デジタルマーケティング業界でも海外進出が本格的に検討されている。主要な投資候補のひとつはアジアだ。日本よりモバイルファーストでデジタルネイティブな中国、群雄割拠の東南アジア、巨大な潜在性を秘めるインドと各地域とも魅力的だ。8月23日に上智大学で開かれたAdtech Tokyo Internationalの内容をまとめた。
日本企業がグローバル展開する際には、その国のデジタルマーケティングの理解が重要だ。日本企業にとって主要な投資候補は常にアジア。日本よりモバイルファーストな中国、断片化した東南アジア、巨大な潜在性を秘めるインドと各地域とも魅力的だ。8月23日に上智大学で開かれたAdtech Tokyo Internationalの内容をまとめた。
■中国:EC比率高いモバイル先進国
電通イージス・ネットワークのIsobar (アイソバー)アジア太平洋CEO、ジェーン・リンバーデン氏は中国では外国企業が独自に流通網を築くのが難しい、と語った。「大都市になればなるほど、購買行動におけるEC(電子商取引)への依存が増えており、アリババ(阿里巴巴集団)のようなECジャイアントと協力するべきだ」。中国人は「越境EC」で日本製品を大量に購入している。ECがもっとも盛り上がる「光棍節」(独身の日)セールで、アリババは昨年、総取引額912億元(約1兆3680億円)を達成した。
中国人のインターネット接続のほとんどがモバイルを活用。WeChat(微信)による決済など、バンキングもスマホ経由の傾向があると語った。
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チャイナ・インターネット・ネットワーク・インフォメーション・センターによると、中国のネット接続者7億1000万人、そのうちモバイルによるネット接続が6億5600万人。モバイルによるネット接続者のうち64.7%(4億2450万人)がモバイルペイメントを利用している。
リンバーデン氏は「モバイルコマースは通常のオンラインコマースの3倍ほど意思決定が速い。中国でも人やモノのインターネット接続の傾向が高まっており、豊富なデータが約束されている。クレジットカードのトランザクションデータにより、データの巨人であるBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)に頼らずともデータインサイトが手に入る」と語った。
■東南アジア:さまざまな国によるダイナミックな成長
Facebookシンガポールの菊池勇太氏は東南アジアのGDPはブラジル、ロシア、インドよりも大きいと指摘。1人あたりGDP(国内総生産)だとシンガポールが突き抜けており、日本の1.5倍程度。インターネット利用率はシンガポールを除くと全人口の5割以下であり、インドネシアは3割程度と指摘した。Facebookは地域に残る2G環境に対応した簡易版「Facebook Lite」を提供。Facebookユーザーのほとんどがモバイルから利用することを指摘した。
一人あたりGDPで東南アジアの他国を突き放し、日本の1.5倍程度の規模をもつシンガポール Souce:世銀
しかし、デジタル・メディアパートナーズ・インベストメントのジェネラル・パートナー、ドゥミトリー・レヴィット氏はインドネシアの首都ジャカルタでは、ほとんどの人にスマホが行き渡っている現実があり、1人で5つのSimカードを利用することが一般的だ、と指摘。ジャカルタでは国営通信テレコムセルによる4Gが普及しているが、市場のマジョリティはAppleでもサムスンでもなく地元ベンダー(フォックスコン製スマホ)、OPPOなどが握っている。スマホのパフォーマンスが富裕国に比べ低いため、マーケティング手段に制約がかかると語った。「東南アジアではひとつのデータを手にしたとき、別のソースに当たることを薦める。この地域では長期的利益を重視することが重要だ」と語った。
インフルエンサーマーケティング企業ウィズフルエンス(Withfluence)CEOの岡本博之氏はインフルエンサー・マーケティングの効果が東南アジア諸国は他地域に比べて高いと語った。東南アジアのソーシャル利用は他地域に比べて活発であり、タイ・バンコク中心部のサイアムデパートが東南アジア最大のインスタグラムのチェックインポイントだと指摘している。
東南アジア最大級のユニコーンGarena(ガレナ:評価額40億ドル[約4000億円])の子会社、ショッピー(Shopee)にも話が及んだ。ショッピーはP2Pマーケットプレイスで、楽天のようなサービス。アパレル・コスメなどの中小企業がショッピーでの販売に投資し、手数料などを抑えることで、最近東南アジア圏で急速に拡大している。
■インド:ネット接続の急拡大、高い潜在性
インドのセッションでは大きな潜在性が指摘された。アイレップのグローバルビジネスストラテジーディヴィジョン・チームマネジャーのシュリー・マリック氏は、インドはネット人口が目下急成長中であり、デジタル広告市場には巨大な潜在性がある状態だ、と語った。「アンドロイドが市場のほとんどを握り、使用されるスマートデバイスの質が低いことを考慮にいれないといけない」と語った。
アドテク企業ゼド(ZEDO)のロイ・デ・ソウザ氏は「デジタル広告のトレンドである動画が実現するには、Wi-Fi環境の整備とデバイスの室の向上が必要だ」と指摘。アドテク企業シルバープッシュ(Silver Push)CEOのヒテシュ・チャウラ氏は「インドのモバイル利用者数は急増しており、モバイルのトラフィックは大きいがモバイル広告市場はまだ小さいのが現状だ」と語っている。
Text by 吉田拓史
Photo by Thinkstock