「広告業界は、容赦なくつらい労働の毎日」:エージェンシーに労組が必要な理由

「(米国における)エージェンシーの労働組合は、どこかにひとつできると、残りも作りやすくなる」。業界ごとのメッセージボードアプリ「フィッシュボウル(Fishbowl)」に2週間前、あるストラテジストがそう書き込んだ。

フィッシュボウルが用意した労組結成とエージェンシーに関する質疑セッションのなかでのコメントだが、エージェンシー全般に労組が結成されないのはなぜか? というのは、興味深い問いだ。ストラテジスト、クリエイティブディレクター、プロジェクトマネージャー、アートディレクター、デジタルメディアプランナー、プロデューサーなど、エージェンシーのさまざまな役割の従業員が参加したこのセッションでは、4年前にゴーカー(Gawker)で労組を組織したスプリンター(Splinter)のシニアライター、ハミルトン・ノーラン氏などが質問に答えていった。

クリエイティブへの影響は? ピッチへの影響は? エージェンシーに労組ができるとインハウス化が進むのか? 労組を理由にエージェンシーが従業員を解雇するのでは? 質問と関心はさまざまだった。ひとつ明らかになったことがある。エージェンシーで労組結成の関心が高まっているようだということだ。あるアートディレクターは「とても話題になっている」と短くまとめた。

関心も当然で、長時間労働、サービス残業、燃え尽き症候群多様性とインクルージョン育児休暇など、エージェンシーの社風は問題が山積している。米DIGIDAYがエージェンシーの従業員を対象に行った最近の調査では、精神衛生を心配している人が32%、ハラスメントを受けた経験がある人が33%、差別された経験がある人が39%(男性より女性が多い)、人種が理由で差別された経験がある人が21%、年齢差別を受けた経験がある人が54%となっている。

労組結成が問われるようになっているのは、最近だとVoxやBuzzfeedというように、デジタルメディア企業で近年、労組の話がスタッフに広がっているからというものある。しかし、労組があるのはデジタルメディアだけではない。エンターテインメントなど、エージェンシーと隣接するほかのクリエイティブ業界には、ずっと前から労組がある。なのに、エージェンシーは、労組がないところが大半だ。労組結成のうわさを聞いたことがないとしたエージェンシーが2社あったが、労組への関心の話が、同僚間のおしゃべりから人事部や経営陣にまで広がっていないということなのかはよくわからない。労組がない理由はいろいろある。米DIGIDAYがインタビューした幹部たちは、全体的な無関心と激しい競争が理由で労組が実現しないのだと語った。

エージェンシーにコメントを求めたところ、IPG、ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)、オムニコム(Omnicom)からは返事がなかった。ドローガ5(Droga5)、ワイデ・アンド・ケネディ(Wieden+Kennedy)、ヴェイナーメディア(VaynerMedia)など独立系エージェンシーの多くは、この記事のためのコメントを断った。

WPPはコメントの求めに対し、同社の年次レポートを見るようにいった。このレポートでWPPは、「労組への参加と団体交渉の権利を支持しているが、この業界は労組への加入率が相対的に低い」としている。

WPPでは2018年、労組に加入するか労働協約に適用されるかしている従業員は約7%だった(2017年は8%)。

WPP以外の持株会社で、年次レポートで労組への言及があるのはピュブリシスだけだった。「労組と結んだ3年間の利益分配契約」に基づき、「2018年はフランスのグループ従業員は全員、ボーナスを受け取った」と記されていた。

ストロベリーフロッグ(StrawberryFrog)のCEOであるスコット・グッドソン氏は、メールで次のように語った。「外部から見ると、広告業界は容赦なく、つらい労働の毎日だと見えるかもしれない。従業員は時間も予算もぎりぎりを目指すしかない。サービス残業が普通で、産休は存在せず、休暇の取得は、完全禁止ではない場合も眉をひそめられる」。

課題があるのはエージェンシーだけではない

エージェンシーが直面する課題はいろいろあるだろうが、全般的には、労組がもっと一般的なほかのクリエイティブ業界と似たり寄ったりだ。

論点は、エージェンシー従業員の諸問題は団体交渉によって解決する可能性があり、少なくとも団体交渉は問題解決に取り組む手段にはなるということだ。エージェンシーの従業員は雇用側と労働協約を交渉するなかで、求めているような労働環境を構築していける。

「広告業界はジャーナリズムと違って、伝統的に労組が結成されてこなかった。こんなに時間がかかっているのは、それが理由なのかもしれない」と、ノーラン氏は述べている。「エージェンシーは構造を見ると、メディア企業と大して変わらない。クリエイティブ担当者、ライター、グラフィックの人、ビジネスの人、テクノロジーの人がいる。とても共通している。やった人がいないという点を除けば、できない理由は本当にまったくないのだ」。

理由はさまざまだ。トップクラスのクリエイティブショップのあるエージェンシークリエイティブディレクターは、団体交渉をするにはあまりに変化が多く、我が強く傲慢なのだと語った。また、エージェンシーはクリエイティブ間の競争を強要しているところが多いからと、内部の競争的な雰囲気を指摘する声もあった。

