシャル、動画ストリーミング、音楽ストリーミング、電子商取引(EC)などを含んでいる。リン氏は「Facebookのようなコンテンツディストリビューションだけではない。PayPal、Netflix、プレイステーション、Spotifyなどをひとつにしたプラットフォーム」と誇る。「テンセントのプラットフォームがなければ中国では友だちができない、さまざまな活動ができない、と言っていい」と語った。月間アクティブユーザー7億3500万、銀行口座と紐付いたアカウントが3億ある。
リン氏はテンセントがこの巨大プラットフォームにより、類をみないユーザー理解をしていると話した。同社のインフィードのカルーセル、動画などの広告商品について「Facebookに似ている」と説明。同社の広告売上はモバイルを基点に急激な伸びを近年見せているという。リン氏は現在のマーケティングが想定する、認知から購買までのプロセスが長すぎるとの考えを示した。広告から同社が出資するECプラットフォームまで一気通貫したマーケティングが可能な商品を提供できるという。位置情報を活かすことで勤め先、自宅などを理解することや、O2O施策に活かせると語った。
スマホネイティブに効く動画マーケティング
モバイル動画広告プラットフォームのファイブ(Five)代表取締役の菅野圭介氏、C Channel・CEO森川亮氏、MixChannelプロデューサー福山誠氏らは若年層のファーストスクリーンはスマートフォンになっており、テレビCMだけでは届かない層「スマホネイティブ」がいると指摘している。
モバイルに最適化されたタテ型動画を配信するC Channel。森川氏は動画の最初に一番刺激的なパートを置くクリエイティブが必要になると指摘。「情報がたくさんありすぎている。10代の人たちは映画に行っても最初と最後だけ観て、その間はスマホをいじっている」。動画の長さの目安は30秒だ。「プロの作る作品はモバイルユーザーが突き放されていると感じる。カジュアルな方がいい」と指摘。広告に向くクリエイティブは、ユーザーが利益を実現しながら、認知を深めていけるハウツーものがいいという。「最初は女性の動画のCNNをつくろうと思っていた。アジアのBuzzFeedになれれば」。
MixChannelは10代の女子を握りしめているが、特徴はコンテンツをユーザーが独自制作することだ。動画がエンゲージメントを生むコツとしては「親しみやすさが大事。どのへんにもいそうなクラスのかわいい子がいい。プロっぽくなくて、自分もマネできるんじゃないかと思える内容がいい」と指摘している。モバイルで生まれ、モバイルで完結する動画プラットフォームが成長する時代だとし、MixChannelを人気者がばんばん出る仕組みにしたいと話した。
企業価値を上げることも「広告」?
LINE株式会社上級執行役員の田端信太郎氏、レオス・キャピタルワークス最高投資責任者(CIO)藤野英人氏、ライフネット生命社長岩瀬大輔氏は、広告の定義をめぐって議論。田端氏はアディダスがフィットネスアプリを買収したことを例に挙げ、企業買収も「マーケティング」に含まれるのではないかと指摘する。岩瀬氏は、投資銀行がそういう提案をしているが、買収10億円案件の代わりに広告費2億円を5年で予算をたてることも可能かもしれないとした。藤野氏は業界の垣根が曖昧な時代であり、アドサイドから企業価値を加えることができれば、広告業に新しい領域が広がると語った。
認知とるネイティブアドはどうつくる
Popln向井雄一氏、ハフィントンポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏、コンデナスト・ジャパン・デジタルビジネス担当副社長・新井良氏、DIGIDAY[日本版]を運営するインフォバーン&メディアジーンCEOの今田素子氏は、ネイティブアドを議論。新井氏は「スマホ時代にはサイトをバナーに割くスペースが限られている。インフィードで掲出されるネイティブアドがディスプレイを補い、ブランド・エンゲージメントを深める」と語る。英国において動画広告配信でCMS(コンテンツ管理システム)を開放する試みがあることを明かした。
今田氏はダイレクトレスポンス型ではなく、ブランディングを行える点がネイティブなどの強みと説明。分散型メディア時代に対し、各プラットフォームに散らばったコンテンツの数値を測定できる手段を提供できると話した。竹下氏は「読者にとっては同じ記事。ブランドそのものを押し出すのではなく、ブランドの大切にしているテーマを訴求すると良い」と指摘する。
Written,Photo by 吉田拓史