「シーセッション」は、女性が職場を去りつつあることを意味し、多様性に関する取り組みを台無しにして、男女平等の問題をリセットしている。その対策として、エージェンシーは、母親や介護者が柔軟に働けるようにしたり、精神衛生問題に取り組んだりする措置を導入し、パンデミックに関連する脆弱な会話用のオープンスペースを設けつつある。今回米DIGIDAYでは「シーセッション」とその対策について、7人の業界幹部や女性に話を聞いた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まって以来、ジェン・ダシルバ氏は叫び声をあげたいと思っていた。
ニューヨーク市を拠点とするクリエイティブエージェンシー、バーリン・キャメロン(Berlin Cameron)のプレジデントとして、ダシルバ氏は、会議と会議の合間に1日中家族の食事を作り、自分がいないあいだに2人の子どもが散らかした部屋を片づけている。そのうえ、世界的なパンデミックのさなかに国中を移動する状況に置かれると、誰でも十分叫び声をあげたくなる。
「ある意味では、子どもたちとずっと家にいられるのは、本当に素晴らしいことだが、大変なことでもある。そういうわけで、ときどき狂ってしまいたくなる」と、ダシルバ氏はロサンゼルスの自宅から語った。
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ダシルバ氏だけではない。パンデミックによるロックダウンとリモートワークに突入して1年が過ぎ、キッチンテーブルはホームオフィスになり、子どもたちは同僚になった。仕事と家庭の線引きがあいまいになった一方で、家事と性別による役割の線引きは明白になり、広告・マーケティング業界の女性たちは、うまく両立させようと苦労している。
昨年、NPRやBuzzFeedのような多くのメディアが、いわゆる「シーセッション(shecession:女性雇用の不況)」につながる家事労働の不平等を浮き彫りにしたレポートを発表した。今回のこの経済不況は、男性よりも女性に大きな影響を与えた史上初のものだという。
これは、滑りやすい坂道のように、先行きの危険性を示している。「シーセッション」は、女性が職場を去りつつあることを意味し、多様性に関する取り組みを台無しにして、男女平等の問題をリセットしている。その対策として、エージェンシーは、母親や介護者が柔軟に働けるようにしたり、精神衛生問題に取り組んだりする措置を導入し、パンデミックに関連する脆弱な会話用のオープンスペースを設けつつある。今回米DIGIDAYでは「シーセッション」とその対策について、7人の業界幹部や女性に話を聞いた。
パンデミックが始まって以来、黒人や褐色人種の従業員、女性など、社会から取り残されたコミュニティが、平等だけでなく公正も求め続けるなかで、多様性とインクルージョンは新たな意味を帯びてきた。そうした叫びが無視されれば、悲惨な結果になりかねないと、ダシルバ氏は心配している。
「女性はまだ、まず第一に世話をする立場だと見られている。それ以上の立場だと大勢が考えていたが、実際にはそうではなかった」と、ダシルバ氏は話す。
万能な解決策はない
ニューヨーク拠点のエージェンシー、バーリン・キャメロン(Berlin Cameron)は、従業員の半数超が女性であり、エージェンシーとクライアントの両サイドで、社会から取り残されたコミュニティの支援に取り組んできた。同社は、女性の職場復帰を支持するビューティーブランドNo7の「アンストッパブル・トゥゲザー(Unstoppable Together)」キャンペーンや、「女性史月間(Women’s History Month)」向けの行動イニシアチブなど、顧客向けにいくつかの女性の地位向上キャンペーンに取り組んできた。
バーリン・キャメロンは一企業として、母親の職場復帰を目指す取り組みの一環で、パートタイムの役割を果たすことを優先した。同社は常にパートタイム職を提供してきたが、ダシルバ氏によると、2020年初めにパンデミックが始まって以来、より多くの従業員がこの機会を利用し始めているという。現在は、週3~4日勤務の4つのパートタイム職がある。
もちろん、万能の解決策はないが、ますます多くのエージェンシーや企業が、人材流出を食い止める解決策を探している。パンデミックの結果、ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)は、育児支援サービスや、大学指導などの家族支援策「ブライト・ホライズンズ(Bright Horizons)」、子どもを夢中にさせる一連のバーチャルクラス「ピュブリシス・スクーリング(Publicis Schooling)」を導入した。マッキニー(McKinney)は、職場復帰を容易にするために、復職した親やその上司とマンツーマンで取り組んでいる。サリエントMG(Salient MG)は、毎週木曜の会議を禁止し、気を取られずに仕事したり、心を落ち着けたりする時間をチームのメンバーに与えた。
アトランタに住むメリッサ・ゴードン氏は、母親として働いていたあいだに少なくとも2度は転職し、ダガー・エージェンシー(Dagger Agency)に落ち着いたという。同社では従業員のおよそ64%が女性だ。
「妊娠したとき、『赤ちゃんがいるこの環境で私の生活はどう見えるだろう、赤ちゃんが2人いた場合は?』と考え、そうした諸々の理由で会社を辞めた」と、同社でクライアントデリバリー&事業担当バイスプレジデントを務めるゴードン氏は話す。
広報担当者によれば、ダガーは、事務用品、健康面での必需品、メンタルヘルスのサブスクリプション、毎週金曜を永続的に半休日にするためのメンタルヘルス手当を導入し、オフィスを月に1日閉鎖して、従業員に有給休暇の利用を促してきたという。
個人から要望があるのを期待するのではなく、会社レベルでこういったリソースを提供するのは、本当に重要な動きだと、ゴードン氏はいう。
「多くの従業員はこの時期、仕事があることにただ感謝しているため、手を挙げて『あれやこれやを行うために余分に月20ドルかかる可能性がある』などとは言いそうにない」と、ゴードン氏は話す。
女性に負担
仕事を持つ母親は、女性とワークライフバランスをめぐる会話において真っ先に話題に上ることが多いが、4Aのプレジデント兼CEOのマーラ・カプロウィッツ氏は、業界のリーダーにインクルーシブな考え方をするよう促している。多くの場合、育児や家事全般、高齢の家族の介護など、家事と世話の負担は女性が背負うと、カプロウィッツ氏は述べ、負担に差があると女性がさらに燃え尽きかねないと指摘した。
「オンラインサイトは(親世代が情報を得ることが)かなり難しいので、ワクチン接種の受け方を知るための手助けをしようとしている人々を、大勢知っている」と、カプロウィッツ氏はいう。それが過ぎても、離れて暮らしているがまだ絶えずチェックが必要な相手の状況を常に把握して、遠くから世話をする場合があると、カプロウィッツ氏は話す。
業界が「シーセッション」問題と働く女性の燃え尽き症候群の解決に取り組むなか、エコシステムのどの部分(個人か職場か)が責任を負うべきかという疑問も、まだ残っている。これについてカプロウィッツ氏は、職場全体がシフトしつつあり、柔軟性とワークライフバランスを支える業界全体の総合的な取り組みが必要だという。
今は、こうした新しい働き方を見直すチャンスだと、カプロウィッツ氏は説く。また、オフィスに行くという物理的障壁がないため、いくつかの障壁を元に戻す新たな機会でもあると、カプロウィッツ氏はいう。
「これは、行われる必要がある重要な会話だ。人々がサバイバルモードに入っていたので、こうした会話は、長期にわたって棚上げされていた」と、カプロウィッツ氏は語った。
[原文:Pandemic ‘shecession’: Advertising industry grapples with women’s work-life balance]
KIMEKO MCCOY(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:長田真)