アメリカ広告業協会のような既存の業界団体で十分という従業員もいると考える元コピーライターもいた。

パブリッシャーでの経験もある元エージェンシーCEOによると、エージェンシーの従業員はひとりよがりなのだという。「(エージェンシーに労組ができる可能性については)避けられないようだ」と同氏は語る。「仕事の安定がほとんどないなか、長時間、熱心に働いている人が多い。それなりに筋が通っている」。

ノーラン氏は米DIGIDAYに、「給料のいい専門職で、組合が自分たちのためになることを理解している賢い人はたくさんいる」と語った。「労組は従業員で成り立っているので、従業員から求められていることしかやらない。従業員が組合を構成するのだ。労働協約でルールになるのは、要求しようと皆が決めたことだけだ」と同氏はいう。

大きく考えれば、エージェンシーの従業員とエージェンシーの双方に恩恵があるのかもしれない。タリー・リンキー(Tully Rinkey)の雇用問題の担当弁護士、ニコラス・デブヤツキン氏は、「職場に労組があると、協約に組み込まれることで、年金ができたり、年金と健康管理がよくなったり、支払いが安定したりする可能性がずっと高くなる」と語る。雇用側は、決めるのに外部の声への対処が必要になるのを嫌がり、労働者が組合を作ることを歓迎しないだろうが、職場の忠誠の向上、離職の減少、離職コスト面の節約など、雇用側にも恩恵はあるかもしれないと同氏は語る。

デジタルメディアに広がる労組への加入

米国の労組の組織状況は60年前の普及水準にはほど遠いが、デジタルメディアでは関心が高まっている。米国労働省労働統計局によると、2018年、米国の賃金労働者の労組加入率は10.5%で、2017年から0.2ポイントの減少だった。一方、米DIGIDAYが2018年12月に報じたように、アート、デザイン、エンターテインメント、メディアの労働者の労組加入率は、2016年に6%だったのが、2018年には6.8%になり増加している。

メディアとの比較は完璧なものではない。プリントメディアは労組に約80年の歴史があるのに対し、デジタルメディアは、組合への関心が高まったのがこの数年だ。広告業界の従業員についていえば、まるでなにもない。

ビジネスモデルが労組結成を複雑にしている可能性

あるコンサルティング会社のCEOは、エージェンシーの従業員の労組には、エージェンシーのビジネスモデルゆえの難しさがあるのではないかと主張した。「まだないことには驚いた。でも、やり方を編み出すのが困難なのだろう」と、このCEOは話す。

このCEOの説明によると、法的には、独占禁止法によって、エージェンシーは集約的な組合をひとつ設けるということができず、エージェンシーごとに労組を作る必要がある。そのため、最近もゼネラル・ミルズ(General Mills)の提案依頼書(RFP)で問題になったように、支払期間の現状に業界が満足していないにもかかわらず、こうした期間の拒否にエージェンシーがまとまって同意することができない。

また、デブヤツキン氏は、エージェンシーはさまざまな仕事にフリーランスを使っているが、フリーランスは米国の全国労働関係法で保護されておらず、これが問題になっている可能性があると語った。「全国労働関係法で保護されていないという意味の法的効果と、労働力の流動性と非定常性が少し高まるという実務上の効果の両方がある」。

労組の結成が、クライアントとエージェンシーとの関係に影響するのではないかという問題もある。AARパートナーズ(AAR Partners)で検索コンサルティングのプレジデントを務めるリサ・コラントゥオーノ氏は、「クライアントとの関係にプラスになる、ということはないのではないか」と述べた。「組合の労働者は、統括者との協調や信頼の意識が減ることが多く、この点では、エージェンシーとクライアントにはマイナスだ」。

エージェンシーの位置づけが不明確

米DIGIDAYがアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)にコメントを求めたところ、俳優の組合であるSAG-AFTRAを案内された。SAG-AFTRAは、コマーシャルの俳優を含む、エンターテインメント分野の出演者の組合だが、担当者は広告エージェンシーの従業員がどこに相当するのかよくわからず、全米脚本家組合に問い合わせるようにいってきた。全米脚本家組合は、この記事のためのコメントを断った。全米通信労組(CWA)にもコメントを求めたが、掲載時までに返事がなかった。

デブヤツキン氏によると、「こうした労働者のためだけの組合というのはない」のだという。

こうした混乱も、エージェンシーに組合がない理由のひとつなのかもしれない。いずれにせよ、業界は急速に変わっており、そのことが従業員の文化に影響していくだろう。

「業界はふたつの陣営に分かれつつある」とグッドソン氏。「クリエイティブを安価に提供するコモディティプロダクトと、コンサルタント水準のプレミアムプロダクトがある。前者は広告の機械製造につながる。これが将来、労組の新たな環境を作り出すかもしれないし、おそらく、AI制作の広告を投入して人間の仕事をなくす企業には大きな反発があるだろう」と、同氏は語った。

Kristina Monllos (原文 / 訳:ガリレオ)