大手ブランドたちが広告に関して、エージェンシーではなくコンサルティング企業を使いはじめているというニュースが話題となっている。しかし、シニアマーケターたちの実際の計画を聞くと、それはまだ現実にはなっていないようだ。少なくともいまのところは。
大手ブランドたちが広告に関して、エージェンシーではなくコンサルティング企業を使いはじめているというニュースが話題となっている。しかし、シニアマーケターたちの実際の計画を聞くと、それはまだ現実にはなっていないようだ。少なくともいまのところは。ペルノ・リカール(Pernod Ricard)、日産(Nissan)、そしてビザ(Visa)といったブランドのマーケターたちは、新しいマーケティングモデルを探している途中であり、その早い段階でアクセンチュア(Accenture)やデロイト(Deloitte)といった企業をどうやって使えるのか、そもそもなぜ彼らを使うべきなのか確信を持てていない。
ブランドたちの現状認識
アクセンチュアやデロイトといったコンサルティング企業が、エージェンシーを次から次に買収している状況を考えると、ブランドたちがまだ踏み切っていない、この状況は少し意外に思える。クライアントとエージェンシーの関係が緊張したものになっている昨今において、大手グローバル案件に関わっているコンサルティング企業は、それほど多くないことは業界について何かを物語っているように思える。最近ではマクドナルドが、コンサルティング企業キャップジェミニ(Capgemini)をデジタル顧客マーケティングに起用したが、これもピュブリシスグループ(Publicis Groupe)が所有するマーケティング企業ピュブリシスサピエント(Publicis.Sapient)のサポートがあって実現したことだ。
マクドナルドのようなブランドはエージェンシーに対する理解は深くとも、コンサルティング企業への理解はまだ同程度とはいえない。そのため彼らを起用することはリスクを伴っていた。こういったパートナーシップがどうビジネスに貢献するのか、マーケターたちのあいだにおける懸念や、ときには混乱は、9月に開催されたデジタル業界カンファレンス「dmexco」で垣間見ることができた。
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コンサルティング企業が多くカンファレンスに参加していることについて、VISAの最高ブランドイノベーション責任者であるクリス・カーティン氏は驚いているようだった。「(コンサル企業が)いることには気づいた。けれど特に彼らについて考えてることはない。会場を歩いているときに、コンサルティング企業がメディア・広告事業にどんどんと入ってきていると誰かが言っていたが、それは聞いたことがなかった」と米DIGIDAYに語ってくれた。
コンサルたちの言い分
デロイトデジタル(Deloitte Digital)の最高マーケティング責任者であるアリシア・ハッチ氏によると、デロイトがまだ答えを見つけられていない「コンサルティング企業がこの業界でどのような役割を担うか」という問いがあるという。多くのエージェンシーを買収したあとでも、広告案件に割り込んで行くのは難しいと彼女は言う。その代わりに、アクネ(Acne)やマーケットグラビティ(Market Gravity)といったデロイトが買収したエージェンシーに、すでにデロイトがコンサルティング業務で雇われているクライアントからの広告案件が回ってくるように働きかけている。これはライバルであるアクセンチュア・インタラクティブ(Accenture Interactive)が、所有しているクリエイティブ、カーマラマ(Karmarama)を通して、ブランドのCMOたちに働きかけているのと同様だ。
広告業務に入り込めていないのは、マーケティングの問題であると同時に、オペレーションの問題でもあるとデロイトは考えている。dmexcoではメインホールに大きなブースを展開していたが、これはマーケターたちが持っている印象を変えるためだ。9月にニューヨークで開催されたアドバタイジングウィーク(Advertising Week)のイベントでも、エグゼクティブたちがパネルとして出席し、存在感を見せていた。ブランドたちに、その存在を知ってもらうためだ。デロイトが有するデロイト・ユニバーシティ(Deloitte University)では、彼らのエージェンシーができることについてクライアントがより理解できるように、CMO向けのプログラムも開講している。
デロイト・デジタルやアクセンチュア・インタラクティブが強みとして売り込んでいるのは、クライアントのマーケティングチームにおける盲点を見つけること、現存する戦略を批判的に捉えてクリエイティブ、ストラテジスト、テクノロジーをひとつの目標を共有するチームとして作り上げる能力だ。
そしてコンサルティング企業は、こういった目標エージェンシーとともに達成することができると主張する。しかしおそらく、クライアントが支払う金額に対してより広い、価値あるスキルをマーケターたちに提供できるとも主張するだろう。
やはり人材育成がカギ
日産アフリカ、中東、インドのデジタルマーケティング部門ゼネラルマネジャーであるフセイン・ダジャーニ氏は「コンサルティング企業は広告エージェンシーやメディアエージェンシーと競合しようとしているわけではない」と語る。「彼らは競合して、GoogleやFacebookといった機能を補完するためにいるわけではない。TVコミュニケーションに興味を持っているわけではない。バックエンド側の案件を欲しがっている。フロントエンドではない」。
彼らのスタンスが明確になったとしても、自分たちの仕事が変わることに対してマーケターからの抵抗は生まれるだろう。それはまさにペルノ・リカールで起きたことだ。
ペルノ・リカールのグローバルメディアハブの責任者であるシバウト・ポータル氏は、ここ数カ月間、コンサルティング企業とミーティングを重ねてきた。ペルノ・リカールはデジタルマーケティング機能をできる限り自社内に取り込んでいくという計画に3年間取り組んできており、現時点ではコンサルティング企業とのパートナーシップには対応できないとポータル氏は考えている。エージェンシーとは異なるプロキュアメントや報酬プロセスをコンサルティング企業は持っている。さらにコンサルティング企業が提供するホールディンググループ用ソリューションは、多くの企業が欲しがっているものの、それマネージメントするためにはクライアントCMO側に「ビジネス的なインテリジェンス」が必要とされる。ただそれを渡されても、いきなりは使いこなせないからだと、ハッチ氏は説明する。
「コンサルティング企業を使うことは現時点では我々の優先事項ではない。ペルノ・リカールの組織はデジタルを加速したいと考えている。それはつまり社内の人材を育成する業務がたくさんあるということだ。それをまずは達成しないといけない」と、ポータル氏は言う。
ブランドとの意識のズレ
新しい、成長中のマーケットを狙うことは、コンサルティング企業がマーケティング業務に入り込んで行くために有効かもしれない。アクセンチュア・インタラクティブはワンダーマンブラジル(Wunderman Brazil)の元プレジデントであるエドゥアルド・ビクード氏を雇った。これは同社がラテン・アメリカ地域に入って行こうとしていることを示唆している。こういった地域への投資はもっと必要とされていると、ダジャーニ氏は語った。特にほかの地域よりも中東地域へのコンサルティング企業の参入を是非期待したいとのことだ。
ダジャーニ氏はこの夏に日産に入ってきた。以降、従来のマーケティングモデルの外側で将来パートナーシップを持つかもしれない企業を見つけることに取り組んできている。「コンサルティング企業はここ(アフリカ、中東、アジア)に人材を持ってはいるものの、本当に必要なスキルを持った人材は、この地域には来ない。私にとっては米国のアクセンチュアチームと会話をすることは、地元のチームとミーティングをするよりも有益だ。[コンサルタントは]中東を非常に重要な地域だとして捉えていないことは奇妙だ」と、彼は語った。
Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)
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